歯科の前提条件は、間違っている。#02父の昔話 | こばやし歯科医院 web分院

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歯医者に関すること、庭で咲いた花のこと、鬘の話etc.etc.
役に立たない話が多いですが、気楽にお読みくださいm(_ _)m。

大陸移動説を提唱したウェゲナーが、そのとんでもない説を思いついたのは、世界地図を眺めていた時です。アフリカ大陸と南米大陸の海岸線の形が、一致していることに気がついたんです。



『あれ、これ元がひとつだったんじゃね?』と言ったかどうかは不明ですが、その思い付きを切っ掛けに、研究し大陸移動説を提唱したそうです。もっとも似たようなことを考えたことは以前にも居たそうですが、それは単なる思い付きだけで、南米とアフリカに共通する化石などの証拠をセットで提出したのがウエゲナーが最初だったようです。



発見というのは、ふとした切っ掛けて見つかることがよくあります。それが素人の思い付きということも多いです。現に、大陸移動説を唱えたウエゲナーは気象学者です。
このため、『素人が寝言を言いやがって』という趣旨の批判を大分されたようです。



では、私が歯科の前提条件の間違いに気づいた切っ掛けは、父の昔話です。



父が、機嫌よく酔った時にする昔話が一つありました。
それは、父の大学時代の話です。



歯科の治療に歯列矯正という治療法があります。
歯並びを奇麗にする治療法だと思っていただければ、間違いありません。



歯列矯正では、歯に力を掛けて歯を動かします。
その際の力は計算して掛けなければいけません。




一番簡単な方法は、歯の表面につまみを着けて、輪ゴムを掛けるという事でした。
勿論、輪ゴムと言っても専用の小さな輪ゴムです。
ともあれ、輪ゴムなら歯にかかる力の量は簡単に計算できます。
一番基礎の治療法であり、計算方法です。



その矯正学の授業で、こんな設問が出ました。



『歯を動かすために歯と歯の間に輪ゴムが掛かっている。この力を2倍にしなさい』



答は『輪ゴムを二つ掛ける』です。
極めて簡単な答です。



ところがです。父の同級生の7割は、こう答えたんだそうです。



『輪ゴムを二重にねじって掛ける』



輪ゴムの力は、伸びる量に比例します。
輪ゴムを二重にねじると、輪ゴムの直径は半分になります。
このため、輪ゴムの伸びる量は、元の2倍になります。
輪ゴムが2重に掛かって、伸びる量が2倍になるのですから、歯と歯の間にかかる力は、
2×2=4倍になるわけです。



これは、フックの法則と言いまして、物理学というより力学の基礎です。
最初に学ぶ物理法則と言ってもいいでしょう。今の高校のカリキュラムはどうなっているか分かりませんが、私の時は高校1年で習いました。



ともあれ、それを見た父は、実験でこの事を証明し、論文にして発表したそうです。
小さな学内誌かと思いましたが、矯正の専門誌に投稿していました。そのことを知った教授が、まだ学生だった父のスカウトに来たというのが、この話のオチでした。



ここで問題は、父は東京医科歯科大学歯学部の3回生だったんです。
父は昭和4年生まれですから、この論文を発表したころは1950年前後だと思います。
戦後になって教育改革が行われ、専門学校だった歯科は医学部に準ずる学科として扱われるようになり、歯学部は大学として扱われるようになりました。



東大に歯学部はありません。この事もあり東京医科歯科大学は、当時から国内で歯学部のトップという扱いでした。言い換えるなら、偏差値的には最も高い歯学部だと思います。まぁ、当時は偏差値という概念は導入されていませんでしたが(^^;。



何が言いたいかというと、歯学部のなかで最も偏差値が高かった父の同級生達は、物理が苦手であった人が多数派だったという可能性が高いのです。



ただ、父の同級生たちの名誉のために言っておきますと、試験で物理ができなかったということは無かったと思います。我々は中学高校と6年間英語を勉強しますが、駅で外人さんに英語で道を聞かれて、スラスラと説明できる人は少ないでしょう。



