赤い天使 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


一時は獣のように・・・
若尾文子サンなのか誰なのか定かではないが、
もっとも印象的なシーン。
戦場で男と女が、それも医師と看護婦が絡み合う。
シュールであり、リアル。



タイトルは「赤い」のに、
とても「青い」と感じた裸体のシルエット。
激しい戦地で結ばれた男女は
その時初めて、生きた。
尋常ではないが、私はふたりの一途さに憧れさえ覚えた、
それは何故だ?

我を忘れて激走する人間は
必ず狂気を帯びている。
目的を持ち、脇目もふらずに一心なヤツなど、
もはや人ではなく獣だ。端の人間には
「理解できない突拍子もないこと」を仕出かす。

『赤い天使』のナースは
敬愛する医師への献身のため、
その医師に命じられたわけでもなんでもないのに、
自ら他の男と関係を持つ。男は戦傷のため、
両手を切断された患者だった。
そんな患者が満員の戦場、医師は己の仕事に
虚しさを覚えていた。女は医師を慰めるためだろう、
「男でなくなった患者」に「男の喜びをあげる」が、
それは母性愛などという柔らかいものではなく、
単に異常なのだ。
もう医師への愛しか、目に入らない。
が、真にそれは医師への愛のための行動なのか、
ただ自分がしたいだけなのか、
もう彼女には分からないし、私にも分からない。
愛し過ぎると愛は迷走し、自己愛が色濃くなる。

映画の背景は戦場である、
人が人を殺し合うことに時代は激走しており、
異常であることが普通とされた、
こんなこと以上に異常なことなどありはしない、
爆音を耳に、男と女がただの獣となっても、
むしろ美しく、清らかで、だからこそ、
一時ふたりは 人間らしく輝くのだ。


★★★★★☆☆ 7点満点で5点
素晴らしい!! センセー!
タブーに挑戦するってことは、
アーティストがアーティストたる証明だと思う。
増村センセは それをやるからカッコイイ。

障害者や兵士の性欲、
『赤い天使』にはタブーが しっかり存在する。
『陸軍中野学校』では、
戦時中という狂気の時代を背景に
「男の青春」を描いた増村センセが、
本作『赤い天使』で「戦争の虚しさ」を描く。
ズバリ戦争に標準をあてるのではなく、
「愛に走る女」をリアルに描くと
戦争の卑劣さ、虚しさが滲み出るのですね、センセ。
センセは映画から情緒を排除する。
それはシュールレアリストならではの技法であって、
戦場での死に対し、観る者の感情移入を許さない。
そのため、映画は異世界として成立し、
同時に狂気をリアルに演出することになる。
人の死に泣き、わめく、
これが許されるのは平和で豊かな時代であり、
戦争という狂気はそれを許さない。

正直、センセの知性に あたしゃ惚れました。
センセがご存命なら「ハイ! センセ!」
と脇目もふらず、後ろを付いて行ったのにな。
そう、ドラマ『スチュワーデス物語』の、
「はい! 教官!」
明るく元気に付いていく高速師弟物語の原形がここに。

~'06年 新文芸坐にて観賞~






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