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月だけでした。
ずっと居てくれたから、帰ってこられた。
闇がきちんと存在する奈良。
夜は夜らしく真っ暗闇。
これっていいこと。我こそ太陽と言わんばかりに
赤々とネオンがチラつくのは自然に反してる。
でも、こわいぃぃーっ。
深夜の秘儀「お水取り」を観た帰り、
あまりの寒さにガチガチ震えながら二月堂より下山。
東大寺辺りは誰も歩いていない。私だけ。
昼間、鹿せんべいを求めて、
うじゃうじゃ屯する鹿さんもいない。
時計は午前3時を回ってる、ひとりは当たり前か。
石畳脇にポツンと立つ自販機を発見。
明かりが嬉しくて、缶のカフェオレを買う。
あたたかさに安堵。両手で缶を包むように持ち、
闇を振払うように歌を口ずさむ。
「勝つとぉ~思うな~思えば負けよ~♪」
なぜ、美空ひばりの『柔』なのか…
聴いていたのは空に浮かぶ月だけ。
興福寺まで帰ってきた。
家まであと少し。
広い広い境内を突っ切る者、やはり私ひとり。
猿沢池へ続く階段の前で、
やんわりと明かりがついた手水場に目が止まった。
![◆ cinemazoo-興福寺](https://stat.ameba.jp/user_images/20090314/02/ko-mainu/68/e2/j/t02200165_0640048010152055015.jpg?caw=800)
何枚かのふきんが蛍光灯の下で吊られてる。
やたら白いふきんが朗らかで、
「おいでおいで~」と誘ってるみたい。
ここまで無事に帰ってこられたんだし、
ちょっとお礼かたがた浄めて帰ってやるか~
手水場へ寄って、口と手を洗い、
南円堂でお賽銭、つづいて鐘を…
ごぉ~~~ん!
静かなせいで、むやみに響いてしまった、焦った、
叱られるんじゃないかと周りを気にするも、
やはり見ていたのは頭上の月だけ。
結局、家に着いたのは午前4時前。
恐る恐る、寒さにブルブル震えながら歩いたので、
たっぷり40分ぐらいかかってしまった。
途中、商店街も通ってきたけれど、
当然シャッター通りと化してた、
夜歩き中、誰一人として会わなかった、これが夜…
闇の恐さをしかと味わったのだ。
いつの間にやら手にしていたモノが変わってた、
缶飲料から携帯電話に。
まぁ、月明かりだけで帰れる世じゃないものねぇ。
奈良の夜道歩きは歌と携帯と缶飲料が必需品ですか。
「負けてぇ~もともと~この胸のぉ~♪」
自然には勝てない、闇にも月にも。
しかし月夜で『柔』を歌うかぁ、
もう少し浪漫心がほしいのぉ。
「巨匠・修二会の巻」 つづく
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近鉄奈良駅から徒歩25分ぐらい、5*宅から30分ぐらい。
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