20卒業公演『辞す・飛んでやるもん』後編 | こじにずむ日記

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千葉大学演劇部 劇団個人主義のブログです
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こう‐へん【後編・後篇】 

〘名〙 書物などで、二編または三編に分かれたもののうちの後の編。残されたもの。

 

 

人生を物語と捉えて、自分を主人公に例える、といったものの考え方は、今となってはポピュラーで、説明するまでもないと思います。そのように考えるからこそ、我々は明日に希望を抱き、今日の苦労を乗り越えられる、ということも少なくありません。

そういう意味だけでも、この世界は物語に溢れていると思います。私には私が主人公の物語がありますし、あなたにはあなたが主人公の物語があるのです。

そして、我々は日々の関わり合い、コミュニケーションの中でお互いの物語に出演していると言えます。

毎日人を運ぶタクシードライバーの物語に無愛想な客として出演する私、一方で私の物語には失恋中でほっといて欲しいのにズカズカ話しかけてくるおっさんとして出演するドライバー。そんな感じです。ドライバーの皆さん、話しかけないでください。

 

そんなわけで、もりもり前中後編

スタートです。

 

 

 

2020年、私の物語は、演劇部に入った新人として始まりました。

私はその、中学や高校で演劇部に属していたわけではないので、この入部が真の意味で物語の始まりだったわけですが、

バスケ漫画のスラムダンクがバスケのルールを学ぶところから始まるように、物語の序盤は、演劇についてを知る時間として多くをかけました。

知る、ということは教えてくれた人がいるわけで、それは先輩と会う方々になります。

言葉であったり、背中であったり、そこから学ばせてもらったわけです。

そうして過ごしていくうち、月日は経ち、

後輩というものができるところまで、物語は進みます。

「先輩は先輩として、後輩は後輩として、召喚される。それが後輩になったり、先輩になったりということは、絶対にない」

ので、当然この先輩後輩は別人ですから、私の物語は以降、先輩と後輩に挟まれて進んでいきます。生きとし生けるもの皆そうであろうが、とお思いかもしれませんが、私は、そうなのです。とにかく、私の物語は以降、先輩と後輩の間で展開されていきます。それは、時間が経ち先輩が卒業し、自分が卒業する今となっても変わりません。

 

 

 

自分は、生を受けたときには既に、なんというか、歳をとっていたので、自分たち、というよりは、これからの時代、ひいては若い世代のことを考える必要があった。50、60といった年齢の方が国会に集まって、教育無償化について議論するようなものである。

当初は「なんで自分たちがこんなことを」という話も上がったが、自分はなんとなく、そういうものだと思っていたので、抵抗はなく、積極的に後生のために動いた。例えば、ルールや仕組みをわかりやすく文書にしたり、実践トレーニングをしてみたり、部屋が寒くないように設備を整えたり、そんな感じだ。

「当初は」と書いたのにも意味があって、後代のための活動に批判的だった人たちもなんだかんだ後代のために動いてくれている。というよりかは、自分たちの活動を全力で行う姿をまま見せることもまた、後代のためになっていたのだ。これは自分にはない視点だった。とにかく、そんなこんなで、自分たちは近いうち、卒業を迎える。

 

 

 

「うおーっ寒い」

冷たいドアノブから手を離し、上着を脱ぎながら邦基は震えた。

火のついた暖炉に手をやる。

「今年は暖冬だ」と先輩が言っていたのを信じていたが、あの先輩のことなので、また嘘だったのかもしれないなと座り込んだ。

床にも熱が伝わっており、温かい。

ここに来た当初はなぜこんなところに暖炉があるんだ、と思ったものである。

その先輩が言うには「この火は私の上の代からあってな。しかも、一度も消えていないんだ。丁度よかったから暖炉にした」だそうだが、それもきっと嘘だろう。大体、夏はどうするんだ。

考えるのも馬鹿らしくて笑った。

 

そんな嘘つきの先輩も、先日をもって卒業した。

世話になったといえば世話になったが、苦労をかけさせられたことも多い。心の底から感謝できるところなんて、この暖炉くらいだ。

今一度暖炉に目をやると火が弱くなっていることに気づいた。

「薪はどこだったかな」

整理されていない棚周りを漁る。薪の入った段ボールを引っ張り出した。

段ボールの表面に太く油性の字が書いてあるのには、すぐに気づく。

書いてから数年といったところで、かすれてはいるが、十分読める。

 

『辞す・飛んでやるもん

   己が我儘にて 篝火を暖炉とす』

 

こんなところにも落書きしていたのか。

というか、そのまんまじゃないか。

段ボールを開け、薪を取り出す。

1番上に置かれた薪に紙が貼ってあるのも、すぐに気づいた。

細かいところに気づく自分に感心しつつ、紙を手に取ると、案の定文字が書いてあった。

 

『誰が為の 後編か』

 

これはどうやら最近書かれた字のようだ。

誰がための後編か。

「俺か? まさか」

邦基は首を振らずにいられない。

 

 

 

 

以下、公演情報です。 

 

劇団個人主義 2020年度入学生卒業公演

『辞す・飛んでやるもん』 

会場:両国BEAR

公演日程

・2/24(土) 開演13:30(開場13:00)

・2/24(土) 開演18:30(開場18:00)

・2/25(日) 開演11:00(開場10:30)

・2/25(日) 開演14:30(開場14:00)

 

※本公演は当日観劇のみとなります。ご来場には予約が必要です。

 

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※会場の席数の関係上、予定より早く締め切る場合がございます。観劇をご希望の方はお早めにお申し込みください。 

 

 

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ありがとうございました。

それでは。また。

火と春風と、少しの安堵と、妖怪少女。