三月の陽気とか。朝は小雨があり、曇り空だったが、昼前には晴れて、日差しが。


仕事帰りに、市立図書館分館へ。

四冊返却。内二冊は再読だった。

本棚を回ってみたが、これと言う新しいものはなかったが、一応四冊借りる。

今日借りた本


池井戸潤

「ハヤブサ消防団」

集英社、2022


伊兼源太郎

「リンダを殺した犯人は」

実業之日本社、202411


貴志祐介

「兎は薄氷に駆ける」

毎日新聞出版、202403


五十嵐大

「エフィラは泳ぎ出せない」

東京創元社、2022





京都の油画科の芸大生だった真は友人とやっていたバンド活動に落ちこぼれ、休学していた。二年目に入った真に、年上のいとこ凛太郎からバイトを頼まれる。せいぜい一日くらいと後にしたがった彼がついたのは、なんと母校。

それも日本画の大学院。そのなかの、日本画の模写や修復等をするところ。

真のなき父も古典模写製作者だった。自分の作品を書かない父親を半ば軽蔑していた真は、父親のことがわからず、疎遠だったが、凛太郎は父を尊敬していた。江戸狩野派の総帥狩野探幽の血縁で破門された四天王の弟子、その孫娘の絵師が描いた屏風絵。それが民家で新たに発見されたものの、破損や汚れがひどく、その修復が大学に持ち込まれた。

その作業を任されたのが修士の土師と香港からの留学生でありながら、日本画の腕にも優れた蔡麗華。その二人に真が加わり、三人に任される。

自信を失っていた真は、専攻外の日本画が相手で、最初はびびっていたが、作業をすすめるうちに、女絵師の心まで迫るほどに打ち込み、見事に修復するまでを描いた作品。

日本画の画法はあまり知られていないから、興味深かったし、修復の過程もわかり、なかなか読ませる。


薬剤師の著者がこれにより、角川春樹小説賞を得たと言うのも興味深い。


大学生の吉乃は、母親に行ってみればといわれていた伯父が営む古本屋、深海に、夏休みに退屈紛れに行った。

それまでまともに口をきいたこともない伯父とは話もあまりできなかった。しかし、おすすめの本でもないかと聞いてみると、伯父は分厚いロシア人の小説を出してくれた。上下二冊で三千四百円。姪にも支払わせる伯父。

すぐには読まなかったものの、読み始めたら一気に最後まで。ソ連崩壊後に生きた母と娘、二人の人生を描いた小説。次々と資産家の男たちを渡り歩いて、玉の輿に乗る人生。

もっとこの作家のことが知りたくなったが、有名な作家でもなく、他の作品はすぐには見つからない。作家のことを話したいが、回りには読んだことあるものもなく、感想を話す機会もない。そんな吉乃に、伯父は読書会をすすめる。

伯父の古本屋の常連に呼び掛けて、店の一角ですることになる。社会人もいるし、店は深夜ゼロ時までだから、そのあとにすることになる。二時間ほど。

こうして始まった深海読書会。

メンバーは伯父と吉乃の他に、店のバイトに来ている国分藍。愛想がない女性。図書館司書の安井京子。吉乃と同じゼミにいる真島直哉。吉乃から話を聞いて、自分から店に連絡して参加した。ひそかに吉乃に好意をもつ。それと自営で広告などを請け負うグラフィックデザイナーの中澤卓生。

以上六人が土曜の深夜に集まり開く読書会。

そこで課題となった本は、最初は吉乃が気に入ったレプニコワ「真昼の子」。

二番目は真島が提案した絵本「いちばんやさしいけもの」。

三番目は京子の詩人大槻史子の詩集「隠花」。

四番目は中澤が提案した港草平の時代小説「雪、解けず」。

五番目はバイオリン独奏の楽譜。

実は音大出のバイオリニストだった国分が、三年間のご無沙汰から、店主に頼まれて、読書会で演奏する。有名な作曲家の未発表作品。「トランスルーセント」。

最後の課題は、店主の死後、残されていた製本された自伝「夜更けより静かな場所」。

読書会ごとに、その課題を提案した人物のことが描かれる。誰もが成功者じゃない、悩み苦しみ生きている。誰にも決断するときがある。それをして、生きていくのが人生。


なかなか読みがいがある作品だった。