マイ・ボニー・・・10 | ブログ連載小説・幸田回生

ブログ連載小説・幸田回生

読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

 10

 

 冬場はスケート場になるプールは、バスで30分のところにあった。 

 冬休みに一度、祥二と滑ったことがある。 
 海の側のプールでもよかったのに、明子をここに誘ったのが、今でも不思議だ。

 

「泳ぐの、得意?」
「特訓して、どうにか息継ぎができるように」

 

「それで、どれくらい泳げるの?」
「25メートルかな!」

 プールを見て驚いた。スケートの時は気づかなかった。
 ここは50メートルプールだ。

 

「しまった」

 

 思った時は、もう遅かった。
 明子の可憐な水着姿も膨らみかけた胸も、もう眼中にない。
 50メートルは、とても泳げない。
 どうやってごまかそう。
 横ならいけるか。

 軽く体操して、やんわりプールに入った。

 

「つらいな」

 浅い所を狙って入ったのだが、すでにプールの水は口まできていた。

 足で底を蹴って、なんとかこの場を凌ごう。

「何、やってんの」  
 

 明子に見抜かれたようだ。

 返事もせずクロールで、途中、人にぶつかりそうになりながら、

 横25メートルはあろうプールを泳ぎ切った。

 

「頑張ったね。なんだか、溺れているみたいだったけど」
 ショックなことに、後からスタートしたはずの明子がもう着いていた。

「頑張れ、頑張った」
 野球の時、ジョーも言っていたな。

 

『頑張れ』なんて言葉は大嫌いだ。
息を弾ませプールを上がると、呼吸を整えるのに時間がかかった。 

その間、明子は50メートルを楽々泳いだ。 

 クロール、平泳ぎを織り交ぜ。
 2度、3度。

 彼女の泳ぎに見惚れていた。
 何もかもが美しい。



 

 太陽のない屋内プールは夏を感じさせることもなく、男たちは、ただ女性を眺めるだけだ。

 

「外に出よう」
「外?」
「外よ!」

 

「外に何があるの?」
「いいから」

 

 知らなかった、外に幼児プールと滑り台があるのを。
 階段を駆け上がり、

 

「ツルン ツルン」滑り。
「キャー キャー」

 

 叫ぶ明子は、プールの明子と違って、かわいかった。
 明子に続いて僕も滑る。校庭の滑り台よりスリルがある。
 今度は、手を繋いで一緒に滑った。

 

 明子の太股が僕の腰に触れ、気絶しそうだ。
 互いに水を掛け合うのもいい。
 膝上までのプールに浸り、これでもかと、明子に水を掛けた。

 

「もう、止めて」
 

 こうなったら、苛めたくなる。
 その言葉を無視して掛け続けると、

「ツルン」
 転んでしまった。 

「罰があたったのよ」


 

 プールサイドのカフェのトーストはうまい。
 厚く切ったパンに塗ったバターが鼻を擽る。
 明子が隣にいるせいか食欲が増し、つい、トーストの御代わりをしてしまった。

 

「そんなにお腹空いた? わたしのあげたのに」
 

 

 ストローでジュースを吸った時、前に若い女が座った、水着から陰毛がはみ出ている。
 じっと見ているわけにもいかず、目のやり場に困った。
 つい、明子と比べてしまう。

 

「エッチ、どこ見てんの!」
 明子がぷんとむくれて席を立った。

「待って、明子!」 



 

 明子が中学生の悪ガキに絡まれている。

 

「ねえちゃん、かわいい顔して、どこから来たの。俺たちと付き合わねえか」
「何よ! あななたち、手を放して」
「ちょっとくらい、いいだろう」
「助けてよ。助けて、達君」

 

「なんだ、このガキ。チビじゃねえか」
「しっ、あっちへ行ってろ。怪我するぞ!」
「達君、何してんの!」
「止めろ。こら、止めないか」

 

「おまえら、どこの中学生だ。いいから、こっちに来い」

 悪ガキは、警備のお兄さんにどこかへ連れて行かれた。

「あなたって、最低、見損なったわ。女の子一人守れないなんて」 

 

 

 明子は一人帰って行った。
 最低の一日。
 夏休みは、もう終わろうとしている。
 



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