今回の季語は鰭酒です。
冬の季語です。
鰭酒は一般に河豚や鯛の鰭を火で炙ったものを燗酒に浸したものと辞書には記されていますが、俳諧の世界では炙った河豚の鰭を燗酒に浸したものに限定されていることを初めて知りました。
河豚といえば高級魚ですが、大阪の通天閣界隈にあるてっちり(河豚のちり鍋)専門店では昔から安価で河豚が提供されていました。
30年ほど前の話ですが、てっちりが一人前1500円でした。
そして、てっちりを頼むともれなくコップに入った鰭酒が一杯ついてきます。
コップ酒なので高級感など微塵もありませんが、それでもなんか得をしたなという気がしたものです。
酒に燗する冬の季語としては「熱燗」、「玉子酒」、「寝酒」等あります。どれも日本酒を温めたものではありますが、それぞれ趣きが違います。「熱燗」というと仕事帰りに屋台できゅーっと飲み干す風景が浮かんできます。
玉子酒というと少し疲れて寒気がする時などに炬燵に入りながらゆっくり飲む風景が浮かびます。
寝酒というと布団に入りながら人肌ほどの日本酒をちびちび飲みながらうとうとしている風景が浮かびます。
さて、鰭酒はどんな風景が浮かぶでしょうか?
炙った河豚鰭の旨味がしみ出すよう少々熱めの日本酒をゆっくり飲んでいると鰭が時々唇に触れたり、鰭が日本酒の中を泳ぐように揺れている風景が浮かんできます。
先の三つの季語と鰭酒を視覚で見てみると鰭酒は鰭が揺らめく様子が浮かびますが、熱燗、寝酒では特別これといったものは浮かびません、玉子酒は黄身の色が見えます。
触覚だとどれも燗酒特有の感覚がありますが、鰭酒には鰭が唇に触れる感覚が付け加わります。味覚はアルコール分の大方が蒸発して抜けている玉子酒を除いて熱燗、寝酒、鰭酒ともに燗酒特有の焼けるような感覚があり、鰭酒はそれに河豚の旨味が付け加わります。
嗅覚はどれもふくよかな香りがあります。
玉子酒もアルコール分は抜けていますが、どこか日本酒の香りが残っています。
鰭酒には鰭を炙った香ばしさが付け加わります。
そして熱燗、寝酒、鰭酒には酔いが回るうちに四方山話に興じる連想力があると思います。
こうして見てくると鰭酒は先の三つの季語に視覚、味覚、触覚、嗅覚が付け加わった豊かな感覚を持った季語だという結論に至りました。
そして、数々の例句を鑑賞してみると先の感覚にも増して鰭酒には強い連想力のある季語だと思えて仕方がありません。
鰭酒や李白のごとく生きてみん
(俳句ポスト投句)
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。