ひとりぼっちの まもの 2 | sgtのブログ

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歌うことが好きです。コロナ禍で一度はしぼみかけた合唱への熱が''22年〜むしろ強まっています。クラシック音楽を遅まきながら学び始める一方、嵐の曲はいまも大好きです。


ずうっとずうっと南の島では
毎日ざあっと雨が降ります。
ざあっと降って、いつもすぐ止むのですが、
あるとき雨がざあざあ降り続いて、
なかなか止まない日がありました。



やっと雨が上がり、日差しが戻ったので
まものがねぐらから出てみると、



たいへんだ!子どもが川に!
ぼうやを助けて!ぼうや!ぼうや!
と、人間の大人の叫ぶ声が聞こえました。



間もなく、はげしく暴れる川に
子どもが流されていくのが見えました。
まものがおとうさんになろうとした
あの時のぼうやでした。
ぼうやは必死に泳ごうとしますが、
降り続いた雨で水かさを増した川には
子どもの力ではかないません。



ぼうやのおとうさんが、
ぼうやを助けようと川に飛び込みました。
いくども流されそうになりながら
おとうさんは、泳いで、泳いで、
なんとかぼうやに追いつきました。
おぼれかけたぼうやを抱きしめて
おとうさんは岸に戻ろうとしますが、
ぼうやを抱えたままではうまく泳げず
浮かんでいるのが精一杯でした。



この様子をずっと見ていた まものは、
おとうさんってすごいと思いました。
自分がおとうさんになれなかったわけが
わかったような気がしました。



すると、まものは何かを思いつき、
呪文を唱えながら、
川に飛び込んでいきました。



流されていく親子を心配して
岸辺を追いかけてきた村の人々は、
そのとき不思議な光景を目にしました。



突然 大きなけものがあらわれて、
川の真ん中にいた親子を背中に乗せ、
岸まで運んでいったのです。



村人たちは大急ぎで
親子がたどり着いた岸へ行きました。
おとうさんは無事で、
ぼうやもやがて目を覚ましました。
みんなは手を取り合って喜びました。



けものに化けた まものは
少し離れた岩のかげからそれを見て
おとうさんもぼうやも無事で
本当によかったと安心しました。
けれども泳ぎ疲れていたので
そのまま眠りこけてしまいました。



次にまものが目を覚ましたときは
人間にぐるりと取り囲まれていました。
けものに化けていた魔法はとけて
元のまものの姿に戻っていました。



ぼくは捕まってしまったのか。
とうとうやっつけられてしまうのか。
まものは悲しくなって、
頭をかかえてうずくまりました。



すると、
この親子を助けたのはおまえかね?と
頭の上から聞き覚えのある声がしました。
おそるおそる顔を上げると、
島の王様がのぞきこんでいました。
すぐそばには、まものが助けた親子が
心配そうにまものを見つめていました。



まものはふるえながら、あい、と
小さな声で答えました。
王様はそれを聞いて優しくほほえみました。
ではもうひとつ聞こう。
ずっと前、このぼうやのおとうさんに
化けたのもおまえかね?



まものはますますふるえながら、あい、と
もっと小さな声で答えました。
王様はそれを聞いて困った顔をしました。
おまえは悪いことをしたのだね。



まものは恥ずかしくてちぢこまりながら
ひとりぼっちがさびしかったんだ、と
もっともっと小さな声で話しました。
王様はそれを聞いて、
さっきよりも優しくほほえみました。



王様は立ち上がると、
人々に向かって言いました。



このまものは、かつて
ぼうやのおとうさんに化けて
おとうさんからぼうやを取ろうとした。
だが今日は、おとうさんとぼうやが
川に流されそうになったのを、
このまものは勇敢に助けた。



たしかにこのまものは悪いことをした。
しかし、自分のした悪いことの意味が
もうよくわかっているようだ。
そして今、このまものは、
ふたりの命を救うという、
何よりもすばらしいことをした。



さあ、このまものを、
罰するのか、称えるのか。
どちらにするべきか、
もう答えは出ているのではないか?



王様の言葉を聞いて、
まものを取り囲んでいた大人たちが
さーっと離れていきました。
入れ替わるように、ぼうやが、
まものに近寄ってきて言いました。



助けてくれて、ありがとう。



生まれて初めて
「ありがとう」と言われた まものは、
くすぐったいような、
なんとも言えない気分になりました。
どうしたらいいのかわからなくて、
困って王様の方を見ると、
王様は笑いながら言いました。



そういうときは、笑えばいいんだよ。



まものがぼうやに笑って見せると、
ぼうやもにっこり笑いました。



おとうさんはぼうやを抱いて、
まものの手を取り、起こしてあげました。



わたしからもありがとう。
ぼうやとわたしを助けてくれて。



まものはまたくすぐったくなりましたが、
さっき王様に言われたとおり、
おとうさんにも笑って見せました。



それを見ていた村の人々は
すっかり安心して帰っていきました。
もう誰も、まものが子どもをさらって
食べてしまうなんて思わないでしょう。



村人たちがみんな帰ると、
まものと王様だけが残りました。



さあ、これでおまえは自由だ。
これからどうしたい?
王様はたずねました。



まものはしばらく考えて、
わからない、と答えました。
ぼくはひとりぼっちがいやだったのに、
またひとりぼっちになっちゃった。



なるほど。ひとりぼっちはいやか。
それならわしと友達になろう。



ともだち?



そうだ。これからはさびしくなったら、
いつでもわしのところに来るといい。
だからおまえはもう、
ひとりぼっちではないんだよ。



まものは、友達というものが
どんなものかはよくわかりませんでしたが、
ひとりぼっちではないと言われて、
とてもしあわせな気持ちになりました。



その後、まものは森で自由に暮らし、
人間に化けたりしなくても
村の人々と仲良くできるようになりました。
時々さびしい気持ちになるときは
王様のところへ遊びに行って、
王様と楽しく過ごしました。



こうして、
ずうっとずうっと南の島で、
みんなしあわせに暮らしましたとさ。






〈おしまい〉