学校で物理学を習っていても、それは知識の一つであり、自分の道具として使いこなせる人が少数派だったのでしょう。ましては、歯科の世界は基本的に指が如何にうまく動くかにかかっています。大学に入って、その訓練に一生懸命になっているときに、高校時代に習った知識を十全に使いこなせというのは、酷だと思います。



ともあれ、当時の歯学部の学生が物理が苦手だった可能性が高かったのですが、教授陣はどうかと言いますと、もっと酷かった可能性があります。
何故かというと、戦後の教育改革が行われるまで、歯学部は専門学校だったんです。
つまり、看護師や美容師、理容師さんなんかと同じ扱いです。



失礼ですが、貴方の高校時代を思い浮かべてください。
お友達の何人かは、上記の専門学校へ進んだでしょう。
その方々は、物理は得意でしたか?
当時でも、物理が得意な方はもっと別な進路を選んだでしょう。



そして、最も困ったことに、現代歯科治療で使われる切削器具のほとんどは、この時期に普及し始めたのです。
コンプレッサー、エアタービン、電気エンジン、ダイヤモンドバーetc.etc.
現在の歯科の基礎がこの時代に確立し、普及していたと言っても過言ではありません。
父が歯学部の学生だった頃は、歯科という学科の黎明期であり、成立期だったのです。



何が言いたいかというと、現在の歯科医学という学問は、大多数が物理が苦手な人によって成立した可能性が高いのです。



……とってもヤバいです(^^;。



私が父にこの自慢話を最初に聞いたのは、小学生だったと思います。以後、酔っぱらった父から何度も聞かされました。酒の席の身内の自慢話なんか面白いわけがありません。
だから、何回目からは聞き流していました。



ところが、私が歯医者になった後で、なんかの拍子に父がこの自慢話を始めたのです。
その時、『あれ、当時最も偏差値が高かった歯医者の卵が、軒並み物理が苦手って、ヤバくない』と冷汗をかいたのを覚えています。



そして、歯科の色々な事象を洗い流していくと、もっとヤバいことに気づきました。
歯医者は物理学だけでなく、化学も生物学も苦手だったんです。
いや、理系科目全般が苦手である公算が高いです。



何故こんなことが起こったかというと、歯医者というのは基本的に如何に上手く歯を削れるかという技が重要なんです。学問というより職人の世界だと言っていいと思います。
現在では色々と様相が異なって来ましたが、基本構造は変わっていません。



そして、本来なら歯を削る機械が普及した段階で、歯科という学問をもう一度見直すべきだったのだと思います。しかし、それは虫歯の急速な普及によって阻止されました。
虫歯の原因である砂糖の輸入量が戦後になって増大した結果、患者数が激増したのです。
その結果、歯学部の数は、戦前の6校から30校まで増えています。
当時は、歯学部の増設に対処するだけで手一杯で、歯科の現状を見直す余裕なんて、欠片も無かったでしょう。



では、歯学部の増設が安定したころには、その辺りの問題点は、誰も気づかないまま埋もれてしまったのでしょう。常識というのは、その時点でそれ以上の思考をしなくなります。歯科の技術が確立し、歯学部などの教育環境が整ったころには、この辺りのことは常識として成立し、思考の範囲外に出されてしまったのです。



その結果、現代の歯科は天動説のまま人工衛星を打ち上げるような真似をしているのです。
そして、そのことを多くの歯医者は気づいていないか、気づいても計測誤差の範囲として切り捨てているのでしょう。



……『常識がおかしい』って、誰も考えないでしょう(^^;。



これ、結構怖い状況なんですけど、ほとんどの人が気づいていないので、全く問題になっていないんです(^^;。



ですが、大きな問題は起きていません。その理由を次回お話ししたいと思います。







写真は、この夏、庭に咲いた琉球朝顔です。
種をまいたわけではなく、隣家からツルが伸びてきて、繁殖しました。
3m程の高さの金木犀の先端まで伸びています。
朝顔の名があっても、実際は昼顔の一種で、10mぐらい伸びるそうです。
花は大きな朝顔そのもので奇麗なのですが、大きくなりすぎるので、処分が大変でした。


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