2026年3月現在、イスラエルと米国による対イラン軍事行動を端緒として、中東情勢は急速に悪化している。 米国は「エピック・フューリー作戦」を進めているが、イランのエネルギー施設への攻撃については、イスラエル主導と報じられているものもあり、米国の関与のあり方にはなお不明確な部分が残されている。これに対し、イランはクウェートやUAEなど湾岸諸国のエネルギー関連施設への攻撃や威嚇を強めており、世界のエネルギー供給網は深刻に攪乱されている。
資源エネルギー庁が令和8年3月に公表した統計によれば、令和8年1月末時点における日本の石油備蓄は、国家備蓄146日分、民間備蓄96日分、産油国共同備蓄6日分の合計248日分である。政府は、こうした供給不安と価格高騰を受け、3月16日から民間備蓄義務量の引下げおよび国家備蓄石油の放出を開始した。 しかし、ホルムズ海峡をめぐる緊張の高まりにより、中東からの原油供給は大幅に減少するおそれがあり、我が国のエネルギー安定供給は重大な試練に直面している。
原油価格の高騰は、燃料費、物流費、電力コストを通じて幅広い物価上昇を招き、企業活動と家計の双方に深刻な影響を及ぼすものである。 加えて、先行き不透明感の増大は金融市場にも波及し、株価の下押し圧力を強めている。原油輸入の9割以上を中東地域に依存する我が国にとって、今回の危機は、エネルギー安全保障上、看過できない極めて重大な事態である。
具体的には、石油の中東依存度が94%台である日本にとって、国民生活に最も広範に波及しやすいのは、物流コストの上昇を通じた物価上昇である。 運送費が上がれば、食料品、日用品、建材、製品部材まで幅広く価格転嫁が及びやすい。加えて、製造業では化学分野を中心にナフサなどの石油系原料が用いられているため、事態が長期化すれば、石油化学や素材産業への影響も深刻化する。したがって、短期的に最も目に見えやすい打撃は、物流と家計物価への圧力である。
他方、LNGの中東依存度は10.8%であり、このうちホルムズ海峡経由は6.3%にとどまる。 原油に比べれば依存度は相対的に低く、LNG在庫と電力需給の予備率の現状を踏まえれば、電力供給が直ちに急激に悪化する状況にはない。 しかし、危機が長期化した場合には、燃料調達と需給運用の両面から、先行きは次第に厳しさを増すことが懸念される。
さらに、放出開始から60日を経る5月16日を過ぎても石油を輸入できない状況が続いた場合、日本全体が直ちに石油切れに陥るわけではないものの、社会への打撃は、備蓄が尽きるはるか前から急速に深刻化する。 石油備蓄にはなお一定の余力があるが、当初の放出措置だけでは対応しきれない局面に入り、政府は国家備蓄の追加放出や需給調整措置の強化を迫られる可能性が高い。 まず強く表れるのは、ガソリン、軽油、灯油などの価格高騰と供給不安であり、その影響はトラック輸送、漁業、建設、農業、石油化学など幅広い分野に及ぶ。とりわけ物流の停滞は、食料品、日用品、建材、製品部材などの流通を圧迫し、国民生活と企業活動の双方に深刻な影響をもたらすであろう。さらに事態が長期化すれば、政府は救急、消防、公共交通、物流などを優先する供給管理へと踏み込まざるを得なくなり、社会は「備蓄で耐える段階」から「限られた供給を選別しながら維持する段階」へ移行することになる。 したがって、5月16日以降も輸入不能の状態が続く場合、最も深刻な影響として現れるのは、停電よりもまず、輸送燃料の不足と価格高騰、それを通じた物流混乱と物価上昇であり、日本経済と国民生活は極めて厳しい局面に直面することになる。
3月20日朝方の大阪取引所の日経225先物miniは51,075円まで下落し、日経平均比でも2,297円安となった。 中東情勢の深刻化とエネルギー供給不安が、日本株市場にも強い下押し圧力を及ぼしており、3月23日(月)には5万円の節目を割り込む事態も覚悟しておく必要がある。
中東情勢の深刻化とエネルギー供給不安は、日本株市場にも強い下押し圧力を及ぼしている。 もっとも、3月23日に5万円の節目を割り込むか、あるいは5月16日までに4万円台へ下落するかは、今後の戦況、原油価格、ホルムズ海峡の通航状況、市場心理の変化に大きく左右される。 したがって、これらは現時点で断定すべき事実というより、危機が長期化した場合に十分想定しておくべき警戒シナリオとして位置づけるのが適切である。 同様に、円相場の急落も警戒すべきである。 5月16日を過ぎても原油輸入が途絶したままとなれば、日本の交易条件は大きく悪化し、円安圧力は一段と高まる可能性が高い。 200円/ドルは現時点では最悪シナリオの域を出ないものの、平時の感覚では測れない大幅な円安を覚悟すべき局面に入りつつある。