2024年度国家総合職専門択一試験・民法コメントその2完 | 彼の西山に登り

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【本文】

 

前回に引き続き、2024年度国家総合職1次試験の専門試験の民法の問題について簡単にコメントします。

今回は、債権、親族、相続の問題7問です。

記事が著しく長くなってしまい恐縮ですが、都庁Ⅰ類B・特別区Ⅰ類の1次試験が間近なので、強行します。

例によって、問題が手元にある前提で、今後の試験対策のために簡単にコメントするにとどめるので、詳細な解説ではありません。

問題№は法律区分のものです。また、掲記した条文は、特記ない限り民法典のそれです。

 

 

【№25】=正答4

債務不履行に関する問題。消去法で解くのは少々苦しい方が少なくなかったでしょうから、肢4の消費貸借の判例を押さえてあったかがカギでしょう。

 

1× 最判平21・1・19。同判例は、賃借人が営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく、本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害のすべてについての賠償を請求することは、条理上認められないというべきであり、民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上、本件において、賃借人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を請求することはできないとしました。

2× 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができます(416条2項)。最判昭47・4・20は、売買契約の目的物である不動産の価格が売主の所有権移転義務の履行不能後も騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、履行不能の際に売主がそのような特別の事情の存在することを知っていたかまたはこれを知りえた場合には、買主は、売主に対し、右不動産の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求することができるとしました。

3× 418条。同条に「損害賠償の責任及びその額」とあるのは、不法行為の場合(722条2項)と異なり、債務者が免責され得ることを認める趣旨と一般に解されています。

4〇 大判昭5・1・29。消費貸借契約の判例としては重要なものです。

5× 債権者は、直接強制又は代替執行ができる債務についても間接強制の申立てをすることができ、債権者はいずれかの執行方法を自由に選択できます(民事執行法173条1項)。

 

 

【№26】=正答1

債権者代位権に関する条文、基本判例素材の問題。

債権者代位権に関する平成29年改正では、従来の判例を明文化したものも多いですが、本問の正解肢1〇は、被保全債権の履行期前の裁判上の代位制度の廃止とともに、従来の扱いを変更したものです。

 

1〇 423条の5。これは、平成29年改正により従来の判例(大判昭14・5・16)を変更した点の1つです。

2× 423条の2。自己の債権の額の限度のみです。

3× 土地の賃借人につき大判昭4・12・16、建物の賃借人につき最判昭29・9・24。いわゆる転用事例の典型の1つです。

4× 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければなりません(423条の6)。また、代位訴訟の判決効は債務者にも及びます(大判昭15・3・15。民事訴訟法115条1項2号参照)。

5× 423条の3。債権者への直接引渡請求も可能です。

 

 

【№27】=正答3

契約の成立に関する条文素材の問題。条文の文言レベルですが、マイナー分野のため、そもそも押さえてあったかが先決問題でしょう。

 

ア× 前半は妥当です(97条1項)。しかし、承諾者が通知を発した後に死亡しても、承諾の意思表示の効力は妨げられません(同条3項)。なお、承諾の発信主義(旧526条1項)は平成29年改正で廃止されています。

イ× 承諾者が申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなされます(528条)。

ウ〇 465条の6第1項。平成29年改正で新設された、事業に係る債務についての保証契約の特則です。

エ× 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、申込者が撤回権を留保した場合を除き、撤回することができません(525条1項)。なお、対話者間の特則(同条2・3項)も参照しておきましょう。

 

 

【№28】=正答5

寄託に関する条文素材の問題。マイナー分野の上、妥当な記述エ・オが細かいですが、寄託としては比較的重要知識であるア×・イ×が分かれば正答は絞れます。

 

ア× 寄託者については妥当です(657条の2第1項)。しかし、受寄者については、寄託物を受け取るまでいつでも契約の解除ができるのは、書面によらない寄託における無報酬の受寄者に限られます(同条第2項)。それ以外の受寄者(有償寄託及び書面による無償寄託)が解除できる場合は限定されます(同条3項)。

イ× 有償受寄者は善管注意義務を負います(400条)が、無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務に軽減されます(659条)。基本知識です。

ウ× 前半は妥当です(663条1項)。しかし、寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならないのが原則です(664条)。

エ〇 664条の2第1項。

オ〇 665条の2。

 

 

