第 9 章 恆溫(4)
ベランダでの静けさとは違い、リビングでは早くも袁氏が発表したニュースの事で騒ぎ始め、よりにもよってこの時出てきた黙笙はそこでもう一度、集団の赤裸々な眼差しに驚く。
小高は単純に嫉妬で目の前の女性を見る。
この女性が何弁護士の”好きになったらどうあっても好き”の人なの?
何弁護士が言う、あの騒いだり又面倒を起こしたりする人とは違っている気がする。少なくとも、今そこに立って居ると不安で落着きがないように見える。
「あっ!」美婷が一言軽く叫び
「あなたはあの何弁護士の財布を拾った人よ」
默笙も彼女を見知っているので彼女に向かって微笑んで言う
「こんばんは」
小高はすぐに美婷を捕まえると
「美婷姉さんは内幕を知っているんですか?」
美婷曰く
「以前、彼女の応対をしたの。彼女が何弁護士の財布拾って、財布の中にひょっとすると名詞みたいな証明書があってすぐに事務所を探し当てて返しに来たのよ。彼らはきっとそれで知り合ったんだと思う。それから・・・」
そこで女性特有のイマジネーションを盛り込んで、一つの拾った物を必ず届けたことで更に生まれたラブストーリーが正式に出来上がる。
美婷の声は小さくもないので、周囲の人はみんな精神を集中して興味津々に聞いている。
默笙は茫然として口も開けない。
この美婷は雑誌社に行ってラブストーリーを編集するのに向いている。事務所に引き止めるには実にまあ勿体ない人材である。
「おい!以後は女性の財布を拾ったら必ず戻すぞ」
聞き終わった後にある男性が締めくくる発言をした。
小高は彼に近づいて
「なるほど、恐竜あなたの番だね」
全ての人が大口を開けて笑い出す。
ちょうど以琛と向恆が煙草を吸い終えて戻ってくるといい雰囲気の中で誰かが大声を上げる。
「何弁護士、坦白從寬,抗拒從嚴(罪を認めた者は刑を軽くするが、言い訳をする者は罪を重くする)ですよ」
「沈黙を維持できますが、言った一つ一つの言葉は全て法廷証拠として提供する可能性があります」
何から何までも・・・まさか・・・
将来の法曹界の人全てが香港の警察アクション映画を幼いころから観て大きくなったんじゃあるまい?
以琛は思わず笑い
「わかった。正直に白状しよう。食べながら白状するのはどうだ?」
何弁護士が当然白状するはずもなく、実のところ皆もあまり思い切って問い詰めることはしない。
そこでみんなの戦闘の情熱は飛ぶように速くムッとするほど熱い火鍋に移動して、九時過ぎるまで賑やかに食べてやっと終わった。
默笙は皆の好奇心を持った眼差しから隠れるためにずっと俯いてばくばくと食べていた。
数人の女性同僚を家まで送り届けて戻ってくる以琛を待って、たくさん食べてソファーで少しも動くことさえしない彼女を見つける。
以琛は腹立たしさに加えて可笑しくもある
「君は食べたかったのか?」
ソファーにしがみついている彼女を抱き上げ
「・・・かなり重いな」
以琛は小声で独り言を言う。君は全くどれくらい食べたんだ?
「えっ?何ですって?」
突然しゃべりだし、途端に彼の胸の中に陥落した默笙の反応は少し鈍い。
君は何かを聞き漏らしてないか?
「何でもない」
以琛の声はいきなり擦れる。
なんでもないわけないだろう・・・
その夜、默笙はなんというか”しばしの別れは新婚より素晴らしい”を理解した。
続いての数日、以琛は続々といろんな方面から来る”関心”を受け取る。
最初は裁判所の周氏
「小何、この前君が結婚したと言ったのに私はまた君が口実を探していると思っていたし、それに本当に結婚したとは思わなかったんだよ。これで終わった、君は結婚したんだ。我が家のばあさんは落ち着くことができるぞ。私もそのうちには静かな生活ができる・・・ところで、結婚式の招待状を是非とも忘れずに私に送ってくれよ」
それから検察院の方検察官
「あの日のケンタッキーの人でしょ。へへへ、あの日私は外に出てから見たのよ。あなたの動きがあんなにも素早いとは思いもしなかった。で、結婚式の招待状は何時頃?」
出直して来た共同の李弁護士、等々等々。
以琛は初めて袁氏のニュースをまき散らすスピードを心から敬服する。今、C大を卒業してA都市で司法、立法に携わる全ての人は彼の結婚を知っていると推定できる。
この日の午後に数人の顧客を送り出した後、ソファーに座って動かなくなった袁氏は以琛に尋ねる。
「何時頃、招待するつもりなんだ?」
「来年になったら考えるさ。まだ彼女と話したことがないんだ」
「それは遅すぎるだろう。更に数か月してやっと春節だぞ。学校の創立記念日が過ぎるのを待って似たかよったかで早くやっちまえよ!」
袁氏はとても積極的で楽しく騒ぐのが好きなのだ。
創立記念?
以琛が行事予定表を捲ってみるとやはり”15日 C大百年創立記念”と書いてある。この頃は忙し過ぎてなんとこのことを忘れていた。
「日取りは後で考えよう。その節にはあなたに結婚式の立会人をお願いしたい」
以琛は笑いながら言う。
未だかつて口にしたことはないが、以琛は袁氏に対して真実ずいぶんと感謝している。
もし、袁氏のバックグラウンドと活動能力がなければ、今の何以琛があるとは限らない。
「結婚の立会人?素晴らしい」袁氏は喜んでいる
「ご祝儀を倹約できさえすれば差し当たってなんでもいいさ」
ちょうど話してる最中に電話がかかってきて、袁氏は嬉しさに心を弾ませ手を振って出て行った。