第 8 章 若離(5)
ほとんど無理やり彼女の着替えを手伝ったある人をたった今思い出して黙笙の顔はいきなり赤くなり、真正面で書類を見る人に向かって腹を立てた目で射る。
どうやら彼女の眼差しを感じてか以琛は顔を上げ、黙笙は大急ぎでその視線を逸らす。
以琛は意に介さず、まるで何かを思い出したように立ち上がると一度病室から出て行き、娯楽新聞を持って戻り彼女の傍に置き、黙笙はそれを見ないようにして近くの空席から他の人が残した新聞を掴んで見始める。
以琛は眉をちょっと上げ、彼女のしたいようにさせておく
・・・自分の奥さんがいろんなものを学ぼうと思うなら、証券投資を考えてみるのも悪くない。
黙笙は無造作に引っ張って来た新聞を広げて目を見張る。
なに!
ほとんどがごちゃごちゃした図で、やっとのことで幾つかの字が現れ、一つながりの数字と専業名詞を見て彼女の頭は更にぼんやりする。
ー後悔ー
目はその色鮮やかな新聞に向かって一瞥・・・それを見たくて以琛をもう一度見ると、ちょうど頭を下げとても真剣な様子に見える。
多分、気を配ることはできないはず・・・手をこっそりと移動させ手に入れる間際に以琛が突然資料のページを捲る。更に捲ったり、捲り返したり・・・
もういいや!
黙笙は気落ちするが、でも一時間余りに過ぎないがよく辛抱した。
これは辛抱することはできたが、幾つかの事については辛抱できなかった。
三十分後、黙笙は座ってそわそわし始める。
以琛は彼女の様子に気付いて眉を顰め、近所の五十代のおば様に方向転換して言う
「ちょっと手助けしてもいい?」
トイレから戻って黙笙は暫く我慢して、それでも我慢できずに彼に聞く
「私が何をしたいのかどうして判るの?」
彼は頭でさえ上げるのをおっくうがって、節約して彼女に四つの文字を投げる
「一般推断(一般的な推測をした)」
この人は!
黙笙は彼を睨み付けていた。
病院から戻ってきて、以琛は横になった後の黙笙をじっと見つめてから寝室の明かりを消して書斎に行く。
昼寝をし過ぎたのか、それともあの一回の点滴のおかげなのかわからないけど、黙笙の元気はかなり良くなって全然眠くならない。ベットの上で二回寝転がってから突然一つのことを思い出すと同時に飛び起きた。
まずい!
明日は香港に行かなきゃならないのに、準備が何もできてない。
この二日間一体何をしていたのか本当にわからない。こんな重要なことをきれいさっぱり忘れていたなんて・・・
慌ただしくベットから起き上がるとスーツケースを出してきて荷物をまとめ始める。
慌ただし過ぎる動きに証明書が床に落ちて黙笙が拾おうと身体を折り曲げると、彼女よりもさらに速く片手が現れて証明書を拾い上げた。
おやっ?
身体を起こすと手首はすでに人にしっかりと捕まえられている。
以琛は証明書を掴んだまま
「何をしてる?」
目の中には明らかに靄が見られる。
「・・・荷物をまとめてるの」
手首は彼に捕まれてとても痛く、黙笙は振り切って逃れたいと思うのに反対に彼は更にきつく捕まえる。
目はすでにほとんど片付いた荷物をさっと見渡すと
「何処に行く?」
以琛の目の中の靄は更に深くなる。
まだ彼と話していないことを思いだして遠慮せずに答える
「香港」
香港だと?
以琛の怒りは次第に高まる。
もしタイミング悪く、いいや、完全にタイミング悪くだ!
彼女がよく眠れているかもし見に来ようと考えなかったら、明日の朝彼女はまたしても俺が何も知らない状況下で影も形もなく消えていたのか?
彼女には本当に少しでも人妻だという自覚があるのか!
彼女は結局のとこ、既に俺の妻であると理解していないことははっきりしている。
もう以前のように俺を捨て、断ち切ることを決めて去ることはできないだろ?
昔の傷は酷く引き裂かれ、以琛の手の力での支配は強まって止まらず、重苦しい目は少しも見逃すことなく彼女をじっと見つめて
「いいだろう。俺に教えてくれ。今回は何年行くつもりだ?」
彼は何を言っているの?
黙笙は風邪のせいで朦朧としてきた感じがして、手首は益々痛み人を無視し難くさせる
「以琛、先に私を放してもらえる?」
君を放す?
そうはいかない!
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何時もご訪問ありがとうございます
さて・・・この後、二人はどうなると思う?
次回は何時もよりちょっとだけ長めに・・・
八章のラストまで一気に行きます!