2024春アニメ 5月25日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2024年春アニメのうち、5月24日深夜に録画して5月25日に視聴した作品は以下の4タイトルでした。

 

 

アストロノオト

第8話を観ました。

今回は蓮がナオスケが犬ではないという証拠の映像を押さえようとしてナオスケが困ってしまい、拓己が犬っぽいことをすればいいと言い出して、ナオスケはさんざんに犬扱いされてしまい拗ねてしまう。ナオスケはミボー星では寿命が長い生物であり、ナオスケがミラの生涯を通して護衛を務めた後の生きなければいけないと知って拓己はちょっと同情します。そうした拓己の考えを聞いてミラも今までそんなふうにナオスケのことを考えたことが無かったと思い至る。

そんな中、松原が部屋のカギを紛失してしまったと苦情を言ってきて、同時に他の住人のカギも無くなったと言ってきて、どうやらゴシュ星のスパイの仕業ではないかという話になり、拓己の発案でお芝居をしてスパイをおびき寄せて捕まえようということになる。それでミラが猿芝居で自転車のカギを大事なカギみたいに見せかけて食堂のテーブルの上の手提げ金庫の中にしまって監視することにした。ところが雨戸が上手く閉まらないので引っ張っていたら中からゴシュ星のスパイのイカ型ロボッロが出てきて大騒ぎになり、ナオスケはスパイを追いかけるがいちいち蓮が監視してくるので犬のフリもしなければならず、なかなか自由に行動が出来ない。

そういうしているうちに金庫の中の自転車のカギがスパイによって奪われてしまい、更に嵐のせいで停電になってしまい、ナオスケがスパイを探す間は拓己がミラの護衛をすることになるが、停電で冷蔵庫が動かないので中に保管してあったウニがダメになってしまう前に食べてしまおうということでウニを肴にして住人が集まって酒盛りが始まる。そこに葵も加わりますが、スパイを探知する機械で見てみたところ、葵に反応して、どうや葵がゴシュ星のスパイに憑りつかれていることが判明する。すると突然に葵が狂暴化して拓己やミラを襲ってきて、拓己は葵にキスをして口からゴシュ星のスパイを吸い出すが、結局スパイには逃げられてしまった。そして葵は憑りつかれていた間の記憶は無く、他の住人たちも酔っぱらって何も覚えておらず事なきを得たが、葵は拓己にキスされたことは覚えている様子で、ミラも拓己と葵のキスを目の前で見て心中穏やかでない様子。そういう感じで今回は終わり次回に続きます。

 

 

変人のサラダボウル

第8話を観ました。

今回はサラが学校に通えるように惣助がサラを自分の子供ということにして戸籍を取ろうとして頑張る話でした。自分の隠し子だったという嘘で父である前の探偵事務所の所長に手続きの出来る伝手を紹介してもらおうとするのだが、父親は既に惣助の事務所で預かっているという謎の子供のことについて調べを終えており、サラが正体不明の子供であり惣助の実子ではないことはバレていた。それでサラが正直に異世界人だと告白したら惣助の父はそれを信じて、手続きしてくれた。

それでサラは学校に通えることになり、そのことを友奈に言ったところ、サラの通う中学に友奈も転校すると言い出し、共に同じ中学に通おうと約束するのだが、サラの年齢を調べてみたところ、まだ12歳だったことが判明し編入するのは小学校になったので、友奈は転校先でぼっちになってしまいサラに裏切られたと悔しがります。

今回はその他にリディアが望愛とプリケツにバッタの天ぷらを料理して食べさせる話もあり、バッタの天ぷらを食べすぎた望愛がリディアがバッタのヒーローであるグラスホッパーになった夢を見て、それでバンド名を「救世グラスホッパー」と決めることになりました。まぁそんな感じで全体的に面白く感じられなくなってきて、話の続きも興味が湧かなくなってきて、特に頼みの綱だったリディア関連の話でもあまり笑えなくなってきたので、今回で視聴を打ち切らせていただきます。

 

 

魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?

第8話を観ました。

今回はザガンが屋敷でウォルフォレと接しているうちに懐かれてしまい庇護欲のようなものを感じてしまい戸惑ったり、ネフェリアも一緒に3人で街に出かけて買い物したりして、シャスティルに親子連れだと間違われたりします。またウォルフォレを連れてマルコシアスの魔王殿に行き色々と調べものをしたりする。ウォルフォレは過去に父親を殺されていることも分かった。一方でシャスティルは最強の聖剣所持者であるラーファエルに会い、聖剣を再び持つことが許されますが、ラーファエルはザガンとバルバロスに会いに行き一触即発となると言うところで今回は終わりでした。たぶんそうだと思う。途中で寝落ちしたみたいだから何かが抜けてるかもしれない。とにかく、全体的に悪くはないのだが全体的に飽きた。同じことをずっとやってる印象で、ここに来て視聴が限界になってきた。何より、ここから面白くなるとは思えなくなってしまった。そういうわけで今回で視聴を打ち切らせていただきます。

