母の認知症が進んできた。

で、父の二郎が病院に連れていきたいらしい。

というのも、私に電話がかかってきた。

二郎「清巳、お母さん認知症やと思うんで、病院に連れていきたいんじゃけどの。」

清巳「うん、連れて行ったら。」

二郎「それがの、わしが言うても行かんというんよ。お前が言うとると言うてもええか。」

ああ、また来た。自分の責任逃れで他人が言うたことにするやつ。

でも、母を病院に連れて行くのは必要だと思って了解した。

 

しばらくして実家に行ったとき、母の様子が変なのだ。

顎がカクカクずっと動いている。不随意運動である。(自分で動かすつもりがないのに動く)

母に聞いた。

清巳「それ、どしたん?」

良美「それって?」

清巳「その顎がカクカク動きよることよ。」

良美「そんなになってない。」

清巳「え、それ自分でわかってないん?カクカクしよるよ。」

良美「・・・・」いきなり不機嫌な顔になった。

自分の体なんやから分からないはずはないし、少なくとも鏡を見たら動いているのが見えるだろうし。

不機嫌な顔をするのは、わかっている証拠でもある。

ああ、認めたくないんやな、わかりたくないんやな。

でも、長年看護師をしてきて、大病院の婦長をしていたのに、

どうして薬の副作用を考えないのだろう。どうしてそれを解決しようとしないのだろう。

 

仕方がないので、私が考えることにする。

清巳「これ、いつから?」と父の二郎に聞いた。

二郎「ああ、最近じゃのう。」

それだけか、変に思わなかったのか?  と思ったが、

二郎のことだ、自分に何もディメリットが無ければ他人はどうでもいいのだろう。

清巳「今何か薬を飲みよん?」

すると二郎が薬を出してきた。

ドグマチールという薬だった。

 

調べると、効能は胃・十二指腸潰瘍、統合失調症、うつであった。

認知症じゃないのか、どんな診断でこの薬になったのか?

清巳「病院に連れて行ったんじゃろ。病名は?」

二郎「知らん。」

清巳「一緒に病院に行ったんじゃろ。」

二郎「・・・・・・」

興味ないんやな、相変わらず都合が悪いと喋らない。

自分で薬をさらに調べると、脳でドーパミンの働きを抑えるという薬だ。

ということはパーキンソン症候群みたいな副作用が出るのではないかと想像した。

 

後日自分の主治医に聞いてみたら、その医師はドグマチールの副作用で顎の不随意運動は出る可能性はあるという。

早速二郎に電話をして、薬の副作用の可能性があるから母の主治医に相談するように言った。

数か月後聞くと

二郎「あの先生はしぶとかったわい。」

清巳「どういうこと?」

二郎「なかなか薬を変えんかったわい。」

 

二郎は家族に対しては高圧的な態度言動をするが、他人に対しては何も強く言えない超内弁慶であることは既に分かっていた。

大方、「息子が先生の出した薬のせいだと言うんです。私はそうは思ってないんですが。」

みたいなことだったんだろうなと思うが、まあそんなことはどうでもよく、母の不随意運動が治っていた。

まあ、それでよい。

その後は一般的な認知症の薬が二種類出ていた。

全く効かなかったが。

 

心療内科医は母の状態を診て、認知症ではなく老人性の鬱と診断したのかもしれない。

もしかしたら、その方があっていたのかもしれない。(薬の副作用は別にして)

そう思えることが色々起こってきたのだが、それはまた。

両親がマンションに引っ越した。

住屋を売り、アパートに引っ越していたが、アパートは住屋の隣の校区だった。

市街に出るのも依然と同じ国道、同じ路線のバスになる。

今度引っ越したところは市街からみて以前と反対側。母の良美にとってはなじみのない土地だ。

認知症は引っ越しをすると状態が悪くなるというが、良美も例外ではなかった。

 

ある日母から電話がかかってきた。

良美「清巳、私今どこにおるんか分らんのよ。どうにかして」

清巳「なにそれ」

良美「だから、どこにおるんか分らんなったんよ。」

清巳「さっきから大型車の車の音がしよるけど、もしかしてバスターミナルじゃないの?」

良美「うん、バスターミナルなんよ。」

清巳「ほんなら自分のおるとこ分かっとるんじゃないん。」

良美「バスターミナルは分かっとるんやけど、どこにおるんかわからんのよ。」

私は全く意味が分からなかった。

清巳「バスターミナルなら、自分の家の方に行くバスに乗って帰ったらええやない。」

良美「でも、どこにおるんか分らんのに。」

清巳「僕は仕事があるんやから、お父さんにでも連れに来ておもらい。」

良美「お父さんどこに行ったか分からん。電話しても出ん。」

 

仕方がないので私が父の二郎に電話をかけてみた。確かに出ない。

何度かかけていると、20分くらい後だったかやっとでた。

清巳「今お母さんがバスターミナルにおるみたいやけど、自分がどこにおるか分からんと言よるんよ。

なんでそんな状態やのに一人で出かけさしたん。ところで今何しよったん。」

二郎「ダンスのレッスンよ。お母さんにはダンスのレッスンに行くと言うとんよ。今まではそんなことは

なかったのに。」

清巳「とにかく早よ迎えに行ってあげて。」

でとりあえず一段落した。

 

