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shup 本の日記

本の日記をつけていきます。
本はその時たまたま読んだものになると思うので、
最新作や話題作ではなく、出版されてから時間が経ったものになると思います。
※2012/4/2より美術館の企画展の感想も書きはじめました。

『大人の流儀』 伊集院静
★★★★☆

友達のお母さんが有名ホテルに勤めていて、来たときに困った老人そのものの横暴な振る舞いだったと聞いていたため、印象が良くなかった筆者。

確かに従業員にいばり散らして当たり前と思っていそうな、自己主張の強い内容だけど、的を射ているし面白い。


中でも「冷静な意見は、最初、皆を驚かせるし、愚かにさえ聞こえる」というのは、先日の大震災にダブって、とても説得力がある。

震災後、なぜ逃げ遅れたかを検証した番組を見た時、のんびりと校庭に待機している人たちに「津波が来るから今すぐ高いところに避難しろ!」と言った少数の人々はことごとく「全然話を信じてもらえなかった。むしろ何を言っているのかときょとんとされた」という趣旨のことを話していた。

多勢だと安心してしまうのが人の常だが、それが正解ではない可能性もあるのだ。KYという言葉を唾棄すべきことだと思っている点も親近感を覚える。私も正しいと信じる意見を言うためには、空気をあえて読まないことが必要だと思っているクチなので。。。


「人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている。」
という一文もかっこいい。

で、仙台に15年住んで影響を受けていることはないと思うが、銀座のクラブで「伊集院さん疲れていませんか」と聞かれて「うんだが」と答えたらしい。
というエピソードがかわいい。


夏目雅子さんの死について客観的に書かれた文章からは、抑えたトーンから哀しみが立ちのぼる。この文章は、「あなたはまだ若いから知らないでしょうが、哀しみにも終わりはあるのよ」とチェチェンのおばあさんの言葉で締めくくられる。


大人の流儀/伊集院 静
『文車日記―私の古典散歩』 田辺聖子
★★★★★


落語の「延陽伯(えんようはく)」のはなし。
やもめで無学の喜ィさんに嫁いだ、高貴な家に奉公していたお鶴さん。使う言葉が違いすぎて、お互いちんぷんかんぷんという悲劇。でも、喜ィさんを大切にしていくと心に決め、一生懸命で意にも介さない。
お鶴さんは、ねぎ一わ買うにも「わが君の御意に召すや召さぬや、伺うあいだ、しばらく門前に控えておじゃ」と八百屋に言うかわいらしさ。
すぐに理屈をこねてしまう私は、なかなかこういうことできないから、素敵だなあと思います。


和泉式部の恋の歌。

捨てはてんと思うさへこそ悲しけれ君に馴れにしわが身と思へば

少し盛りを過ぎた女として、若い貴公子、師の宮と恋に落ちた式部。いずれの家庭も崩壊し、落ち切ったふたりに待ってたのは、師の宮の病死。そこで詠んだ歌です。
捨てはてんとは、尼になること。いっそ尼になりたいけど、彼に愛されたこの身が惜しいとは、おそろしく正直な発言です。そこまで行き着くした恋、一度はしてみたいものです。
でも、誰にでも愛想はいいけど、どこか冷静でブレーキかけて、なかなか自分から人を好きになれない私には、難しいのかもと思ってしまったり。


古事記や万葉集、源氏物語、沙石集、落窪物語などなど、ありとあらゆる古典から、素敵な恋、素敵な人々を見つけ、生き生きとよみがえらせる田辺聖子さんは、やはりすごい。

枕草子は石女の文学と推理しちゃったりするんです。平家物語では恋人を檀の浦に送り出した大夫を、第二次世界対戦で夫を戦地に送り出した妻に重ねたり、今に繋げる手法も効果的。いろいろな古典を、きちんと読んでみたくなりました。


文車日記―私の古典散歩 (新潮文庫)/田辺 聖子
『刑務所図書館の人びと―ハーバードを出て司書になった男の日記』 アヴィ・スタインバーグ
★★★★☆

ハーバードを出たひょろりと痩せて繊細なユダヤ人、アヴィ。刑務所の中の図書館で勤め出した、インテリの彼の目を通して、殺人者やピンプ(売春斡旋業者)が描かれる面白さ。

受刑者にストリート系の本が人気というのは至極もっともだけど、もちろんめちゃくちゃ頭がいい人もいる。マルコムXもどきだったり。所内でやり直すという夢を持って出所しても、昔のしがらみ(ギャングのファミリーを守るという習慣?)でまた犯罪者になったり、あっけなく死んでしまう人々多数。

アヴィ自身が、個々の受刑者への思い入れが強く、とても繊細な反応をするところにこの本の味がある。子どものとき捨てた息子と、所内で再会したジェシカのエピソードでは、アヴィの力みが悲しい。しかし、街で四六時中、出所した元受刑者と友達のように出会うのっていかがなものかしら。


刑務所図書館の人びと―ハーバードを出て司書になった男の日記/アヴィ スタインバーグ

『朝はだんだん見えてくる』岩瀬成子
★★★★☆

米軍基地のある街、岩国市が舞台。主人公は中学3年生の女の子。
学校や親や社会に疑問を感じ、決められたレールを歩むことに反発し、
でもびくびくして、虚脱感に襲われる。
そんなやり場のない気持ちが、ひしひしと伝わってくる。

檻を壊しても、また新たな檻があって、誰もが逃れられない。
それを呑み込んで、いなして、ときには矛盾を抱えながらも、
笑って生きていけるといいと思う。
突っ張ってパツパツになっていた主人公が、
最後は、いま自分がやりたいことだけ見つめているのがうれしい。


朝はだんだん見えてくる (名作の森)/岩瀬 成子
『本物の「大人」になるヒント―知っておきたい「良識のある人間」の考え方』
曽野綾子 ★★★★☆


●感情が安定するというのは「どちらかに片づけること」。
すなわち、このひとはいい人、頑固、性格が悪いなどと、
決めつけてしまうことだという。


●人間関係は深入りしすぎるか、冷淡かのどちらか。


●勝気さは狭量で幼稚な人間を作る。
ただし、そういう人は小さい時は勉強ができるから、
「いい子」と評価されていたりする。


●好奇心の欠如は一種の才能の欠如。


●秀才は小心者。


●仕事は道楽にならなければならない。
この場合の道楽とは、遊びではなく、
苦労を楽しみと感じられるように変質させることです。



短い文章に経験に裏打ちされた言葉が並ぶ。
謙虚に力強く生きていきたいと思わされます。


本物の大人になるヒント―知っておきたい「良識ある人間」の考え方/曽野 綾子