第 11 章 應暉(6)
家に戻ると既に早朝の二時。
默笙は酔っぱらって寝ると逆に大人しくなるようで、掛け布団の中で縮こまりじっとしてまだ彼が出かける前の寝姿そのままで、以琛は静かに靴を脱ぐとベットに潜り込み彼女を抱き寄せる。
彼女は動き出し、すぐに新しい姿勢に順応して眉に皺をよせる。以琛は腕を緩めると彼女の眉根の皺を改めて伸ばすと
鼻間には彼女の香りが充分に満ち足りて以琛が低い声で言う
「これからは君に酒を飲ませないからな」
彼女は抗議もせずにぐっすりと眠っているようだ。
以琛は結局、寝入ることが出来ない
目を開けると四時が過ぎ、ため息を吐いて起き上がると書斎へと行く。
やっていないたくさんの仕事がまだあってその上、明日いや既に今日の朝に必要な開廷の資料がまだ全て整理できていない。
以琛について言えば本当に付け焼刃の経験・・・
夜明け前に忙しい
以琛はくたびれて眠くなり目を閉じて眉根をもんで再び目を開いた時、書斎の入り口に立って自分を見ている默笙が目に入る
「以琛、ずっと寝なかったの?」
默笙は彼に尋ねて唇を咬む。
これは彼女が緊張した時の仕草だと以琛ははっきりとわかっている
「おいで」
彼は招き寄せる。
彼女が近くにやって来るのを待って以琛は彼女を自身の膝の上にのせて胸に抱き寄せる
「目が覚めたのか?飲み過ぎて眠ってしまう人を見たことがない」
「えっ?」默笙は彼の態度に惑わされて、何も考えずに問い返す
「何をするの?」
「有意義なことをする・・・」
言うと彼は頭を下げて彼女の柔らかい唇を覆った。
默笙が息を切らして彼の胸の中に伏せるのを待って、以琛は沈黙してから言う
「夕べ、出かけて應暉に会って来た」
胸の中の身体は急に堅くなる
「彼は俺に言った。かつてある人が検索エンジンで俺の名前を検索していたと。俺はその人に聞きたい・・・彼女は何を探し求めていた?」
默笙の答えはなく、以琛は話を続ける
「ついさっき君の名前を検索したら、默笙が撮影賞を受賞したのを発見した。君は今まで言わなかった」
「大して有名な賞でもないし・・・あなたも聞かなかったから」
默笙は小さい声で言う。
以琛はため息を吐いてから彼女を抱きしめ
「すまない。これは俺の過ちだ」少し時間をおいてから
「默笙、今俺に教えてくれないか。君は何をしていたんだ?」
「アメリカで?」
「ああ」
こんな優しい何以琛はたとえ七年前の大学で一番仲の良かった時でさえも默笙は経験したことがなく、そっと優しく尋ねる言葉はいとも簡単に彼女の数年にわたる全ての辛かった思いを呼び起させ、默笙はアメリカで遭遇したことを話し始めた。
アメリカに着いたばかりの頃は英語が喋れなかった話し
道路標識を見てもわからなくて道に迷った結果、どんどん遠くに離れてしまったこと
英語の講義がどれくらい嫌だったか
外国人のおかしな習慣の話し
それからあれらの不味い食べ物・・・
彼女は或るブランドのインスタントラーメンがどれくらい不味いかを重点に説明をした。
「どうして他の物を食べなかった?」
「他は全て高くて、その頃の私はとても貧しかったの」
「君のお父さんは君にお金を渡さなかったのか?」
これは以琛が初めて穏やかな口調で默笙の父親について話したこと。
默笙は彼の表情を見てから話し続ける
「あったの、たくさんのお金。初めはびっくりしてその後新聞を見てやっと知ったの・・・それですぐにそのお金は大使館に送った」
「じゃあ、その大使館は※表揚信を書いて君に与えなかった?」
「私は名前を残さなかったし、第一回の大献金の中で送ったことで実のところ私には何の高尚な思いもなかった・・・」
ただどうしても命と引き換えにしたお金を平然と使いようがなくて、それに人を欺き自らを欺く感じがして、そのお金がなかったら父が死なずに済んで何も起こらなかった気がした。
「ああ、默笙は賢いな。それからは?」
「それから・・・」
默笙はある日必ず以琛とこれらの事を話すつもりでいたが、彼女にはこのようになるとは思いもしなかった。
少しも重々しい気分はなく、まるでありふれた雑談に過ぎないようにそれらかつて彼女を辛くさせた経験が一夜のうちに遠ざかった気がした。
会話は次第に少なくなり
空は明るくなり出した
「以琛、私はちっとも辛くなかった。
私はこのことを言葉に出して言うことが辛かったんだと思う・・・」
以琛がそっと言う
「君には俺がいる」
默笙の声はなく、頭は彼の胸元に寄りかかったままじっとして動かない
以琛は彼女が寝てしまったのかと思ったが、徐々に彼の胸元が湿っぽくなるのを感じた。
もう月曜日、朝出勤しなければならない。
以琛は初めて準備をしないまま戦いに赴き、裁判所に行くと検察官と裁判官が自分より愚かだと気が付いて、それで皆と一緒に結末がつくのを濁して次回再審することとした。
当事者の親族は以琛が明らかに寝不足な様子なのをみて、彼がこの案件のために精力と思慮の全てを尽くしたと思い、思わず感動して何度も感謝するので以琛は泣いていいのか笑っていいのかわからなかった。
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※表揚信
他人の立派な行為を称賛するために新聞社などに出す投書