特命スーツ軍団
敬愛なヒト・増村保造センセ。
センセは女を描くことに
たいそう長けていらっしゃったようだが、
男を描けないものに、女は描けない。
この映画を観て、あたしゃ分かったのさ。増村センセは
人間とは、若さとは、男とは、自分とは⋯などなどの
「そもそも」を実に客観的に思考された期間を
十分にお持ちだったと思われる。
たぶん あたしの想像だと、センセにとっての それは
若き日のイタリア留学だったのではと、
独り得心したのであった。
この映画では「若さ」と、
「男集団」の一直線が描かれておりますが、
彼らは幕末の志士群と似てますね、天国のセンセ。
スーツ姿のスパイ養成学校へと選択されてしまった若者は、
やがて 元恋人の命をも
冷徹にスパイの標的としてあしらっていく。
止められない運命、若き日の輝き、その残酷さ・・・・!
指揮官・増村センセの指揮棒が冴え渡っておりますね。
その結末を、平成の世を渡り、
日ごとにオッサン化が進行中の私は
アホだと思う。
ホンマ、男って・・・・・。
スパイ学校というより、スパイごっこという緩さがあるが、
そこが私の好みで、センセの狙いでもありましょう。
「国のため」に自分を置き去りにし、
命を勝負コマとして扱うことのアホ臭さが伝わってくる。
この映画はスパイの実像に迫るものではなく、
若さとは、青春とは? を観るものに問うものだ。
秀作であるのにもかかわらず苦手な作風の、
『007 カジノ・ロワイヤル』と
本作が異質なのは ここで、だから私は
この映画に心から拍手したい。
特に筋運びの軽妙さ!
もちろん、市川雷蔵サマのクールな演技も拍手。
スターのオーラに次々と引き込まれていく。
スーツ姿の雷サマも ええなぁ~。
『次郎長三国志』のお人好しのブタマツを演じた加東大介が
ここでは教官役で、登場一発「出世したなぁ ブタマツ」
と変なところで感心した自分が可笑しく、
クールな場面で笑ってしまった。増村センセ、ごめ~ん。
~'06年 新文芸坐にて観賞~
●Amazon 増村保造監督『陸軍中野学校』