では前回の続きのお話をさせていただきます。
その日も定宿のアパートメントの駐車場を出ていつものように車道に出ました。
いつもはがらがらの道がその日に限ってなぜか渋滞していました。
そのため、アクセルを少し踏んでは、すぐにブレーキをかけるの繰り返しでした。
このレンタカーの運転に慣れていなかった当初なら、こんな交通状況なら注意深く、さらに慎重になっていたのでしょうが、この頃には少し運転にも慣れてきていたせいもあり、少し気の緩みがあったようです。
はっと気がついた時には前の車がすぐ目の前でした。
強くブレーキを踏んだのですが、例によってスポンジを踏んだような感触が足に伝わるだけで思うように止まってくれません。
そして、あっという間に前の大きなピックアップトラックのバンパーに追突してしまいました。
ブレーキのききが悪いとはいえ、ブレーキは踏み続けていたので追突したときにはかなりスピードが落ちていたのが不幸中の幸いでした。
そのため、追突時は大きな衝撃もなく、ただ当たったなという感触を双方ともに感じるほどの衝撃だったように記憶しています。
そしてその時に頭を過ぎったことは「アー、やっちゃったな、まだ英語もろくにしゃべれないのに、追突した相手に英語でまくし立てられても答えられないしどうしよう」という思いでした。
しかし、このまま車から出ずに逃げていれば状況はますます悪くなるのは明白なので、ここは腹を括って車の外にでました。
私が車外に出るのとほぼ同じタイミングで追突した相手も車から出てきました。
出てきたのはテンガロンハットにTシャツ、ジーパン姿のここらでよく見かける服装をした大柄な白人男性でした。
といっても私に比べてと言う意味で、アメリカ人の白人としてはごく普通の体格です。
私はまず「I‘m sorry」と謝罪し、その後は相手がどう出てくるか待っていました。
すると、彼は無言で追突されたであろうあたりのバンパーを見て、次に私の車の前部バンパーを見ると、「Have a good Day」と言い残して自分の車に戻ると、そのまま走り去って行きました。
私はなにが起こったのか少しの間理解できずに唖然としていました。
しかし、いつまでも車道の真ん中に止まっているのはまずいと思い、自分の車に乗り込んでそのまま仕事場に向かいました。
ただ、事故を起こしたときの極度の緊張感とその後の何事も無くてよかったという脱力感で、その後どういう風に走って仕事場に着いたのかまったく覚えていません。
仕事場に着いて思い起こしてみると、相手方のバンパーは傷があちこちにあり、ぱっと見ても私の車が追突した傷がどれかわかりませんでした。
一方、私のほうはレンタカーなのでパンパーもきれいなもので、そのきれいなバンパーにかすかに傷がついているのやっとわかる程度でした。
日本なら相手方の車が今回のように傷が沢山ついていて、どれが追突した傷がわからなくても、微にいり細にいり丹念に調べて、そして警察を呼んで、さらにお互いの連絡先を交換して、その後も保険会社とのやり取りをしたりと長々と事故処理が続くことが多いのですが、アメリカ人はおおらかと言うか、車を消耗品と思っていて、時とともに傷がついていくのは当然と思っており、運転に支障のない程度の傷であれば気にしないということが、その後のアメリカ生活のなかで知るようになりました。
この事故で相手にああだこうだと言われず、警察沙汰にもならなかったことに正直ほっとし、「Have a good Day」と言って立ち去ってくれたおおらかなアメリカの人に救われたなという記憶だけはしっかり残っています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。