小さな話 またはVer.3 | sgtのブログ

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歌うことが好きです。コロナ禍で一度はしぼみかけた合唱への熱が''22年〜むしろ強まっています。クラシック音楽を遅まきながら学び始める一方、嵐の曲はいまも大好きです。


今日は11月26日。


つまらんおばさんがなけなしの勇気をかき集めて、
このブログで初めて名前を出させていただきます。










大野智さん、
35歳のお誕生日
おめでとうございます。


新たな一年が実り多い時になりますように。
そしてこれからも応援させてください。











さて、お祝いとはとても呼べたものではありませんが、
久しぶりにお話を書いてみました。
すっきりまとめる力がなくて、題名とはかけ離れた だらだらとしたものになり、
今日一日で終わらなくなってしまいましたが、
お時間のあるときにでもお付き合いいただけると嬉しいです。
題材は、懲りもせずあの歌、ただし今度は思いきり日本昔ばなし風な感じです。


















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小さな話











むかし、ある山里にひとりの匠が住んでいました。


匠は若いながらたいそう腕がよく、
石でも木でも土でも、この匠の手にかかればまるで命を吹き込まれたように自由自在にかたちを変え、
そうして生み出された器や道具は見る目にたいへん美しく、またどれもが手に温かくなじむ品々ばかりでした。


大きな都に出れば、たちまち力のある人に取り立てられて、
稀代の名工として富と名声を得ることもたやすかろうに、
若い匠はそういうことにまったく頓着しませんでした。


それどころか、請われるがままに作り上げたものを僅かな手間賃であっさりと譲り渡してしまうので、
若い匠の作品を陰で高く売りさばいて大儲けする ずる賢いやからもいて、
気の毒に思った人がそのことを匠に告げるのですが、
匠はさらりとこう答えるのでした。


「そんなのおいらはどうでもいいよ」 


金儲けなんかしなくても、この里でみんなと仲良く暮らせれば幸せだし、
何より作ることが楽しいから、
おいらはそれでもう充分なんだ。


欲のない若い匠を、お人好しの腑抜けと笑う人もありますが、
里の人々は大人も子どももこの匠が好きでした。


人々はこの若い匠のつくったものをそれは大事に愛用し、
貧しい里のことでお金はないものの、せめてお礼のしるしにと、
匠のもとにはいつも、食べものや着るものが何かしら届けられました。


匠もこれらの好意をありがたく受け取って、この里で頼まれごとを引き受けながら、のんびりと楽しく暮らしていました。
















ある春の日、籠を編む材料の蔓を求めて山に入った若い匠は、珍しく帰り道を見失ってしまいました。


困っている間に辺りはだんだん暗くなり、空にはおぼろ月が浮かんできました。


(ああ、これのせいか…)


道を探して歩いていると、いつも道標に使っていた大木が、この冬の大雪で根元から折れてしまっているのを見つけました。


(この目印がなくなったから、道に迷ってしまったんだ。


ここで夜明かしになるか…困ったな。


今夜は薄曇りで、冷え込みはさほど厳しくはなさそうだけど、
夜露をまともに浴びたら朝方には凍えてしまわないとも限らない。


この闇の中には、冬ごもりから目覚めて腹を空かせた獣もうようよいるだろうし。


どこかに窪みか茂みか何か、吹きさらしにならずにすむ場所が見つかるといいけど)


里のおばあさんが縫ってくれたかすりの綿入れの前を合わせながら、匠はしばらく辺りをうろうろと歩き、
やがてふと思いついて、折れた巨木の幹を少し登って見てみると、
折れ残った幹の中はちょうど、人一人が屈んで入れるほどの空洞になっていました。


(これはいいや。あつらえ向きに一人分のうろになっている。


ここにしゃがんで、ちょうど今日集めた蔓をかぶせれば寒さはしのげるだろう。


木が壁になってくれるから、万一クマなんかが来てもじっとしてれば大丈夫そうだ)


匠は少し元気を取り戻しました。


そして木の洞に足をさし入れようとしたその時、
中に白く光るものを見つけて、とっさに足を引っ込めました。


「なんだ、これ…」


匠が目をこらして白いものに顔を近づけると、おぼろ月の柔らかい光がちょうど木のうろの中に届いて、
木の内側のこぶのように突き出たところに、苔の上に一輪、小さな花の姿が見えました。


「おぉ!よくこんなとこに種がきて根がついたもんだな」


匠は思わず笑顔になりました。


「ここに足を掛けていたら、お前を踏んづけちまうとこだった…ああ良かった」


匠が、花のいるこぶに体を当てないよう気をつけて木のうろの中に入ると、
花はちょうど匠の目の高さで、僅かな月の光に照らされて可憐な姿を見せてくれました。


「ひとりで山道に迷ってどうなることかと心細かったけど、
こうして健気にがんばって咲いてるお前と一緒なら、今夜は寂しくないな」


匠は、冷たい夜気を避けるための蔓をちょっと控えめにかぶせて、
花になんとか月明かりが届くようにしました。


そして自分は膝を抱えて綿入れの中に全身を包み込むと、
白い花に時折語りかけながらいつしか眠りについていました。















翌朝は穏やかに晴れて、明るい陽射しが蔓のすき間から差し込み、
匠はまぶしさで目を覚ましました。


(あれ…?)


白い花の咲いていた木のこぶに目をやると、
そこには花の影も形もなく、ただ青々とした苔が生えているだけでした。


(ひとりぼっちの寂しさのあまり幻でも見てたのかな…)


匠は不思議に思いながら木の洞から出て、体をうーんと伸ばしました。すると、


「わたしを助けてくれてありがとう」


背後から女の声がしたので、匠は驚いてひっくり返りそうになりました。


振り返ると、白い衣を着た白い顔の女が、にっこりと笑って立っていました。


「びっくりさせてごめんなさい。


…あの、ゆうべ、あなたはわたしを踏みそうになったけど、
わたしを見つけてくれて、夜じゅう優しく話しかけてくれたでしょう?


それが本当に嬉しくて、あなたにお礼が言いたいって願ったら、
木の精がわたしに力をくれて、気がついたらこんな姿になっていたの」














つづきます。