東京バンドワゴンシリーズ、昨年出た作品。手に取ったときは、読んでないかと思ったが、調べてみると読了していた。それでもと読んでみると、やはり覚えがあるところもあったが、何度読んでもいい。

春夏秋冬、四つの季節の堀田家の回りで起きたエピソードが描かれる。

春では堀田家の裏で行われている解体作業。その現場監督をしていた方向音痴の女性が、仕事を終わったあとに行方不明となる。飼い犬が気づいて、地下室に落ちていた女性が見つかる顛末が語られる。堀田家の初代が密かに作った地下の秘密通路の一部が、隣家にまで延びていたことが原因だとわかる。


夏の話は長らくやめていた夜間営業を喫茶店の方で始めたことでもたらされた事件が描かれる。椅子の上に残された安物の文庫本と挟まれた千円札。五日続けて五冊の関係が見当たらない文庫本。誰がなんのために?


秋の話は、喫茶店に置き忘れられたクリアファイル。中身は童話の手書き。それを見たバイトの和が驚く。昔、祖母に聞かされた話だ。しかも祖母の創作だと思っていた話。謎が解けたとき、古い因縁が明かになり、さらには創作者までもがわかり、びっくり。


冬の話では、新たな出入りが起きる。

ロンドンに帰り、世話していたマードックの母親がなくなり、父親は知り合いの施設にはいるから、マードックと藍子に日本への帰国を勧める。

今は施設にはいっている堀田家で育ち、医師として働いたかずみの目がよくない。そんな彼女の世話をしたいと、もと女優で、青の実母の百合枝が申し出てくる。孫も大きくなり世話をする必要がないし、かずみとは通じ会うものを感じるから一緒にいたいと。

去るものあり来るものあり。

コロナのために生活が変わり、将来に不安を抱えて、生きにくさを感じる人々。そんな人々のために開設された、とある町の市役所3階にある、2020こころの相談室。臨床心理士の三十代女性、晴川あかりと、認定心理士の六十代の白髪の老人、正木昭三の二人がカウンセラーを行う。

カウンセラーは相手の話を聞くだけ、解決策を提示するわけではない。それでも一人で考えていると堂々巡りをしてしまい、ネガティブになりやすい。他人に話すことで、内容が整理され、自己の中に対話のようなものが生まれ、少しは気分が晴れ、前向きな気分になれる。

そんな相談室を訪れた五人のエピソードが語られていく。各エピソードのあとには、あかりによる、ちょっとした推理が披露され、相談者の話の中にあった嘘や矛盾が解き明かされて、納得させられる。


最初の相談者は女子高生。コロナのために打ち込んできた合唱部の檜舞台がなくなった上に、就職希望なのに、行きたかった業種に、求人がなくなり、悩む。両親が離婚し、母子家庭の彼女には進学は無理。そんな悩みを聞いてあげたあかり。彼女はどうなるのか?


二番目に登場するのは、婚約者を失った若者。恋人がコロナ下で奮闘している看護士。結婚間近だから、一時的に転職を勧めて、話がこじれ、別れることになる。以来、うつ状態となり、仕事もままならない。そんな悩みをカウンセリングしたあかり。彼はどうなるのか?


三番目は三十代末で出産を迎えた女性。コロナで出産の立ち会いも面会も禁止されてしまった夫。その夫が仕事をいいわけにして帰ってこない。無事出産はでき、男子を得たものの、一人での育児にノイローゼになり、さらには、夫の浮気も疑い出す。そんな相談を受けたあかりだが、専門外ながら、育児支援のあれこれを世話してやる。

そんな女性の話の中にあった嘘とは何だったのか?


四番目は建築作業員で日給を得て、漫画喫茶で寝泊まりしていた中年男。コロナで漫画喫茶に泊まれなくなり、仕事も減り、公園内で寝泊まりしていた。そんな男の写真を勝手に撮った酔った若者たちと、一人の若者。ふとしたことで仲良くなる中年男と浪人中の若者。その交流で、生き方を変えることにした中年男。そんな話を聞いたカウンセラー。

話の中の矛盾に気づき、男の正体を看破するあかり。


最後に登場するのは、前の話に出てきた浪人生。しかも最初の女子高生の兄だとわかる。離婚した両親のそれぞれについて、別居することになった兄妹。リモートで予備校の授業を受けるだけで、引きこもりに近い兄を外に出そうと、妹は兄の名前を語り、カウンセリングの予約をとったり、待ち合わせの呼び出しのメールを送る。あかりに勧められて、カウンセリングは、リモートで受けた。

そのなかで彼はメールもとの正体に気づく。妹と再会した彼は意外な話を聞く。就職希望だった彼女が進学すること、学費を父が出すこと、それが契機になり、家族四人がまた一緒になるかもしれないこと。

最初のカウンセリングで、妹が忘れていった手作りのお守りは、回り回って、兄の手から妹に渡ることになる。

久しぶりの森沢作品。今回もよかった。大学生たちの話だから、どうかなという思いもあったが。

海辺の町の大学二年生の夏川誠。将来の夢もなく、ぼんやり生きていた。実家は 両親が始めた食堂だったが、父親がなくなり、兄もなくし、母がパートさんと二人で頑張っている。なくなる兄から母と店のことを頼まれたことが、生真面目な誠には無視できなく、といって自分が後を継ぐとも言えず、悶々と悩んでいた。

気晴らしにバイクで景色のいい岬にいったときに、同じ年頃の二人の女性と知り合う。同じ大学生だった。二人は、チェアリングをしていると言う。景色のいい場所へ、椅子をもって出掛け、ただ座って、駄弁ったり食事をして楽しむ。

地元の農家の娘である上村風香と、ピンク頭で、もとパンク系ロックバンドにいたと称する王村玲奈。

一緒に体験してみると、結構楽しい。誠は友人二人とシェアハウスで暮らしていた。同居する二人もやがて仲間に加わる。医者一家の次男坊ながら、コーヒーが好きで店を開くのが夢なマスターこと、奈良京太郎と、ネットトレーダーをしているミリオンこと、長沢智也。

やがて彼らはチェアリング部を立ち上げ、さらには、青空喫茶を休日に開くまでになる。マスターの入れる美味しいコーヒーと、料理上手な風香の作るものが売り。

夢に向かってまっしぐらだと思いきや、彼らにはそれぞれ個人的な悩みがあり、家族との軋轢を持っていた。

そんな彼らが投げ出すことなく、人生にチャレンジしていく青春物語。

プロローグのエピソードがなかなかわからなかった私だが、最後になって、そうなるのかとわかり、幸せな気分になれた。