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絵里はいなかった。
老人が窓際のベッドに一人佇んでいた。
和夫は東京から絵里を尋ねて来たことを告げた。
老人は咳を切り、応えた。
「絵里子は近くの店に行っています。
じきに戻りますから、ここで待っていなさい」
彼は要一と美紀の三人で絵里の帰りを待つ。
侘しい狭い空間で待ち続けた。
間が持てなかった。
彼はニコチンが切れていた。
ここで吸うわけにはいかないだろうが。
無言のうちに時が流れた。
それにしても、狭い部屋だ。
噎せるように彼は時間を待った。
4つのベッドが無造作にならんでいる。
老人は窓の外を見つめ、寝返りをうった。
痩せ細った木々が見える。
彼はこの老人に目をやった。
白髪の老人の頬は、石原老人の語った疾病兵より窪んで見えた。
老人はどんな人生を送ってきたのだろう。
アメリカさんに追われていた人生。
峠の神主に身を隠し、絵里と過ごした人生。
老人はここを終の住みかにするのだろうか。
ビニール袋を提げた絵里の姿に気づく。
彼の時間は止まった。
あの時の絵里だ。
あの、雨の日の絵里だ。
『シェルブールの雨傘』の絵里だ。
言葉がなかった。
固まったままだ。
絵里が彼に気づいた。
「お久しぶりですね!」
懐かしい声の響きに彼は我にかえった。
絵里は老人の世話を終えると、和夫と旅館に入った。
和夫は言葉も掛けず、絵里を欲っした。
彼と彼女は言葉を交わさなかった。
彼は彼女の体だけをもとめた。
豊かな胸は健在だった。
その胸を揉み解す。
乳首を舐めて、甘く噛んで吸う。
右の指先は陰毛に達した。
膣に触れた。
陰部に顔を埋める。
匂いを嗅いだ。
絵里の匂いを嗅いだ。
絵里の匂いがする。
あの絵里の匂いがする。
あの懐かしい匂いがする。
舌が柔らかい毛に絡んだ。
彼はピンクの襞を吸った。
舌を絡め美しい襞を吸い続ける。
彼女は彼を受け入れた。
ぬるぬるした液体を感じた。
愛液を感じる。
絵里の体液を感じた。
なまめかしい愛液を感じる。
彼は硬くなる。
なお、いっそう硬くなる。
奥まで入れた。
ずっと奥まで入れる。
そっと動いた。
ゆっくり動く。
ゆっくりゆっくり彼は動いた。
徐々にペースをあげた。
奥まで入れる。
ずっと奥まで入れた。
彼は激しく動く。
ピストン運動を繰り返す。
彼女の両手が背中に回り、足を絡め、腰をふる。
声が漏れた。
大きく声をあげる。
彼女は大きく声をあげた。
彼の液体が迸る。
体液は巡る。
彼女の体内を。
彼は彼女の肉体に留まっている。
彼女も動かない。
彼と彼女は3年ぶりの余韻に浸っている。
重なり合ったままの姿で。
彼は耳元で囁いた。
「愛している。愛している。今でも絵里を愛している」
「すごい声がするわね、あの二人はまるで動物ね」
美紀が囁き、部屋は軋み、喘ぎが聴こえる。
「あら、始まった。今日はここで眠れるかしら」
裸の彼は目覚めると同時に彼女の乳房を弄る。
彼女が目覚めた。
乳房を揉み、乳首を吸う。
揉み解し、ピンクの乳輪を舐めた。
彼は布団に潜る。
指は割れ目を裂く。
襞を舐める。
愛液を吸った。
口が彼をとらえる。
それを奥まで包み込む。
後ろから彼は彼女を愛した。
激しく強く愛した。
「愛している。愛している。今でも愛している」
彼女は甘い声をあげる。
「愛している」
彼らの儀式は今終わった。
彼は煙を燻らせている。