当方 毎日のように雨が続いています。
それに触発されて(?)すご~く内向きなものが書きたくなりました。
暗いのがお嫌いな方、お話にはヤマオチが必須という方はご遠慮ください。
色っぽいのもありません。
最近、ココロの中のモヤモヤを掘って掘って、それをとりあえず言葉に置き換えられるとなんか落ち着くんです。変な趣味ー。
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降るもをかし
こだちも ブランコも
メリーゴーランドも
ベンチも みんなみんな
あめにぬれていた
(谷内六郎・詞『雨の遊園地』
より一部)
目が覚めたら空気が青かった。
視界を覆う仄暗さの中、どこまでも沈んでいくような不安定感。
天井との距離がつかめない。
マットレスの硬さが違う。
そうだ、ここ俺ん家じゃない…
聴覚が徐々に起きてくるにつれ、急流のような切れ間のない水音が湧き上がって辺りを取り囲んでいるのに気づく。
やがて近くの音…窓ガラスを時折、バララッと叩く雨滴が聞こえてくる。
ずいぶん激しい降りだ。
いま何時だろう。
薄暗いから朝早いのかな…
手探りで携帯を取り画面を起こすと、もう正午を回っていた。
ぅわ、と半ば反射的に頭を起こすと、
少し離れた、あと少しで落ちそうな位置に浮き沈みする尖った肩が見えた。
あぁ、居る…
それだけでなんとなく安心して、もう一度枕の凹みに頭を戻す。
ふらふらと浮遊していた記憶の糸の切れ端が、ゆっくりと質量を取り戻すのを待つ。
俺はいったい何してんだ。
なんでここに寝てるんだ。
会う約束はしてなかったはず。
シーツから出てている彼女の肩は、辛うじてではあるが柔らかい服に覆われている。
俺の方も一応、下着は身に着けている。
何より身体に例の気怠さがない。つまりそういうことにはなってないのだ。
ではどうして俺はここに?
確信できるのは今日が休みってこと。
だから丸一日全く自由に過ごしていいっちゃいいんだけど…
たとえばずっと「充電」に使ったとしても、それはそれで有意義なわけで。
そうとわかっていても、「その日」を自覚する時刻があまりにも遅いと、なぜか焦りというか、ある種の心細さを感じてしまう。
体内時計の調整に失敗した気恥ずかしさ、
せっかく与えられた時間を、意志なく眠るだけに空費してしまった後悔、
そして何より、なんの備えもなく大海に迷い出てしまったような孤独感、
そんな思いに苛まれる。
隣に彼女が寝ててくれてよかった。
仲間がそばにいる今のこの状態は、たとえ何の救いにならなくても、すごく、慰められる。
それにしても、
どうやってここまでたどり着いたんだっけ。
友人と飲みに行ってたのに、俺はなんとなく調子悪くて、2軒目に行くのを断って一人みんなと別れた。
そしたらタイミング悪く雨が降り出して。
戻って も一度合流させてもらおうかとも思ったけど、これ以上飲んだら絶対悪酔いして迷惑かける、みたいな予感があったから、やっぱり帰ろうと決めた。
朝方は少し日差しがあって今日こそ傘要らないかと思ったのに、結局今日も雨で終わるのか…
走ってる間にも雨足がどんどん強くなる。
このまま一人の部屋に帰っても絶対、行き倒れみたいに玄関で果てるだろうな。
そう思ったら急に不安になって、どこかのビルの陰に飛び込んで思わず彼女に連絡していた。
「濡れた捨て犬」状態の俺はさぞかし哀れな姿だったろう。
それを彼女はタオルを用意して迎えてくれて、
身体を拭く俺の様子を見て、もしかして風邪ひいてんじゃないの?って薬服ませてくれて、
あたしまだ仕事してるから適当に寝てて、ってベッドも提供してくれた。
で、現在に至る…
そうか、寝過ごしたのは薬のせいでもあるのか。
でもおかげでいま体調にはなんの問題もない。
寝過ぎも無駄じゃなかったんだ。
ひとのベッド占領しちゃって悪かったけど。
時間が経つにつれ、手足の末端まで血が行き渡って自由に動かせるのを感じる。
助かった…と、冗談抜きで思う。
自分の部屋で一人悲惨なことになっていたかもしれないと思うと、今のこの状況は破格の待遇だ。
隣の彼女はさしずめ命の恩人?
何時まで起きてたんだろう…今日、仕事大丈夫なのか。
声をかけようかとも思ったけど、
もう昼過ぎてるし、慌ててもしょうがないか。
雨音と、時折行き過ぎる車のたてる水しぶきの音に囲まれていると、二人で小舟に揺られて漂流しているような気分。
なんか柄にもないことばっか思い浮かぶな。
まだ本調子じゃないのか。それとも薬のせい?
眺めていたら、彼女が寝返りを打ってこちらを向き、
目を覚ました。
顔が結構な近さ。
「具合どお?」
かさかさの声でまずそれを訊いてくれる。
「大丈夫。おかげで助かった…悪かったな、狭くて寝にくかったろ?」
「平気…」
あくびを一つ。
「…いま何時?」
携帯の画面を見せる。
「ぅわ、やっちゃった…」
「なんか予定あったの?仕事?」
「ううん。なんもないけど、いろいろ行けてなかった所に今日は行こうって、頭の中で計画してたのに…」
「でも、この雨だよ?」
辺りに耳をすます彼女。
「そうね。これは『不要不急の外出は控えるべき』天気ね」
「むしろ充電できて有効活用じゃない?」
「うん、そうなんだけど、でもせっかくの自由な一日に寝過ごすとなんか損した気しない?」
「俺もさっき起きたばっかで同じこと考えてた」
彼女の目が嬉しそうに細まる。
「じゃあお互い寝坊の共犯ね」
「俺は治療と回復のための睡眠だったけど?」
「あっ、ずるー。誰のおかげだと思ってんのよ」
鼻白んだ彼女に、俺は片腕を廻して引き寄せた。
「ありがとう。本当に助かった」
「…」
「それにしてもよく降るな」
「ほんと…目が覚めて、一人でこの音 聞いてたらちょっと怖かったかも」
「そう?…なら、よかった」
「なんで?」
「いきなり上がり込んだのに、なんか役に立てたみたいで」
彼女が腕の中で笑う。
温かい息が胸にかかる。
「そんなこと、気にしないでも…予定外に会えるのって結構嬉しいよ?」
「それは時と場合によるだろ」
「そりゃそうね。余裕のあるときで良かった」
雨音を背にして話すと、どうして声のトーンが低く静かになるんだろう。
窓を打つほどの強い降りはいつしか治まって、カーテン越しにもれる外の光は明るい灰色になっている。
いまは街じゅうがじっとりと重たい鼠色に沈んでいるのだろうが、
俺たちが乗ってる小舟は、あてのない航路でも軽やかに進んでる。
こんなにも「大丈夫」な気持ちでいられるのは、
たぶん、二人でいるからだ。
その後は腹が減るまでとりとめのない話をして、
食べたり、ちょっと飲んだり、もう一度ベッドに戻ったりして、
お互いゆったりと休息の一日を過ごした。
終
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…読んでればなんかあるかなーと思ってくださった方、
本っ当ーになんにもなくてごめんなさい。
雨でなかなか元気が出ない日でも、ローテンションなりの楽しみってあるんじゃないかなぁという実験だったのですが、
文章が退屈なのはひとえに私の力不足ゆえです(汗)
ともかく読んでくださってありがとうございました。