北海道小樽市を訪れたときに出会った歴史的建造物を何回かに分けてご紹介するシリーズの続編です。
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今回は旧百十三銀行小樽支店をご紹介したい。
最初の建物は明治26年(1893年)に建てられた平屋建ての木骨石造の小規模な建物でした。
外壁や窓枠は洋風にもかかわらず、トンガリ飾りを持つ屋根は寄棟の瓦葺という和洋織り交ぜた木骨石造である。
木骨石造とは外壁は石で作られているが、内部の構造体(建物を支え形作っているもの)は木組みで作られた建物である。
現代の私が見るとなんかけったいな建物やな-と思うが、色々調べてみると明治期にはこのような建物がたくさん建てられたらしい。
あとで当時の大工さんが外国人によって建てられた洋館を見よう見まねで四苦八苦しながら作ったであろうことを知り、その苦労を思えばけったいやな-などと思ったのはとても失礼なことだと反省しきりである。
さて、その百十三銀行初代の建物も、その後の小樽の発展による銀行業務の拡大により手狭になったため転売され、新たな支店の建物を建設することになった。
転売後の最初の建物は木材貿易商の事務所、製茶会社の建物として使用された後、オルゴール海鳴楼本店の店舗として現在に至ることとなる。
さて、新たな支店の建物は元の支店から少し離れた場所に明治41年(1908年)に建てられた。
(注:下の画像に写っているお二人は偶然写りこんでしまった方ですので念の為)
構造的な説明をすると初代の建物と同じ瓦屋根の木骨石造であるが、入り口上部の飾柱にギリシャ建築を思わせるエンタシス(円柱の下部から上部にかけて徐々に細くした、若しくは中部から上部にかけて細くした形状で奈良の法隆寺にも同様の木の柱が用いられている)を用いたり、石造りの外壁に飾り煉瓦を貼り付けるなど初代に比べると凝った西洋風に近づけた造りになっている。
この二つの画像ではわかりにくいが、建物を上から見ると五角形の形をしており、函館の五稜郭を模したものなのかな--と思ったりした。
(百十三銀行の設立者は函館出身である。(後述))
現在、この建物は小樽浪漫館(上の画像の看板にあるとおり)というアクセサリー、硝子雑貨を販売する店舗として営業している。
また、店舗内にはcafe Decoという喫茶店も併設されている。
カフェの調度品にはアンティーク調の物がふんだんに使われており、すくなからず建設当時の雰囲気を感じながらゆっくりと時をすごせるのではないだろうか。
小樽浪漫館について詳しくお知りになりたい方はこちらご覧いただきたい。
次に百十三銀行についてご紹介したい。
正式には第百十三国立銀行で、明治11年(1878年)函館市の商人である村田駒吉、杉浦嘉七、田中正右衛門らによって設立され、翌年の明治12年(1879年)1月に開業した。
国立銀行とは明治時代に国の条例によってつくられた民間銀行である。現代の日本銀行と似て紙幣発行権をもった民間銀行であった。
これらの銀行は設立順に1番から153番まで設立され、いまではこれらの銀行をナンバー銀行と呼んでいる。
そして、設立から100年以上経た平成の世でも設立時の名称をそのまま使っている銀行が少数ではあるが残っている。
第四銀行(新潟県)
十六銀行(岐阜県)
十八銀行(長崎県)
七十七銀行(宮城県)
百五銀行(三重県)
百十四銀行(香川県)
ちなみに第一銀行のその後は長らくのあいだ宝くじの発売を担っていた第一勧業銀行(現在はみずほ銀行)である。
話を百十三銀行に戻すと、後に国の中央銀行である日本銀行が設立され、また条例の変更で紙幣発行権が剥奪された後は普通銀行の百十三銀行として営業を続けた。
昭和3年(1928年)に北海道銀行(後の北海道拓殖銀行)と合併して、百十三銀行の名称は消滅した。
時代は下がって1990年代のバブル崩壊で、百十三銀行の後継となった北海道拓殖銀行は平成9年(1997年)11月に経営破綻した。
平成18年(2008年)に都市銀行唯一の破綻銀行という不名誉な記録を残し、銀行業務の清算とともに北海道拓殖銀行の名前も完全に消滅した。
百余年続いた会社も泡沫の
景気はじけて歴史のかなた
先にご紹介した名取高三郎商店、共成㈱が平成の世まで業務内容を変えながらしたたかに生き残っているのとは対照的な末路である。
これで北海道小樽市を訪れたときに出会った歴史的建造物を何回かに分けてご紹介するシリーズはこれで終了とさせていただきます。
長いシリーズをご愛読いただきありがとうございました。
また、このシリーズを読んで小樽に行ってみたいと思われた方は有名な倉庫街だけでなく、それ以外の歴史的建造物をご覧になることをお勧めします。
多くの歴史的建造物が現役のお店や事務所などとして使われており、気軽に内部も見れる建物もたくさんある。
そして店舗として使われている建物については、内部の雰囲気を昭和レトロもしくは大正浪漫風としており、雰囲気を壊さぬようお店のほうでも気を使われているので、訪れた方の期待を裏切らないと思います。
小樽市では歴史的建造物の案内をホームページで行っているので、訪れる前にご覧になればなお一層興味が湧くかと思われます。
(本文中にこのホームページからの記述を一部引用させていただいたことをお断りさせていただくとともに感謝いたします)
現在、「小樽市指定歴史的建造物」は75件あり、私が訪れ、ご紹介できたのはたった4件しかありませんでした。
このブログを書きながら、またの機会があれば小樽の歴史的建造物に訪れてみたいと強く思いながら筆を置きたい。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。