この時は認知症なのかな、ひどくなってきたのかなと思っていた。

 

数か月後、妹の妙子にこの話をした。

すると、私の知らない話が飛び出してきた。

母の良美がある日住んでいるマンションの別の部屋の呼び鈴を鳴らして入ろうとしたという。

もちろん違う部屋なので、その部屋の住人の方が

「ここは私たちの部屋であなたの部屋とは違いますよ。」

と再三説得したが、ここは私の家だと頑として母が入ろうとしたため、警察が呼ばれた。

で、結局父が呼び戻されたとのことだった。

清巳「その時二郎さんはどこにおったん?」と妙子に聞くと

妙子「ダンスのレッスンに行っとったらしい。」

 

妙子は、「お母さんの認知症がだんだんひどくなってきたね。」と言っていた。

私もそうかなとはじめは思っていた。

しかしその二回の共通点は、父の二郎がダンスのレッスンに行っていて、携帯の電源を切って連絡がつかないときである。

その数年前まで、二郎の浮気の相手はダンスのパートナーだった。

良美もそれはうすうすわかっていたと思う。

二郎はダンスのレッスンに行くと良美に伝えて家を出ていたようだが、

良美は浮気に行くと思っていたのではないか。

携帯電話を切るのは浮気の最中と思っていたかもしれない。

それが不安や怒りなどの感情を引き起こし、認知症が一時的にひどくなるのではないか。

いや、もしかしたら

浮気については母は父に直接何も言わなかったが、自分で何もできない(と思っている)良美は自分以外の人を動かして、浮気に行った(と思っている)二郎を連れ戻そうとしているのではないか。

もちろん無意識の仕業だと思うのだが。

 

私の考えはおそらくそんなに間違ってはいないと思う。

そう思えることが、この後いろいろ出てくるのだ。

父の株の大損で家を売り、両親はアパートの住むことになった。

そのあたりから、母が伝言ができないことに気づいた。

話をすると普通に話をするのだが、電話の伝言がなんかおかしい。

 

私の入っている協会から電話がかかった。私がいないので母が電話に出た。後で内容を私が聞く。

良美「今日電話が清巳にかかってきとったよ。」

清巳「そうなん、どこから?」

良美「何とか協会」

清巳「何とか協会ではわからんやろ。何協会?」

良美「なんとか電気協会というたかな。」

 

私はそういう名前の似通った協会に複数所属していた。

 

清巳「何とかの何とかは何?」

良美「知らん。」

清巳「ほんなら、電話をかけてきた人の名前は?」

良美「知らん。」

清巳「男やったん、女やったん?」

良美「どっちやったかな。」

こんな具合から始まった。

 

仕方がないから、私はいろんな協会に片っ端から確認の電話をかけようとした。

運よく一回目に電話した協会がビンゴ。

協会「矢内さん、お仕事お辞めになったんですか?」

清巳「いえ、辞めてないですが・・・」

協会「お母さまがそのようなことをおっしゃっていましたが。」

とっさに私は

清巳「すみません、母は認知症気味でして。」

と言ったものの、その時は認知症とは思っていなかった。

 

矢内電気の仕事はほとんど私がやっていたが、一つだけ父の二郎がしていた。

していたというか、やらせていた。

そのあたりの事情はここでは省く。

電力会社の完成検査を二郎がしていた。

月に2回くらい、1回1時間半くらいの仕事である。

検査の書類は私が作り、検査の予約も私がするので、

何日何時にどこで検査かを二郎に伝えなければならない。

当時は両親の住むアパートに電話で伝えていた。

二郎は仕事もそれだけしかしていないのに、通常アパートにはいない。

趣味の社交ダンスに明け暮れている。

アパートに電話をすると、母の良美が出るので、伝言を頼むことになる。

 

そうすると、決まって二郎から電話がかかってくる。

二郎「清巳、いったい何を伝言したんぞ。意味が分からんやないか。」

で、母の良美からの伝言の内容を聞いてみると、私の伝言したことと似ても似つかぬことが伝言されている。

ただ、よくよく聞いてみると、私が言った名詞はほとんど入っている。

でも、名詞のつながり方がおかしい。だからまったく意味の分からない内容になる。

良美は、私が言ったことの中の名詞だけを記憶していて、それを使って勝手に文章を組み立てているのだ。

これはおかしいぞ。

 

母には何度それを言っても改善されない。いよいよおかしいと思うことになる。

とりあえず、ファックスにしよう、ファックスなら伝言はいらないと考えた。

母には、ファックスの音声が聞こえたら、ファックスのボタンを押してくれと頼んだ。

が、良美はファックスのボタンが分からないからできないと拒否、私が伝言すると言い張るのだ。

しばらく様子を見たが、もちろん伝言はできなかった。

結局ほぼ強制的にファックスにしたのだが・・・