あおい目が見てた 3 | sgtのブログ

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歌うことが好きです。コロナ禍で一度はしぼみかけた合唱への熱が''22年〜むしろ強まっています。クラシック音楽を遅まきながら学び始める一方、嵐の曲はいまも大好きです。


カエルの解剖実習のときに白衣を貸して以降、一宮とおれが言葉を交わす機会はだんだんと増えていった。

話すようになってまず驚いたのは、一宮がやすやすとおれに心を開いたことだった。

おれは新しく人と関係を築くとき、まず自分の目の色に相手がどんな印象を持っているか、観察し距離を測っていくのが習い性になっている。

自分では「青緑色」と思っているこの目は、好意的に受け入れられたり気持ち悪がられたり、人によってリアクションが違う。もちろん全く気にしない人もいる。

少なくともマイナス評価の相手には必要以上に近寄らないとか、それなりに注意してなるべく面倒を避けてきた。

だが一宮の場合は、そんな間合いを考える暇なくいきなり懐に飛び込んできた。

この目の色は、たぶん、気に入ってくれたんだろう…「カッケえ」と言ってたし。

もちろん、悩みを抱えていて誰かに相談したかったという彼自身の事情も手伝ったのだろうが、この鮮やかなまでの人懐っこさ。

既視感にくらりとした。









一宮の悩みは主に3つ。

サッカー部のレギュラー選にもれた。
成績がふるわず、勉強に面白味を見出せない。
さらに女子にモテない。

これを初めて聞いたとき、あまりにも普通というか…失礼だけど高校生ならよくある悩みじゃないか、と思ってしまった。


「こんなことでそんな深刻になるなんて、逆にお前はこれまで、どれだけ恵まれた人生を送ってきたんだよ?」

「お前の言い方は容赦ないなぁ…」


おれは口では辛辣なことを言いつつ、一宮の弱音を聞くのはちっとも苦にならなかった。

久しぶりに「兄」のスタンスに戻った感覚で。

部活の同輩だと、レギュラー争いの嫉妬や利害が絡んでしまって話しづらかったんだろう。

そう思うと、些細なことでも話してくれば聞いてやりたくなった。

本当は、大勢の仲間に囲まれているのが似合う一宮。

気がつくと一人になることを選びがちなおれとは、全く違う世界の人間に思える。

それがどうしたはずみか、こんなに距離が縮まっているのだから不思議なものだ。

それにしても彼の悩み。


「サッカーのことはおれはわからないけど…10年近くやってきた経験者のお前が、控えにすら入れなかったのはプライド的にもつらいんだろうな」

「まあ、俺もさ、うちの部活の空気になかなか馴染めなくて、うだうだしてるうちに出遅れたっつうか、要は自業自得なんだ…授業もどんどんわからなくなってくし、この辺が辞めどきなのかも、って最近思ってる」

「そうなのか。でも好きなんだろ?サッカー」

「ぅん、そりゃまあ…。
部活辞めたらすんなり勉強するかって言われると、正直ハイって言う自信ない」

「そりゃそうだろ。心底望んでないなら生活変えようなんて考えない方がいい」

「でもなんとかしなきゃいけないことは確かなんだよ」

「…お前の話聞く限りじゃ、お前が現状向き合っていることを一つ一つ地道にこなすことが一番出口に近いようにおれは思うけど?」

「…」

「授業は寝ないでちゃんと受けるとか」

「くぅ、そこでそれを言う?」

「当然だろ。おれは後ろからずっと見てたんだから…お前このままだと、少なくとも国語は全部死ぬぞ」

「中間試験直前に苛めないでくれ~」


こんな他愛のない話でも、少しでも気晴らしになればいい。

たぶん一宮の中では、もう答えは見えているのだと思う。

あとは彼がそれを強い意志で選択して一歩を踏み出すだけなのだ。


「お前はいいよなぁ…なんでもそつなくできて、その上碧い目の王子だもんな、女なんか選び放題だろ?」

「バーカ、そんなんじゃねえよ」


お前は良く思ってくれてるようだけど、この目はおれに、必ずしも幸せばかりをもたらしたんじゃないんだ。

おれは一瞬そう言いそうになって、やめた。









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お話はまだ続く…というかやっと始まったばかりですが、一言だけ。

こんどの台風が、大きな災害となりませんように。