Xは、プライバシー権侵害を根拠として、Yに対して、本件記事の差止めを求めている。それに対して、Yは、①本件記事はXのプライバシー権を不当に侵害するものではないこと、②Xの差止めはYの表現の自由及び知る権利を侵害すると主張して、Xの差止めに反論している。そこで、裁判所が憲法上Xの差止めについて判断するためには、まずXがプライバシー権侵害を根拠として本件記事の差止めを求めることができるかについて検討する。
【プライバシー権侵害を根拠として事前差止めを求めることができるか】
プライバシー権の意義について、宴のあと事件判例は、プライバシーの権利とは、私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利であるとして、自由権的なものとして捉えている。もっとも、情報化社会の進展により、国家やマスメディアが個人に関する情報を収集・保管することが、保護されるべき個人の秘密にとって脅威となるようになっていることを考えれば、プライバシーの権利とは、自己に関する情報をコントロールする権利であると解するのが相当である。
またプライバシー権については憲法上明文規定がないので、憲法上保障が及ぶのかが問題となる。この点については、プライバシー権は憲法13条後段の幸福追求権の一つとして憲法上保障されると解するのが相当である(抽象的権利説)。なぜなら、プライバシー権の具体的権利のうちとりわけ社会権的側面については作為請求の対象が特定されておらず、その反面で、国家権力による私生活への不当な干渉が許されたのでは、個人の人格的生存は確保し得ないことになるからである。
また、Xが私人たるYに対してプライバシー権侵害を主張できるのか、私人間において憲法の人権規定が適用されるのかが問題となるが、この点について、三菱樹脂事件判例は、私的自治の原則を尊重しながら、同原則の一般的制限規定である民法1条や90条等の諸規定の適切な運用によって自由や平等の利益調節を図るべきであると判示している。さらに、今日私的自治の原則と人権保護の調和を図る必要性があることを考えれば、私法の一般条項を介して、憲法の人権規定ないし趣旨を考慮するのが相当である(間接適用説)。したがって、Xは、プライバシー権侵害を根拠として、Yに対して事前差止めを求めることができる。
【プライバシーの権利と表現の自由の両立】
Xの事前差止め請求に対して、Yは本件記事の掲載は表現の自由(憲法21条1項)に基づくものであるから、表現の自由とプライバシー権の調整をいかに図るべきかが問題となる。この点については、プライバシー権が個人の人格的生存にとって不可欠な権利である一方で、表現の自由も個人の人格を形成・発展させ(自己実現)、民主主義に必要不可欠な討論を保障する(自己統治)という二つの性質を有する重要な人権であるから、両者の利益調整は等価値的な利益衡量により図られるべきである。
本問においては、Xは元衆議院議員であるBの孫であり、掲載内容が将来公職選挙の立候補となり得る人物に関する記事であることを考えれば、プライバシー権よりも表現の自由の保護を優先させるべきである。
【プライバシー権による事前差止め請求の要件・審査基準】
事前差止めは、行政権が表現内容を審査して不適当と認める場合にその表現行為を禁止する検閲にはあたらず、検閲禁止の法理(憲法21条2項)には抵触しないが、事前抑制として禁止されないかが問題となる。この点については、事前抑制が事後抑制に比べ、恣意的運用の危険が大きいことに考えれば、裁判所による事前差止めは、より厳格な基準の下でのみ許されると解するのが相当である。すなわち、公共の利害に関する表現行為の事前差止めは原則として許されないが、①その表現内容が真実でなく、またはそれが専ら公益目的でないことが明白で、かつ、②被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被ることがあるおそれがあるときは、例外的に事前差止めが許されると解するのが相当である(北方ジャーナル事件判決同旨)。
本問では、①Xの病気の感染の真否については明らかではないが、離婚の事実については真実であり、②また本件記事は将来の公職選挙の立候補者についての内容であり、公共目的でないことが明白とはいえないこと、③本件記事の公表により、Xに重大にして著しく回復困難な損害を被るとはいえないことが判断できる。したがって、Xの本件差止めは認められない。
【解答後の反省点】
憲法論述は、問題記述→問題提起(Xがプライバシー権侵害を根拠として本件記事の差止めを求めることができるか)→人権の定義・根拠(学説・判例は知っている限り極力言及)→要件・審査基準→あてはめでいきます♪
ただまだ書きなれてないですね。。。