愛の夢・・・21 | ブログ連載小説・幸田回生

ブログ連載小説・幸田回生

読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

 21

 

 僕はターミナルで電車を乗り換え、あいつが納骨された郊外へ向う。
 車両には僕とおばあさんの二人だけだ。
 畑が続く景色を眺め、僕はあいつとの思い出にふける。
 僕はどうして、こうまでして、あいつの遺骨に拘るのだろう。
 

 あいつは、幼なじみというだけで、そんな親しい奴でも、
 いい奴でもなかった。
 どちらかといえば、いやな奴だった。
 よく苛められたし、楽しかった事ははほとんど思い出せない。 


 

 彼女が言うように、あいつの遺骨なんて放っていればいいのかもしれない。
 それを誰も責めはしない。
 

 あいつは貧乏だった、僕よりずっと。
 貧乏なあいつは地上げで街から放り出され、僕の前から消えた。 

 あいつの母親と義父は死に、あいつは事故で死んだ
 そして、あいつの父親も僕の隣のベッドを死を待ち、翌日死んだ。

 

 

 あいつは、父親に会った、Y市の輸入家具商社で。
 あいつは、倉庫番をしていた。立派な仕事だ。
 あいつは、そこで寝泊りをして、幸せだった。
 あいつは、何の目的でこの世に生まれてきたのだろう。

 

 あいつの父親は教育者としては最低の男だ。
 自分の教え子に手を付け、何の責任も取らず、
 のうのうと生きていた。
 

 彼女は、父親の死を願い続け、父親に縛り付けられていた。
 精神に異常を来たしても、当然かもしれない。
 あいつの父親は人間としても最低の男だ。
 それでも、あいつは父親を愛していたのだろうか。
 あいつの行動を振り返る限り、あいつは父親を愛していたようだ。 


 

 あいつは、子供のころから、いやな奴だった。
 取り得は何もなかった。
 貧乏で頭が悪かった。 
 小心者で根性がなかった。
 強い者や目上の者に媚び、弱い物や年下を苛めた。


 

 僕はあいつが街から消えた時、もう、あいつのことなんか忘れかけていた。
 ああ! あの貧乏な嫌な奴が街から消えたのか、
 地上げに遭って、放り出されたのか。
 いい気味じゃないか。
 あんな奴は街から、僕の前から消えたらいい。

 

 この10年、あいつのことなんか僕は忘れていた。
 これっぽっちもあいつの事なんか、考えたことすらない。
 でも、僕はあいつの夢を見た。
 翌日、あいつの死を伝える新聞記事に僕は見入った。
 そして、今、あいつの元へ向おうとしている。


 

 終着駅で萎びたバスに乗った。
 僕は一人、終着駅でそのバスを降りる。
 山間の細いくねった道を登った。
 あいつは、この山奥で僕を待っている。

 

 警察の納骨堂が見えた。
 僕は一礼して、花を供え蝋燭に火を灯す。
 香を焚き、あいつの魂に祈りを捧げた。
 僕は道を下り、あいつに最後の別れを告げた。


 

  完



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