ある日の真田幸村2 | こはにわ歴史堂のブログ

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朝日放送コヤブ歴史堂のスピンオフ。こはにわの休日の、楽しい歴史のお話です。ゆっくりじっくり読んでください。

 お呼びでございますか。

家康の参謀をつとめる本多正純が呼び出された。

 あほぅどもが、真田丸一つに手を焼いておる。
 なんとか手立てを考えよ。

 大筒(大砲のこと)を南蛮人どもより手配いたしております。
 これにて本丸を撃たせようと存じますが…

 ん? 本丸を? 真田丸ではなく?
 遠すぎて命中せぬぞ。だいたい音だけが大きくて、さほど効果があるとは…

やや不満そうな家康を前に、正純はにんまりと笑い、

 その、音だけ、が重要なのでございます。

幸村は、少なくとも、この戦いだけは勝利を確信できた。
天下の名城を背景に、自ら設計した真田丸によって、当代随一の武将徳川家康に、わずかな兵力で相対し、五分どころか勝とうとしている…
それは単なる一局面の勝利にしかすぎないが、男子としてこれほど痛快なことはない。

幸村は、戦術家という名の「芸術家」であった。彼の戦さは、もはや“芸”といってよい。
戦さは彼にとっては一つの作品であったのだ。

と、そのとき、大砲の巨大な音が大坂平野に響き渡った。

幸村は、はっと空を見上げた。
砲弾は、はるか頭上をこえて本丸のほうへと飛んでゆき、天守閣からは大きくそれて着弾した。
さらに二発、さらに三発と続いて大砲の音が響く…

 ふんっ ムダなことよ。
 そんなコケおどしに臆するのは、おんな子どもだけよ。

しかし…
幸村は重要なことを忘れていた。
大坂城の支配者は、その「おんな」と「子ども」であったのだ。

 修理(しゅり)! 修理を呼びゃれ! 和議じゃ! 和議じゃ!
 もう戦さは終わりにしやれ!

淀殿のヒステリックな声が本丸御殿に響き渡った。近くに大砲の弾が落ちるたび、地響きとともに御殿は大きく揺れ、そのつど、女たちの悲鳴がした。

 また始まったか…

淀殿に呼びつけられた大野治長は、平伏しながら頭を悩ませていた。
眼前の淀殿は完全に錯乱していた。

 こうなっては誰も手がつけられぬ…

なんとまったくバカげた話ではあるが、大砲の音に恐れおののき、和議をするハメになってしまったのである。

(次回に続く)