
たまたま本屋で目に入ったので読んでみました

まずは日本政治学から見た通説的な日本政治に対する見解から。
――――――――
万能に見えた国家の無力は国民生活を長期にわたって「市場」の力にさらすことになったが、この大きな変化の過程で発生した諸々の社会問題の根は 深い。中産階級の縮減が本格的に始まり、家族の崩壊や犯罪の増加など、かつての日本例外主義(利益政治が中心であった日本の経済的パフォーマンスが卓越し ていたこと等)は今やすっかり歴史の彼方のものとなった。それは経済的な格差とともに精神的・心理的崩落現象を伴い、その喪失感や無力感はいわゆる人間力 の衰退をも招いたのであた。
この過程を短時間で逆転させることができるような特効薬はない。こうした特効薬と称するものがあるとすれば、それは心理的自己満足・自己欺瞞を 促す類のものであり、症状のさらなる悪化の原因にしかならないだろう。リアルな目標設定を前提にした着実なダメージ・コントロールと問題の解決の彼方に、 かろうじて「美しい国」への展望が開けてこよう。「20世紀型体制」の利益政治が日本においても終焉を迎えた頃、世界政治はテロや武力行使、宗教やナショ ナリズムの台頭といった、利益政治中心のそれまでの政治の守備範囲とはおよそ関係のない諸課題に直面するけとになった。「20世紀型体制」の崩壊は、こう した転向を促進する面を持っている。右翼政党の台頭はそれを物語っている。
(5-6頁)
――――――――
大体どの政治学者の方も上記見解はそんなに異論はないでしょう。
次は今後の日本政治で問題になると予想される話から。
――――――――
●福祉給付制度の問題
レーガン政権下で生じた事態を、ピーターソンは「アメリカのアルゼンチン化」と形容する。つまり、海外からの資金でやりくりしている消費ブーム、過大評価された通貨、赤字財政による政府支出の急増と巨額の貿易赤字を伴う民間投資の減少等、すべてがそうである。
いずれにせよ、利払いと配当金支払との増加は必至で、それに対応するためには国際収支を黒字にしなければならない。…しかし、言うは易く行うは 難しの代表が予算(私による訂正)の大幅カットである。ピーターソンは、財政赤字問題、特に権利化した福祉給付制度をその焦点と見なした。レーガン政権に よる歳出削減はもっぱら裁量的な非軍事支出の領域に向けられ、その結果、インフラの整備・環境保護・教育・職業訓練・医療社会サービス等は大幅に削減され たが、連邦予算を「消費マシーン」にしている福祉給付制度は増加の一途をたどってきた。
端的に言えば、中産階級以上の人々にとってのタダ飯というのが福祉給付制度の姿である。またこのこと自身、世代間の不公平感を培養するものであ るが、消費水準の大幅カットが合言葉になる中で、このタダ飯計画が聖域化されるのは不合理この上ない。ピーターソンが共著『限られた時間の中で』で、福祉 給付制度がいかにアメリカの将来を危うくするかを力説したのは、この問題の処理なしに「衰退」を脱する道がないと判断したからである。
ピーターソンによれば、今日存在するのは「自由放任主義的」福祉国家であり、国民的利益や世代間の公平さなどはおかまいなしに「消費への権利」 を擁護する風潮である。サプライサイド(供給重視)の経済学に代表される右派は、「快楽と消費の政治」の擁護者となってしまった。彼らは貧者に対する歳出 は削減する一方、中産階級以上の人々向けの福祉給付にはいたって寛容だった。しかし、これでは政府への懐疑とか自由市場への信念といった彼らの言葉は空し く、ただただ貧者に対する温かさの欠如のみが浮き彫りになる。他方リベラルは、歳出削減にひたすら反対しているが、彼らは国内の歳出が社会の進歩に無関係 な圧力団体の利益に奉仕しているに過ぎないこと、社会的目標達成のためには経済成長が不可欠なことを見逃している。
――――――――
さて、今野田政権は、「現行の社会保障制度を維持するため」に消費税増税を推進しようとしているわけですが、上記のアメリカの話にあるように、 社会保障制度そのものの必要性とか今後のあり方については十分な議論をせずに、あくまで現状維持を目指すことが自分たちの使命だと考えているわけです。少 し具体的な話をすれば、野田政権による税と社会保障の一体改革の中で、「給付付き税額控除制度」の話が上がったわけですが、本格的に議論をすることなく、 結局消費税増税だけが焦点にされた年金制度改革の話が続いています。そういえば、一昨日のNEWS23のタイトル「年金制度はねずみ講?」でしたね。本質 を突いたタイトルだと私は思います。あと近時の流れで言えば、橋下市長が出した「維新八策」の「掛け捨て型年金制度」。あれは上記の「タダ飯論」と相通ず るところがあるのでしょう。
今後社会保障制度と世代間公平性の維持が困難とされる中で、「給付付き税額控除制度」の議論をより深めていく必要があるのでは?と私は思うわけですが(私は導入支持派なので)。
さて、最後は「政治学がこれまで目指してきた理念」に触れて終わります。
――――――――
政治はわれわれの自由の発露として捉えられるということである。どのような主義や体制が登場しようともその根底には自由の選択があり、やがて自 由はこれら既成のものを相対化し、見直すことを促す契機になるのである。思想はこうした自由の内実を埋める最も重要な要素の一つであり、「アイデアは現実 的な結果」を伴うことになるのである。あえて政治学の観点から付言するならば、このことは広義の意味での政治学の作業が、互いにそれなりの対話と協力の関 係を形成できることを示している。例えば、政治を思想的に捉えなおす領域と、思想を政治的に捉えなおす領域が、それぞれ自分の領域に立てこもり、自己完結 性を誇示するだけで満足するのではなく、相互の協力によって現実をより豊かに、総体的に描き出すチャレンジはいくらでも可能ということである。
(359-360頁)