たまプラァーーーザ、への深い憧れを押し殺しつつ、晩酌は地元の天麩羅割烹Мへ。
昨年末、店主夫妻が亡き父の民俗建築の個展に来てくださったのは、正直驚いた。お二人ともシティボーイ&ガールで、所謂、田舎、を持っていない。父の写真の数々を眺め、未知、未踏の郷土の匂いを嗅ぎ取ったのだという。
新鮮、美味い、お手頃の刺身。
先日、昼休みに980円カットに髪を切りに行った。こんな醜い顔なので、マダムのように美容院など行けない。そもそも無駄遣いになってしまうので、1000円未満の価格設定のこの店は、まさに私向きである。
黒い、二重顎、丸顔、閉じそうな瞼、津川雅彦級の目の下の隈、月面のようなシミが鏡に映る。
こんな醜い男が、女人に好かれるはずもなく、イヤラシさが滲み出てる、と言う声も漏れ伝わり、両親を恨む。
最近は肉を頼まず、近所のホルモン焼き屋Nでもナムルで晩酌してる。
工程としては、8分ほど。ハサミでササッと切ったら後はバリカン。美容院で婦人画報読んだり、割れた地球儀みたいのを被って紅茶呑むほど優雅ではない。私は時間で動いており、この店のカット施術は、助かる。
かれこれ10年通うが、店主、スタッフと私的な会話などしたことがない。イケメンスタッフに肩を揉んでもらってウットリするほど、飢えてない。
そろそろバリカンの仕上げ。そこに鏡に突然、よく知る美顔が横から現れた。
この天麩羅割烹の女将ではないか。
焼肉N、歩いて6分。最高級戸建富裕街区、桂台の入口前にあるホルモン焼き屋。
そう金持ちはホルモンがお好き、なのだ。
「真っ黒のひと、誰かと思ったらKovaさんじゃないのよ〜」
「(声を殺し)女将、声、デカい」
「(小声で)真っ昼間にヘアカットなんて、贅沢ね」
「隙間時間なので。あ、女将んとこ、今日明日定休でしたね」
「さっき寺家までうちのひとと散歩して、で、ここへ」
「女将、髪の伸びるスピード、平均的なマダムの倍速、じゃないすか?」
女性スタッフが、ププッと笑った。
「何が言いたいのよぉぉぉ」
「俺も平均的なおっさんの4倍速で。だから、月に2回、3回ここでお世話になってる」
「もう、言いたいこと、わかったーーー!!(笑)」
「女将、うるさい(苦笑)」
顔で商売するビジネスと言うより、テクノロジーとその効能を説いて回る地味な稼業。
そろそろまた髪を切りに行こう。倍速で髪伸びるあの女将に、また逢えるだろうか。