おかあさん
料理が上手で
朗らかで
子どもをあやす名人で
仕事が早くて
そういう おかあさんの素敵なところ
いっこも引き継がなかったね 私
のろまで
思いやりがなくて
陰気臭くて
家事ヘタクソで
おまけに声がひどい
物心ついたときから
自分なんかいなくなればいいって
ずっと思ってた
自分には生きるだけの価値がない
自分の遺伝子なんか絶えるべきだって
少女の頃は本気で思ってたのに
死ぬ勇気がなくて生きちゃった
おまけに子どもまでこさえて
まったく矛盾してるけど つまり
私の「本気」なんてその程度ってこと
本当 みっともないね
でも子どもが生まれたこと
おかあさんは喜んでくれたね
だんなさんに似れば
色白の美形になれたはずなのに
私に似てしまったかわいそうな子たち
でも声はふつうでほっとした
これはだんなさんのおかげ
そんな美しくない子たちでも
おかあさんは可愛がってくれて
おかけでみんなばあちゃんが大好き
私はなんにも恩返しできなかったけど
かわりに子どもらがしてくれる
この子らを産んだことが
おかあさんへの唯一の孝行ってことに
結果的にはなってる
子どもってありがたいね
私にはとてもできないことを
子どもができるようになったり
成長するにつれて
だんなさんに似たとこが出てきたり
私の悪いものを薄めてくれる
子どもってありがたいね
半世紀近く生きても
やっぱりなんの価値もないまま
ただ生きてるだけの私に
「おかあさん」という称号をくれて
立派なものみたいに見せかけてくれる
子どもってありがたいね
おかあさん
孫たちを愛してくれてありがとう
私みたいなできそこないを
見捨てないでくれてありがとう
子どもたち
私みたいなとんでもない人間を
おかあさんにしてくれてありがとう
