Cap and Trade | @Stanford Sloan "Change lives. Change organizations. Change the world."

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2012年7月よりStanford Graduate School of Businessへ留学中です。組織、社会に変化を起こせる人間へ成長すべく奮闘する30代オヤジの1年間を綴りたいと思います。

今日は、温暖化ガス(GHG)排出抑制に向けたカリフォルニア州の取り組みについて、Chairman of the California Air Resources BoardのMary Nicholsさんの講演を聴いてきた。
カリフォルニア州では、AB32 という法律により、温暖化防止のプログラムを実施しているのだが、その中でCap and Tradeという仕組みを取り入れており、主にこれに関する説明だった。

そもそも、温暖化ガス防止のためには、従来より、単なるCap方式とCarbon Tax方式の二つがあるが、いずれも一長一短がある。

Cap方式というのは、単にCO2排出量に規制をかけるやり方で、例えば発電所に年間CO2排出量を◯トン以下にしなさいと規制をかけるものだ。
この方式の欠点は、社会全体のCO2排出量はきちんと管理できるのだが、そのための機会費用をコントロールできないことがあげられる。
例えば、古くてCO2排出量の多い発電所にも、最新の発電所と同じ基準を適用するため、それを守るためのコスト(例えば改造費)が多額となる可能性があるということだ。
これは社会全体で見ると、経済的には非常に効率が悪いこととなる。

一方、Carbon Tax(炭素税)方式とは、例えばCO2排出量に対してトンあたり◯ドルを税金のように徴収するものだ。
この場合、例えばCO2排出量低減のための機会費用(例えば改造費)が炭素税を上回る場合には、事業者としては改造などにお金をかけず、炭素税を払うという選択肢を選ぶこととなる。
このやり方は、経済的には合理的なのだが、問題は社会全体のCO2排出量をきちんと管理できない可能性があるということだ。

簡単に言うと、この両方の方式をあわせた仕組みがCap and Trade方式で、カリフォルニア州では昨年から取り入れられている。
この方式では、まずCap方式と同じく、CO2排出量に規制をかけるのだが、規制を上回る値を達成できる事業者はその差分のクレジットを獲得することが出来、そのクレジットは必要な人に売却することができる仕組みだ。
一方、CO2低減のために機会費用が多くかかり事業者は、炭素税を払うのと同じようにクレジットを買うことで基準を満たすという選択肢を取ることができる。
この方式だと、社会全体のCO2排出量をコントロールできる一方、経済的にも効率的となる仕組みとなる。
更に、基準値を超過達成するインセンティブを与えることで、技術革新を促すことができるというメリットもある。

Cap and Tradeは、そもそも京都議定書で取り上げられた排出権取引の一つの仕組みで、欧州では2005年に導入され、日本でも環境省事業や東京都での「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」として実施されているようだ。実際には色々課題も多いようなので、カリフォルニアで実際にどのような結果を迎えるのかかなかなか興味深い。

ただ、今回の話を聞いて改めて、Cap and Trade自身はおいといて、アメリカでは社会全般として、ミクロ経済の概念を活用すして、(一人一人は大雑把なのに)効率的な全体制度設計を行っているという感想を持った。

スタンフォードに来て、今更ながら、ミクロ経済学って大事なんだと知った。
大学時代には、需要曲線と供給曲線を何となく理解していた程度だが、企業戦略、マーケット、国際貿易など、世の中の様々な事象を理解するために、ミクロ経済を使う局面が非常に多い。
現在のTPPの議論なども、賛成派と反対派で堂々巡りをするのではなく、ミクロ経済の理論を用いて、真に日本の利益となるかどうかを評価すべきでないかと思う。
昔は知りもしなかったが、クルーグマン先生のInternational Economicsという本を読み、市場原理だけで評価できないMarket Failureや、色々な波及効果(Externality)、Food SecurityなどのSocial Benefitについても、定量的とまでは言えないが、ミクロ経済学には評価する理論が存在していることも知った。

実際に企業のトップなどの講演を聴きに行っても、プロの経営者はミクロ経済学の考え方をきちんと把握し、現実に企業戦略に用いていることを知り、目から鱗だ。
日本にいる時は、大学の勉強は実社会で役に立たないと思っていたが、実は違うことを、この年になって知った。

一人一人の生産性で言えば、日本人の方がアメリカ人に勝っている点は多いと思うが、大局的なフレームワークを合理的に設計することで、総合的な生産性はアメリカに勝てないのかなと思う。

アメリカを見習うべきところは、なかなか多い。