[巨石に癒される]
今の私の体型からは信じられないかも知れないが、私は’98年1月、拒食症にかかっていた。一日の食事は一個のゼリー飲料とスポーツドリンクのみ。日に日に体力は衰え、痩せ細っていった。それでも病院には行く気にならなかった。
一ヶ月近くたった2月11日の未明、いつもの ように睡眠を取ることができない私はあることを思った。
「私はこのまま死んでしまうのかも知れない。しかしその前にもう一度、自然の中を歩いてみたい」と。
‘90年の正月、友人と行った
そこで選んだのが、香川県三豊市荘内半島の山や半島突端の岬を巡る「四国のみち」だった。早速、夜明け前だったが車にデイパックを積み、出立した。
半島の三ヶ所の景勝地に寄る予定をしており、まずは半島の付け根手前ほどにある妙見神社を目指した。
駐車場からは参道の石段が続くが、不思議なことに足はスムーズに運んだ。久方ぶりの「歩き」に足の細胞が喜んだのかも知れない。
石段を上りきると、巨大な天蓋(てんがい)石という巨石 を背負った社殿が現われる。
弘法大師がこの地で修行中、妙見菩薩が現われ、そのお告げにより、大師は菩薩像を岩に彫り、一宇を建立したのが始まりとされる。
100トンを超えると思しき天蓋石は二重に折り重なるようになっており、その間の隙間を「開運の洞穴」と呼んでいるが、流石にそれを登ってくぐるほどの精神力はない。
境内はまだ7時台ということもあり、人っ子一人いないが、休憩舎からは仁尾の町並みや燧灘が望見できる。しかしこの背後に聳える妙見山(319.9m)からはもっと素晴らしい景色が広がっているはず。
人生最後の登山になるかも知れないのだから、登っておこうと歩を進めた。
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