和泉式部と貴船神社 | こはにわ歴史堂のブログ

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朝日放送コヤブ歴史堂のスピンオフ。こはにわの休日の、楽しい歴史のお話です。ゆっくりじっくり読んでください。

初代天皇は神武天皇…
その曾祖父にあらせられる御方はニニギノミコトです。
ニニギノミコトは、妻を娶ろうとしました。その相手とは、コノハナサクヤヒメ。

 この花咲くや姫… とは、またなんとお美しいお名前か。お名前だけではなく、実は見た目もかなり美しい…

 父のオオヤマツミノミコトは、「あの… 姉のほう、どうかな…」と姉のイワナガヒメを薦めました。まぁ、順番からいえばお姉さんから、ですよね。

 ところがニニギノミコトは断ります。

「いや、コノハナサクヤヒメでおねがいします。」
「あ、そ… いやまぁ、ね…」

 どうやらニニギノミコトはイワナガヒメは気に入らなかったみたいで…
 断られたイワナガヒメは、そのことを恥じ入り、

「わたしはこの地にとどまりて、わたしのように結婚できない女性があらわれないように、人々の良縁を結ぶことにしますっ」

 と、貴船に鎮座ましますことになりました。

 お~ なんと素晴らしい女神さま! ふつうならば、いじけて逆に、カップルの縁裂いたるっ! となってもおかしくないのに… なんと心優しいことか…

 以来、貴船神社は失恋した女性を癒し、次なる良縁を結んでくださる“縁結びパワースポット”となりました。

 番組でとりあげた『古今著聞集』では、かなり俗な(あやしげな祈禱をする)神社の様子が書かれていますが、実際はそんなことはもちろんありません。
 由緒正しき、古来からの“恋を祈る神”がおわす神社なのです。

 和泉式部が貴船神社に参拝したのは事実です。不仲になった藤原保昌との間を回復しようと、歌に託して神さまに託しました。

 男に忘れさられて侍りけるころ貴船に参りて
 みたらし川に蛍の飛びけるを見て詠める

 と、『後拾遺和歌集』には記されています。で、詠んだ歌がこれ。

 ものおもへば 沢の蛍もわが身より
 あくがれいづる
 魂かとぞみる

 あれこれ悩んでここまで参りました。
 すると、蛍が川一面にとんでいるではありませんか。
 その光のはかないことといったら…
 まるで私の魂が抜け出て飛んでいるかのようです。

 するとなんとなんと、神さまが返歌をなさった、と、和泉式部は言うのです。

 おく山に たぎりて落つる滝つ瀬の
 玉ちるばかり
 ものな思ひそ

 奥山でしぶきをあげて飛び散る滝の水玉のように
 (魂が飛び散る、つまり、死ぬかと思うほど)
 そんなに深く考えるな

 ああ神さま! たしかに神さまのお声が!

 この歌は貴船の明神のお返しなり
 男の声にて和泉式部が耳に聞こえけるとなむいひ伝えたる

 『古今著聞集』では、変な儀式を拒む和泉式部をみて、物陰から見ていた藤原保昌が飛び出してくる、という話になっていますが…

 これ、ひょっとしたら半分ほんとのことだったのかもしれません。

 貴船の神は男の神さまではありません。

 貴船神社にお参りにいく和泉式部。
 切ない恋心を歌に詠む…
 それをそっと追いかけてきて、物陰からみていた藤原保昌。
 和泉式部の歌から彼女のせつない気持ちを知る…

 「深く考えるな。すまん。わたしがわるかったのだ。」

 と、出てきたのだとしたらどうでしょう。

 和泉式部に返歌した“男の神”とは、藤原保昌だったのかもしれません。