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翌朝の6時35分、キッチンでクロワッサンを摘まみ、コーヒーを飲みながら今日の予定をお復習いした。
カフルイ空港で車を返す期限が午前11時でホノルル行きのフライト出発時刻が12時間30分。
ラハイナのホテルから空港まで1時間として、
チェックアウトが10時なので9時にホテルを出れば余裕だということだ。
この日、チャーリーは遅番で顔が見れずに残念であるが昨日のうちに別れを済ませ、また会える機会があればとハグした。
ホテルを出て、赤いフェラーリの横に駐めたカローラのエンジンを掛け、早朝ドライブでラハイナからホエラーズビレッジを抜け、 カアナパリを目指す。
一昨日、ホエールウオッチングをした時間とほぼ同じ時刻で、
日の出前のラハイナの通りを、車のライトを頼りに走っていたら、あっという間に広場(タウンスクエア)を通り過ぎた。
左ハンドルの対向車線の向こう、左サイドにやがて消えゆく星空の下、黒く見える海が視界に入った。
対向車の灯りが目に入ると想った瞬間、
ライトを下げてくれたドライバーに感謝するとともに、
地元局のDJ選りすぐりの、ウクレレ、スライドギターを用いたハワイアン・ミュージックが心地良い。
レンタカーオフィスのクリスが言っていた、広場にあるウクレレ・ショップに行く時間がなくて残念だ。
ギターのコードくらい鳴らせるので本場ハワイのショップに寄ってみたかった。
仄かな日の光が差し込んできたと想ったら、ホエラーズビレッジを過ぎていた。
ナビに目を落とせば、ディスプレイの右にカパルア空港が記されている。
今走っている対向車線でタクシーの後部座席に座っていたのが、 ほんの3日前だというのが信じられないが、
マウイ島で残された時間も僅かである。
陽の光が後方から差し込んでいる。
ここは今やビーチや高級リゾート地として有名なカアナパリで坂を上り、少し先を曲がると、バスを乗り換えた地点だ。
見晴らしの良い地点でエンジンを止め、辺りを見渡した。
車を降ると、早朝の光に照らされた海が何とも言えず、幻想的だ。
その昔、丘の向こうにハワイアンの集落があり、サトウキビ畑と工場があり、かつて存在したカアナパリからラハイナまでサトウキビを運んだ専用鉄道を想い浮かべながら、海からの冷たい風に身を任せた。
来た道を引き返し、カアナパリからラハイナのホテルまで戻った。
部屋で支度を済ませ、スタンドテーブルの日本人サイズの白人女にキーを返し、チェックアウトした。
ホテルを後にすると、あとは順調に推移した。
空港近くのスタンドでガソリンを入れ、レンタカーオフィスに駐車場にカローラを停めた。
キーと書類を返し、車の傷と満タンのチェックを受けると、無事に放免された。
下見通りに、空港のターミナルに進むと、目の前はエアラインのカウンターである。
ホノルル空港とは真逆の靴下まで脱がされるおもてなしを受け、搭乗ゲートに進んだ。
マウイ島のカパルア空港まで飛んだプロペラ機と違って、
小型機とはいえ百名以上が乗れるハワイアン航空のボーイング737。
窓際の席だったにも拘わらず、上空からの景色に臨場感はなく、 30分程度の短いフライトはあっと言う間の出来事だった。
ホノルル空港に到着後、現在地がわからず、浦島太郎のようにうろうろしながらも半地下のような場所から地上に舞い上がることなく、幸運にもザ・バスに乗れた。
空港からホノルル市街地に近くなるにつれ、バスの窓から市街地を眺めるにつけ、どこかのんびりとしたマウイ島と比べても、
オアフ島の往来は東京近郊とまでは言わないまでも、喧噪な雰囲気を漂わせている。
ホノルルの中心地はラッシュアワー前でありながら車は数珠つなぎの信号待ちの繰り返しで、バスの脇をバイクや自転車が面白いように通り過ぎて行く。
車が流れると思ったら緑の絨毯が急に現れた。
大きな公園を過ぎ、カーブをターンして、スマホの地図を見ると、いつの間にかバスは呪いのように覚えたクヒオ通りに入っていた。
ほんの3日間、マウイ島にいただけなのに、
1週間ぶりととも1ヶ月ぶりとも言えるような懐かしの中、
バスを降りて、ホテルまでの通りを歩いていると、
ワイキキビーチまでもう目の前なのだろう、汐の香りに包まれる。
ようやく、ホテルに戻って来た。
フロントで顔馴染みのない若い白人の男にパスポートを差し出した。
予約確認してチェックインすると、どうした訳か、
料金も若干上がっててはいたが移動で疲れていたので、
クレームを付けることなく、クレジットカードで支払った。
今回も同じシングルながら3階から2階になり、
南向きの窓のある部屋から窓なしの狭い部屋になっていたが、
日本に戻るまでここに滞在する予定なので、
今日のところはおとなしくして、明日への活力を備えるとしよう。
ベッドで横になると、すぐに寝込んでしまった。
大きな生欠伸のまま嵌めたままの腕時計を見ると、5時25分。
2時間近く寝でいたことになる。
想っていた以上に疲れていたんだな。
慣れない土地で、慣れない英語とドルを使い、食べる物にも四苦八苦するのが現実。
気を休めるのはホテルに戻り、ベッドで横になる時だけだ。