vaga luna | sgtのブログ

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歌うことが好きです。コロナ禍で一度はしぼみかけた合唱への熱が''22年〜むしろ強まっています。クラシック音楽を遅まきながら学び始める一方、嵐の曲はいまも大好きです。


不快感を催すおそれのある描写があります。
18歳未満の方、および苦手な方は、
お読みになりませんようお願いします。


懲りもせずにまた…と、
笑っていただければ幸いです。でも、
なんの「修行の旅」だったわけ?
それはどうか訊かないでください。
これでも自分なりには頑張ったんだい。
どこまでセーフか実験という意味でも。










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vaga luna











クロージング作業を終えてバイト先を出たらもう真夜中近く

月が やたら高くて明るくて

忙しかったからヘトヘトなんだけど

とてもまっすぐ帰る気になんかなれない

みんなと別れた瞬間 携帯取り出して

もう寝てるかな

誰か連れ込んでたらヤだな

疲れてるせいか思考が雑



「…どした?」



明らかに眠そうなガサガサの声

これは普通に寝てた…んだといいな



「あのね、月が綺麗で。
今からそっち行っていい?」

「なにそれ」



拒否られていないことだけ確認して

電車に飛び乗った

月がやけに大きい 満月?いや違う?

静かな水面に映ってるみたいに 微かに微かに歪んだ形

検索したら「月齢16」

満月過ぎてるのに 湧き起こる衝動

月のせいだけじゃない

あんなもの見たからだ きっと










ピークを過ぎて落ち着き始めた店内

デザートの皿を下げに回ってたとき

ふと見た奥の席の男が 女の手を取り

その指でクリームを掬って食べた

思わず皿を取り落としそうになって

慌ててその場を離れたけど

遠目に何度も振り返ってしまう

だって女の表情はずっと見えていて

初め驚いてたのに だんだん 変わって








足がもつれそうになりながら

洗い場に逃げ込んで 呼吸を整えて

もう一度 出て見てみると

もう二人は席を立つところだった

辛うじて盗み見たのは 女の赤い耳








車窓で揺れる銀色の月は

すべてを見透かしたように冷たい

最初にどこに唇をつけようかとか

そんなことばかりぐるぐる考える

十六夜月にさかってる ずれた狼








出迎えた人の「首っ玉にかじりつく」

それじゃ吸血鬼だってば

ずれまくってるけど構やしない

靴を脱ぐのもそこそこに

唇を貪りながら身体ごと押し入る

舌を喰らう妖怪っていたなとか

昔読んだ民話の絵を思い出した









わざと寝癖をそのままにして

「いま起きた」フリしたよね

だって頬が冷たいし それに

寝てたにしてはスタンバイ早い

待っててくれたのかなって思うと

正直に堰を切る本能









こっちは もう そのつもりだから









なんならTシャツ脱がなくても

それだけでもいい…ってダメ?









見下ろすと 見上げられると

自分の滑稽ぶりが際立つようで
 
この体勢は好きじゃなかったけど

仄白い静かな月明かりは

余計な逡巡を 優しくうやむやにする

その一方で 眼の前にある躰の輪郭を

蒼い幻想のように浮かび上がらせて

確信犯的に欲求を煽り立てる









自分でも気づいてる

好きじゃなかったとか言いつつ

「繋がってる」手応えを得られるのは

断然こっちになってしまってること

関節 ぜんぜん軟らかくないのに

これのときだけ浅ましいほど開く脚

押し返しながら呑み込むときの

えぐられるような圧迫感と生々しい熱

それが欲しくてたまらなくて









なかに重みを咥え込んだまま

車の修理みたいに下から這い上る手に

調子を狂わされる…ことにも悦んでる

揺れるたび 動くたびに吐き出される

音と息と溢れるもの



「もっと、声、聞かせて」



言われなくても出ちゃうけど

言われるとさらに調子づいて









力強い指に 下肢を固められて

弾むように衝き上がる波に耐えきれず

支えようとした腕ごと捕まって

さらに振動が早まる

悲鳴を上げる安物のベッドスプリング

その音に負けないほど咆えてる自分

劣情を月に責任転嫁しながら

こんなに振って揺らしてたら いつか

脳味噌 ぐずぐずに液状化しちゃうな

とか思いながら









最後の「遠吠え」はもう掠れていた


















急に来て襲ってくるから驚いた、と言われて

今日、じゃなくてもう昨日見たことを話そうかとも思ったけど

余韻の中に急速に眠気が混ざってきて喋るのが面倒になって

月が綺麗だったから狼になった、とだけ答えて

あとは覚えてない