太平洋のさざ波 14(1章ハワイ) | ブログ連載小説・幸田回生

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読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

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 Uターンして、アクセルを踏み込んだ。
 ハイクを過ぎて、これから本格的に山道に入る。

 


 サーフィンを趣味にしている訳ではないが、
 海か山かと問われれば、すぐに海と応えてしまう俺は車で山道を走った経験ほとんどはない。
 河口湖しか名前を知らない富士山五湖周辺を何度かドライブしたに過ぎない。


 
 昨晩、ホテル1階のスタンド・テーブル側のソファーに佇み、
 LGの液晶TVでマウイツアーの映像を観ながらチャーリーと時間を供にした。

 


 部屋に戻り、もう一日マウイ滞在が残っている。
 何をしようと考えているうちにもう2度とこの島には来ないかもしれない。
 そう想っていたらアイディが浮かんだ。
 レンタカーを借り、マウイ島を巡ってみようかなと。



 今朝、チャーリーとの雑談が決定打だった。
 ジミヘンがハワイでライブを行ったのは1970年の7月末から8月に掛けて、マウイ島の山麓とオアフ島のホノルルの2度である。

 


 今や伝説と化したマウイ公演は7月30日(木曜日)
 ジミが亡くなる2ヶ月を切った時点で、ネットで検索すれば英語による情報はより多いのだろうが俺の英語力はたかがしれているので、ここでは割愛する。


 
 慣れない山道に手こずりながらも、のどかな町が現れたので路肩に車を停めた。
 ナビを観て、ガイドブックを手に取ると、マカワオ(MAKAWAO)とある。

 


 日本人の目ににも馴染みのある田舎町と記されているが、
 その素振りもないので、ナビとガイドブックに戻った。
 これから向かう、クラ(KULA)という町を過ぎ、
 ジグザク道を抜けると、一本道があり、もう一度、

 今度は大きく振れるジグザグ道を過ぎれば、二つの展望台があるようだ。
 地図は頭に入った。 



 山道とカーブ、なだらかな坂と緩いカーブが続いた。
 カローラの運転席から目に入る景色は宿泊中のホテルがあるラハイナからホエラーズビレッジ、カアナパリとも、
 車を停めて眺めたマアラエア港からワイレアとマケナ、
 クイーン・カアフマヌ・センターからカフルイ空港までとは別次元だ。
 


 ハレアカラ火山最後の噴火から二百年以上、五百年以上とも推測されるようで所々に緑が見られるが、火口からの溶岩が風化したと想わせる、赤茶けた、あるいは黒褐色に覆われ不毛な大地が広がっている。

 


 一昨日から昨日まで、今日の昼過ぎまとは違う別の顔を持ったマウイ島だ。
 海、ビーチが売りのマウイ島も、さすがにハレアカラは休火山だと想わせる無骨な姿を見せているのである。



 ここがクラ(KULA)の町のようだが、日本風にいえば、
 山の合間の集落と表現するのが適切だろう。
 ガイドブックによればこの辺りはマウイ島を代表する農産地帯のようで、酪農、玉ねぎ、イチゴが有名なそうだ。

 


 ハワイ王国が誕生した当時(18世紀末から19世紀初頭)の主要産業は農業であり、白壇(ハワイ語でイリアヒ)の輸出がメインであったが、乱獲で衰退すると、捕鯨が農業に取って代わった。

 


 それも束の間、石油が登場で次第に鯨油が廃れてくると、
 ハワイ各島、各地で今度はプランテーション農業が行われるようになった。



 混迷続きの幕末を経て開国した日本では明治、大正、昭和とハワイへの日本人の移住が盛んになり、サトウキビ労働に就労する人が多く、一大産業となった。

 


 とはいえ、クラ(KULA)に代表される標高の高い山岳地帯に亜熱帯と摂れるサトウキビは不向きで、それなりの試行錯誤の結果、今日の状況が生まれたとある。


 昨日乗車したバスとは番号違いのルートが異なるバスが時間調整のためか停車している。

 


 クラ(KULA)を過ぎ、ジグザグ道に入る手前で、下腹部がパンパンに張って、今にも膀胱が破裂しそうだ。
 車の往来も人気もない路肩に車を寄せ、停止して、ジーンズのジッパーが下げ、放尿した。



 カローラに戻り、ナビを観ている。

 これから、ジグザク道を過ぎると一本道になり、
 さらに大きく波打つジグザグ道を過ぎると、

 二つの展望台があり、その先に、レッドヒル(RED HILL)と言われる最高地点、3055メートルがあり、その先にチャーリーが言った天文台がある。
 

 

 そこを目標にしよう。

 ハンドルを右に左に切り、体を傾け、首を振り、
 ジグザグ道をどうにか潜り抜けて、もう一つのジグザグ道を越えた。 

 


 二つの展望台を通り過ごし、ハレアカラ山最高地点の駐車場でカローラを停めた。

 


 外に出て、周りの景色を眺めた。
 我ながら、マウイ島を制圧した感がある。
 太陽の下の雲に隠れているが、鯨と出会ったラハイナ沖が瞼に浮かぶ。

 


 もう1時間もすれば、マウイ島、最高のエンターテインメントの日没が観れるということもあって、辺りに車と人が集まって来たが、
 目的が違うから、その前に引き返すことにした。



 ジミヘンがマウイ島のどこでライブをやったか特定できないまでも、ハワイの言葉で太陽の家とされるハレアカラの名を戴いた国立公園の中で、天才のギターと歌が響き渡ったことを大自然の中で感じることができて何よりだった。

 

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