子育て支援や少子化対策に投じられる公費は、近年「次元の異なる少子化対策」という政府方針のもとで急速に拡大している。2026年現在の状況を踏まえると、日本の国家予算全体(一般会計で100兆円超)の中で、子ども・子育て分野にどれだけの税金や公的資金が投入されているのか、その全体像を把握することが重要である。
まず中核となるのが、子ども政策の司令塔と位置付けられている「こども家庭庁」の予算である。2025年度(令和7年度)当初予算案では、こども家庭庁の予算規模は約5.3兆円から5.5兆円とされており、これは一般会計予算全体の約5%に相当する。内訳としては、児童手当の拡充、保育所や認定こども園の運営費、出産・子育て応援交付金などが中心となっている。単一の政策分野として見ても、国の主要な支出項目の一つになりつつある。
これに加えて、政府は「こども未来戦略」に基づき、2024年度から2028年度までのいわゆる加速化期間において、年間およそ3.6兆円の追加的な財政投入を行う計画を進めている。この追加投資は、既存の子育て関連予算とは別枠で積み上げられるものであり、財源の内訳が複雑である点が特徴である。
具体的には、約1.5兆円は既存予算の組み替え、約1.1兆円は医療・介護分野の歳出改革による捻出分とされている。そして残る約1.0兆円が「子ども・子育て支援金」として社会保険料に上乗せして徴収される仕組みである。この部分は税金ではなく保険料という形を取っているものの、国民から見れば実質的な負担増であり、負担の実態が見えにくい構造になっている。
さらに視野を広げると、子育て関連の公費はこども家庭庁の予算にとどまらない。文部科学省が所管する幼児教育・高等教育の無償化、自治体独自の保育・医療費助成などを含めた「家族関連社会支出」として捉えると、総額は年間約10兆円から11兆円規模に達している。これはGDP比で約2%強に相当する。
政府は今後、この家族関連社会支出を、GDP比4%程度(約20兆円規模)まで引き上げることを目標としており、スウェーデンなどの高福祉国家に近い水準を目指している。つまり、少子化対策は国家財政の構造そのものを変える規模の政策になりつつある。
一方で、こうした予算拡大には課題も多い。最大の問題は、財源構造が極めて複雑で、国民にとって負担の全体像が分かりにくい点である。税金、社会保険料、既存予算の組み替えが混在し、「誰が、どの形で、どれだけ負担しているのか」が直感的に把握しづらい。これは、税と社会保険料の一本化という観点から見ても、制度設計が未整理であることを示している。
また、10兆円を超える巨額の公費が、出生率の改善という成果にどこまで結び付いているのかについて、十分な検証が行われていない。出生率の回復は限定的であり、政策の費用対効果を冷静に評価する必要性は高まっている。しかし国会では、スキャンダル対応や短期的政治課題に議論が割かれ、巨額支出の効果検証や制度設計の精査が後回しにされがちであるとの批判も根強い。
ここで最も本質的に指摘すべき点は、現在の少子化対策が「家計支援政策」にはなっているが、「出生促進政策」にはなっていないことである。支援は「子どもがいる世帯の生活を助ける」方向には機能しているが、「子どもを産むかどうか」という意思決定そのものを増やす構造には踏み込めていない。
子どもを持つかどうかを左右するのは、児童手当の多寡ではなく、雇用と所得の将来不安、住宅費の高さ、共働き前提社会における時間制約、教育費の見通しの立たなさといった「産む前の不確実性」である。これらに直接作用しない限り、予算をどれだけ積み上げても出生数は動きにくい。
したがって、現状のまま支援額だけを拡大し続けるなら、出生数増加という本来の目的に対しては無意味な政策になり得る。問題の核心が「予算不足」ではなく、「政策設計が出生行動と接続していないこと」にある以上、必要なのは追加の財源ではなく、政策の方向転換である。
子育て支援は社会全体で支えるべき重要な政策である。しかし同時に、100兆円を超える国家予算の中で、どれだけの公費を、どのような仕組みで投入し、何を成果と定義するのかを国民に明確に示す責任がある。今後は、予算規模の拡大ではなく、使い方と説明責任、そして目的と手段の整合性が、より厳しく問われる段階に入っていると言える。