第 8 章 若離(4)
ドアを開けると家の中は思った通り真っ暗で電灯のスイッチを手探りしている時、低く沈んだ声が聞こえてくる。
「帰って来たのか?」
「以琛?」
心の準備をしてなかった黙笙はびっくりする。
声はベランダから聞こえ、とても高い身体は彼女に背を向けて振り向きもしない。
彼らの間に立ち込める空気は幾らか重苦しく
「何故、電話に出なかった?」
以琛は静かに尋ねる。
指の間は僅かに赤く光り燃えている。
なんの電話?
携帯電話?
黙笙はバックの中から携帯電話を取り出すと、とっくに切れているのを発見する
「携帯の電池がなくなっている」
電池切れ?そんなことか・・・
以琛はだんだん気が緩んできて、すぐさま少しの疲労を帯びた声で言う
「君は早く寝たほうがいい」
「うん」黙笙は一言答えてから少し考えて、決心したように言う
「以琛 、話があるの」
「何だ?」
黙笙は下唇を噛んでから
「私達のこの様子は夫婦とは違う気がする。私達・・・」
「そうか?」以琛は微かな嘲笑を浮かべて言う
「君の言う夫婦とはどんな形であるべきだと?この方面で君は私より多くの経験があるはずだ」
しばらくしても背後から返事が聞こえてこないので、以琛が煙草の火を消して振り向くと3~4メートル離れたところで黙笙が袋を取り出して立っている。
唇を硬く結び、顔は血の気が無くて青白い・・・
「あなたの服を買ってきたの」黙笙は床をじっと見つめてそっと言う
「あなたのカードでザーッと、あなたはやってみた?」
突然襲う胸を刺す痛みは以琛に無意識のうちに拳を握らせた。
あんなに多くの時間、彼が夢見たことも黙笙が何時の日かもう一度自分の目の前に立つことだけだった。手を伸ばして触れることができるのはもう幻覚じゃない。
今、彼女はすでに事実目の前に立って居るのに、俺はまだどんな度を越えた要求をしているんだ?
「君・・・」
以琛は語気を緩め、話す言葉はたちまち止まり真っ青な顔で彼女の髪の毛に目を見張る。
彼の非常に激しく無視することを許さない眼差しを感じ取り、黙笙は頭を上げる。
彼は私の髪の毛を見ているの?黙笙は少し困惑した顔つきで言う
「・・・私、髪を切ったの」
「俺には認識する目がある」
ぎこちない口調で、以琛の目の中では何かが固まり最後にはやはり自制して振り返る。一目でさえ多く彼女を見るのが耐えられないようだ。
彼は早々にまたもや一本の煙草に火をつけ、暫くしてからやっと最も重苦しい声で
「もう寝ろ」と、だけ言う。
「だけど・・・」
「今、俺に話しかけないでくれ」
彼は粗々しく彼女を遮った。
街をあんなにぶらついて疲れているのに黙笙はあまり眠くなく、ベットに横になりベランダから書斎までの彼の足音を聞き、かなりの長い時間が過ぎ足音は今度書斎から客室へ、それからドアが閉まる音がした。
終に辺りに静寂が広がった・・・
自分が何時頃眠りについたのか黙笙にもわからない。
翌日起きると喉がむずむずしてとても具合が悪い。長年の経験に基づいて判断すると、たぶん・・・またしても風邪を引いた。
以琛はとっくに家に居ないし・・・
黙笙は薬を見つけて飲み、いい加減な昼食を済ませる。
それでも具合が悪い気がしてすぐに眠りについた。
眠りから目が覚めた時には窓の外はすでに暗くなり、以琛がベットの前に立ち手を彼女の額に当てて幾らか厳しい表情をしている。
黙笙は彼を見て、自分は夢を見ているんだと疑いを抱く。
以琛は大きな手を離して言う
「起きろ。病院に連れて行く」
「えっ・・・」多分、そんなに大げさにしなくてもいいのに
「ただ、ちょっと風邪を引いただけ」
「熱がある」
「薬をもう飲んだから」
黙笙は頑なに言う
彼は彼女を見てから頷くと、もう何も言わずにその場を立ち去った。
彼は二度と言ってこないだろうと思うと、どういうわけか心は僅かに希望を失う。
以琛がクローゼットの前に行ったのは誰も知らない。
彼女の服を取り出し彼女の目の前に差し出して
「自ら動き始めるか、それとも俺が着替えを手伝うか?」
輸液管の液体は一滴一滴落ちている。
彼女は早くも病院にやって来ていた。