東京バンドワゴンシリーズ第19作。

昨年の四月に出た最新作をようやく読めた。

東京下町にある古本屋、東京バンドワゴンに暮らす四代の家族と、彼らに関わることで家族同様な大家族の一員たちに起こる事件や出来事を綴ったシリーズ。

今回は、店主勘一のひ孫の花陽の結婚式で終わり、まるでシリーズが完結したような印象もあるが、どうなんだろう?

19作というのは、中途半端みたいでまだ続くような気もするが。あるいは次回作はスピンオフになるのか?

東京バンドワゴンのルーツとも言える江戸時代を舞台にした作品も出ているが、今だまともに描かれていない時代は、東京バンドワゴンのできた時代、勘一の父親とか祖父の時代かな?そんなのも読んでみたい気もするが。さあ、楽しみに待つことにするか。

よかった、少し不思議だが、心暖まる。

大阪の待兼山駅の東口近くにある一階が書店、らんぷ堂書店。二階には喫茶マチカネがある。

その喫茶マチカネの常連の仁さん、バイトの阪大生繭子たちが、駅の西口で見られる待兼山ヘンジの話題で盛り上がっているときに口をはさんだ、常連の沖口さん。普段は無口で、コーヒーを楽しんでいるだけだった。彼は電鉄の運転士を定年退職したが、この町のたたずまいが気に入り、町の歴史なども調べてきたという。一回の書店にもよく来ていると。

ほんの一瞬見られるだけの奇跡的な町の風景。それを探して集めようと繭子は言い出すが、そこで重大発表が。喫茶マチカネは半年後に閉店すると。駅名から待兼山が消えるのを契機に、65年間続いた喫茶店も書店もやめると。

それを聞いた沖口は提案する。閉店まで毎月、ここで喫茶店の思い出、町の思い出について話しませんか、と。そして、それを本にして、残しませんか、と。

こうして喫茶マチカネで、閉店後に毎月集まって、話を聞く会、待兼山奇談倶楽部が始まる。

第一回はカレー店ロッキーの時任さん。七十五才の彼は、その半生と町とのかかわり合いについて話す。

第二回は繭子が阪大で入っているビックバンドサークルの先輩のピアニスト城崎。彼女は苦学生だったため、バイトを色々したが、それを話してくれる。今はない学生ローンの金貸し、銭湯待兼山温泉、ストリップ嬢など、誰も知らない話を。

第三回は八十五才になる能登屋食堂のおばあさんが名乗り出てきた。父親始めた能登屋の歴史と、その店で知り合ったフィリピン人青年との関わりについて。

第四回は向かいのビルでバー、サードを営む大さん。少年時代の思い出について話す。

第五回は阪大卒業生で、地元で介護士をしている山脇恭子さん。倶楽部の案内のポスターを見て、名乗り出てきた。

彼女は朝鮮戦争の頃に参加した反戦デモについて待兼山に住むタヌキがじいさんに化けて彼女に話しかけてきたと、ふしぎな体験を話す。

そして、デモに参加していた高校生が、後にらんぷ堂書店を作ったと。

最後に登場するのは、言い出しっぺの沖口さん。待兼山とのかかわり合いについて、これまたふしぎな体験談を。さらにすい臓がんで、この会の記録が本になるまでは生きていないだろうと。

さらに、日を改めて、喫茶店主だけにはさらにふしぎな体験談を話し、奇妙な依頼をする。


不思議だが、納得できる。ありそうな話。誰の心にも眠る思い出があり、歴史がある。その一端が人の心を打つのだろう。

久しぶりの落語ミステリーだが、一風変わった趣向で、最初は戸惑う。

居酒屋で、隣に座った男から誘われて、怪談の落語会に出た男。地下室にある、つぶれた店の一室では、盲目で老いさらばえたもと有名落語家が語る怪談話。なぜか少し違う。なんか自分の過去の悪行を当てこするような話。

こうして秘密を持っていたものたちが次々と身を滅ぼしていく。

最初はもとやくざのバーのマスター。自分が殺した連れ子を若い嫁にしての幸せな暮らしが一変。落語は「もう半分」。


二番目は中学校の事務職員。見果てぬ夢の野球にこだわり、妻子をないごろしした男の破滅。落語は「無精床」。


三番目はもとぐれていた落語家亀松。今は記憶が戻らない一時期の悪事が、よみがえり天罰を受ける。落語は「髑髏柳」。