【№29】=正答2

不当利得に関する判例素材の問題。個々の記述が事例になっており、時間をくいます。国家総合職の不当利得では、記述が長文の問題が出題されることが往々あり、重要判例は長めの判旨をチェックしておく必要があります。

 

ア× 最判昭45・7・16。本記述のような事案につき、同判例は、原則としてCはAに不当利得返還請求権を有しないとしながらも、Bの無資力のため、修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、Cは、修理(損失)によりAの受けた利得を、Bに対する代金債権が無価値である限度において、不当利得として、Aに返還を請求することができ、修理費用をBにおいて負担する旨の特約がA・B間に存したとしても、CからAに対する不当利得返還請求の妨げとなるものではないとしました。

イ× 最判昭49・9・26。同判例は、Bが、Aから騙取又は横領した金銭を、自己の金銭と混同させ、両替し、銀行に預け入れ、又はその一部を他の目的のため費消したのちその費消した分を別途工面した金銭によって補填する等してから、これをもって自己のCに対する債務の弁済にあてた場合でも、社会通念上Aの金銭でCの利益をはかったと認めるに足りる連結があるときは、Aの損失とCの利得との間には、不当利得の成立に必要な因果関係があるとして、Cの金銭の取得は、Aに対する関係においては不当利得となり得るとしました。

ウ× 708条。公序良俗違反(90条)である賭博行為による金銭のやり取りは、不法原因給付に当たると一般に解されています。

エ× 最大判昭45・10・21。本記述のような事案につき、同判例は、不法の原因により未登記建物を贈与した場合、その引渡しは、民法708条にいう給付にあたるため贈与者の不当利得返還請求が認められないだけでなく、贈与者は、目的物の所有権が自己にあることを理由として、建物の返還を請求することはできず、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、建物の所有権は受贈者に帰属するとしました。

オ〇 最判平19・3・8。同判例は、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うとしました。

値上がりした株式の売却代金相当額とすべきと解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではない(同判例)と言われれば、一言もありませんね。

 

 

【№30】=正答2

特別養子縁組に関する条文素材の問題。国家総合職の身分法の問題は、往々にして難問が出題されます(おそらく政治・国際・人文区分や経済区分で出題されないからでしょう)が、本問は条文の文言レベルで平易です。

 

1× 817条の2第1項。家庭裁判所の審判なく、合意のみで特別養子縁組を成立させる例外は規定されていません。

2〇 817条の3第1項、817条の4。

3× 特別養子の年齢は、特別養子縁組請求の時に15歳未満、特別養子縁組成立時に18歳未満であることが原則です(817条の5第1項)。養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合において、15歳に達するまでに特別養子縁組請求がされなかったことについてやむを得ない事由があるときは例外的に請求可能です(同条2項)。

4× 養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、原則として、特別養子縁組によって終了します(817条の9)。前半は妥当です(727条)。

5× 例外的に特別養子縁組の当事者を離縁させるためには、実父母が相当の監護をすることができることが必要です(817条の10第1項2号)

 

 

【№31】=正答1

相続の承認・放棄に関する条文素材の問題。学生B・Eは細かいですが、他は基本事項ですから、解答は困難ではありません。

 

A〇 3箇月の熟慮期間につき915条1項。熟慮期間経過による法定単純承認(単純承認原則)につき921条2号、限定承認の方式につき924条、相続の放棄の方式につき938条。

B× 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部又は一部を隠匿した場合は、その相続人に法定単純承認が成立します(921条3号)。

C× 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみすることができます(923条)。

D〇 相続の放棄の効力につき939条。相続の放棄は代襲原因ではない(887条2項)ため、放棄者の子は代襲相続できないとするのが通説です。

E× 相続人の債権者の請求による財産分離の制度(950条)があります。この財産分離は、相続財産と相続人の固有財産が混ざらないように防止するための制度で、これにより、相続人の債権者は相続人の固有財産から優先的に弁済してもらえます。

なお、財産分離は相続債権者(被相続人の債権者)や受遺者の請求による場合もあり(941条以下)、この場合、相続債権者や受遺者は優先的に相続財産から弁済してもらうことができます。

 

 

他科目に比べ、法律科目は法改正や重要判例が出たタイミング等で、意外に出題分野が被りやすい傾向があります。

国家総合職の問題が、今後の試験対策の参考になるのはその意味でです。

運よく手薄な部分が判明したら、補充しておきましょう。

 

この企画は今回で一区切りとします。