〝こんなこと言って来るのはお前だけだ!〟 | 好文舎日乗

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本と学び、そして人をこよなく愛する好文舎主人が「心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつ」けた徒然日録。

15日の記事でも触れたが、A君が29日の進路指導室への願書提出について担当教員に質問した。

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「志望理由書の内容を深めたいので、もう少し締切を延ばしてもらえませんか?」

「それはルールだからダメだ。7日の判定会議から2週間以上あるのだから、志望理由書も書けるはずだろ」

「他の学校は、生徒が自分で出願するのに、どうしてウチは進路による一括出願なんですか?それも出願期間の1週間も前に提出させるなんて……。他校はもっと志望理由書の作成に時間をかけています。それに面接の順番が早い方が厳しく採点されると聞いていますし……」

「一括出願は郵便トラブルを防ぐためにやっている。面接の順番が早い方が厳しく採点されるなんて話は聞いたことがない。それに出願が早いからと言って1番になるとは限らない。また、1週間やそこら余分に時間があったところで、志望理由書の内容が深まるとは思われない」

「去年も締め切りに間に合わなかった生徒がいたそうですよね。設定に無理があるのではないでしょうか?」

「去年はそういう生徒がたくさん出て大変なことになったんだ。今年はルール厳守。お前は教員志望のくせに〝学校のルール〟破るのか?それに、もし、トラブルが発生して受験できなかったらどうするんだ」

「それはもう自己責任ということで……」

「そんなことが許されると思っているのか!お前が納得しても親は絶対納得しないぞ。俺が親だったら絶対納得しない! 他の生徒は何も言ってこない。こんなこと言って来るのはお前だけだ! 他の生徒は29日でもいいと思ってるんだろう。お前だけを延ばすことはできない」

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他にもやりとりがあったらしいが、怒りと失望で頭が真っ白になってA君はほとんど覚えていないという。信号無視の話が出ていたというが、どうせお前の行為は信号無視と同じだとか言ったのであろう。自分たちの〝ルール〟と〝思い込み〟に執着する余り、A君の主張を端から否定している。否定の根拠に説得力は微塵もない。以下、感想というか、〝反論〟を述べる。

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「一括出願は郵便トラブルを防ぐためにやっている」というが、出願期間の1週間前に提出させる理由としては弱い。(毎年これの繰り返しである)

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面接の順番が早ければ厳しい採点になるというのは、当然有り得ることである。面接官は事前に綿密な打ち合わせを行うが、所詮頭の中と実際は違う。受験生何人かに実際当たってみて、面接官の中に〝その日の基準〟出来上がる。それまでは多少厳しめになることは〝絶対にない〟とは言えない(と大学入試の面接官経験者[教授]から聞いたことがある)。「そんな話は聞いたことがない」のは当たり前。そんなことを大学が公式に発表するわけがない。

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「出願が早いからと言って1番になるとは限らない」と言うが、昨年は僕が指導した生徒の3人がそうであった。〝限らない〟とは〝完全否定〟ではない。少しでも危険性があり、生徒がそれを恐れているのであれば、教師はそれを回避すべきであろう。

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「1週間やそこら余分に時間があったところで、志望理由書の内容が深まるとは思われない」などとは、自分の(添削)指導経験の無さを自白しているようなもの。1日でガラリと内容が変わることさえある。僕の指導経験からも3日あれば必ず深まると断言できる。進路指導の担当者なのだから、無責任な発言は慎むべきである。(〝わからないこと〟を「わからない」と言える教師でありたい)

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「昨年は進路への提出日に間に合わない生徒が大勢出、大変なことになった」というが、「大変なこと」とは何か。そんな話は聞いたことがない。みんな受験を許されているのだから、大学側に迷惑はかけてはいないはずである。「こんなこと、学校だから許されるけど、社会に出たら許されないことなんだよ」と、昨年の進路主任は生徒たちに説教したようであるが、学校で許されることなら問題はないだろう。「社会に出たら許されないこと」だとは、生徒も十分にわかったうえでやっている。いわば「確信犯」なのである。

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「お前は教員志望のくせに〝学校のルール〟破るのか?」というが、A君は自分のことだけを考えて行動を起こしたのではない。今年はダメでも、自分の行動が契機となって話し合いが持たれ、来年度以降の後輩たちのためになればと思って進路指導室を訪ねたのである。そうでなければ、誰が好き好んで教師に睨まれるような行動に出たりするものか。生徒の意見を頭から否定する進路指導室の連中よりもA君の方がよほど〝教師としての資質〟に富んでいると言えるのではないか。「信号無視の話」もここで出たのだろうが、例として相応しくないだろう。次元が違う問題である。

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「そんなことが許されると思っているのか!お前が納得しても親は絶対納得しないぞ。俺が親だったら絶対納得しない!」などとは余計なお世話である。「納得しない」のはオマエの勝手であるが、A君は両親の同意を得て進路指導室へ来ているのである。

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「他の生徒は29日でもいいと思ってるんだろう」とは何を根拠に言っているのか?他の生徒にアンケートでもとったのか?「他の生徒は何も言ってこない」のは諦めているからである。「睨まれるのが怖い」からである。昨年は随分不満を聞いた。保護者からも相談を受けた。

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「こんなこと言って来るのはお前だけだ!」

素晴らしいではないか! ウチにもA君のような生徒がいることを誇りに思うべきである。