【雑感】田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』 | うんちくコラムニストシリウスのブログ

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『共喰い』『切れた鎖』に続く三冊目。
いつも思うのは、田中慎弥氏はラストを上手く締められない点に難があるという点。

以前『共喰い』でその傾向を指摘したが、今回の『神様のいない日本シリーズ』でも同じ事が指摘できよう。

途中までは非常に面白かった。
1958年の日本シリーズと1986年の日本シリーズを素材に、野球をめぐる親子の物語を作り上げた構想力は非常に素晴らしく、かつ破綻もなかった。

だがベケットの『ゴドーを待ちながら』を作品に上手く活用できなかった点がどうしても否めなかった。

しかも作者自身が上記の欠点を理解せず、ラストまで『ゴドーを待ちながら』で締めようとするのだから、性質が悪い。

なお同作品の選評としては、

池澤夏樹氏の「およそ無謀な企てであり、いくつかの点で破綻している」「いかになんでも盛り込み過ぎ・作り過ぎ」

高樹のぶ子氏の「ここに「ゴドーを待ちながら」が入ってくると、観念の操作が透けて見えてしまう」

黒井千次氏の「よく作られた小説でその工夫に感心させられた。ただ、中学生がベケットの「ゴドーを待ちながら」を上演するという話の運びには問題があるのではないか」

宮本輝氏の「作品のなかにたくさんの材料を用意したが、それらは別々のものとしてばら撒かれただけで、融合して化学反応を起こさないまま終わってしまったという印象である」

があるが、まさに同意である。

個人的には、ベタと言われても、同作品は「1986年日本シリーズ第八戦」で終わるべきだったろう。

ちなみに田中慎弥氏の最高傑作は『切れた鎖』だと思う。
『共喰い』『神様のいない日本シリーズ』は微妙だが、『切れた鎖』は良かった。