 

 

ガールズバンドクライ

第8話を観ました。

今回も神回でしたね。毎回が神回なんですけど、やっぱり現状この作品が一番面白い。始まる前はフルCGのガールズバンドアニメということで期待感は低めだったんですが、このプロジェクト自体がずいぶん前からじっくり準備されたものだし、作ってるのは天下の東映アニメーションだし、脚本は花田大先生だし、よく考えれば約束された神作品だったわけですね。もう今期も終盤前であり、ここから伸びそうな曲者の作品が多いクールではありますが、それでもやっぱり地力が最終的に決め手になると考えると、今期の作品で「響け!ユーフォニアム」に対抗し得るのはこの作品だけということになるでしょう。というか現状では勝ってますね。まぁ「ユーフォ」もここから間違いなく凄く盛り上がるんでしょうから全く勝負は分かりませんけど、それでもここまで溜め気味な「ユーフォ」と弾けまくりの「ガルクラ」では、やっぱり「ユーフォ」を上位に評価するのはどうしても無理があるので現状は「ガルクラ」を上位にせざるを得ない。まさか今期「ユーフォ」が1位じゃなくなることがあるとは予想外でした。それだけでも十分に驚異的な作品です。それぐらい今期の「ユーフォ」も素晴らしいということなんですが。

この2作品に唯一匹敵し得る作品は「夜のクラゲは泳げない」だったんですが、子持ちアイドル回と教習所回を挟んだぶん、やっぱりちょっと差が開きましたね。いや子持ちアイドル回も教習所回も凄く良かったんですけど、そういう単体エピソードの完成度で勝負するタイプの作品と、1クールの完成度で勝負する「ユーフォ」と「ガルクラ」の差がちょっと終盤前になって出てきたという印象です。もちろん「ヨルクラ」の1クールの完成度も十分に高いんですけど、「ユーフォ」と「ガルクラ」がずっと一連の物語を描き続けているところが徹底していて完成度がより高いということです。

まぁそんな感じで脚本が素晴らしいのはひとまず置いておいて、やっぱりこの作品のCGの完成度の高さが大きなポイントですよね。「CGアニメだから」という理由でこの作品を見てない人には同情します。嫌味ではなく純粋に可哀想だと思う。実際しょうもないCGアニメが多いのは事実ですから、そんな先入観を持ってしまってこの作品を見逃してしまったのは気の毒と言うしかない。それぐらいこの作品の出来は既存の日本のCGアニメと比べると別次元です。

ただ別に私はCG技術の専門家じゃないのでCG自体の出来の良し悪しはそんなに厳密に分かるわけではない。上には上があるだろうし、ハリウッドのCGなんかもっと凄いんだろうし、日本のCG作品でももっと凄い技術を使ってるものもあるかもしれない。ただ私はこの作品がCGの完成度の高さを上手く使ってかなりアニメ作品として革命的なことをやっている点を凄いと思っています。あくまでストーリー重視の評価をする主義なのであんまりそこは個人的評価には反映されませんけど。

まず、この作品のCGが基本的に実写寄りのCGであってアニメ的ではないという点が挙げられる。というか、ハリウッドなんかでは実写寄りにする方が一般的なんですが、日本のアニメの方がむしろ特殊で、あえてCGを二次元的に処理してアニメ寄りにするんですよね。それは日本のアニメ視聴者にその方がウケが良いからです。しかし、そうなると結局「アニメ作品をCGで作ってるだけ」ということになる。

しかしこの作品の場合は実写寄りのCGなのでアニメ作品とは違う文脈で作ることが出来る。例えば声優はアニメ演技が出来る人じゃなくても違和感が無くなり、幅広い人材の起用が可能になる。それでこの作品は実際にガールズバンドをやっている実在のトゲナシトゲアリのメンバーを声優に起用して演技してもらっている。彼女らは確かにコナン映画にゲストで出ている芸能人声優みたいなやっつけ仕事ではなくて、しっかりと準備が出来ている演技をしているが、それでも本職のアニメ声優に比べるとアニメ風な演技はあまり出来ていない。だが、それでもこの作品の実写寄りのCGにおいてはさほど違和感は無いのです。

もちろんこの「実写寄りCGとアニメ演技の出来ない声優の組み合わせ」というのは「違和感が少ない」という程度なのであり、あくまで私は「手書き作画とアニメ演技の声優の組み合わせ」こそが至高だと思います。その頂点にある作品が「響け!ユーフォニアム」や「夜のクラゲは泳げない」だとも思う。だが「実写寄りCGとアニメ演技の出来ない声優の組み合わせ」には得難いメリットがある。それはこの「ガールズバンドクライ」のように「演技の出来る本職のミュージシャン」を起用出来るという点です。そのメリットはこの作品のようなガールズバンドアニメや音楽アニメにおいて絶大なアドバンテージとなる。「パリピ孔明」のように演技部分と歌唱部分の声優を分けるという手法もあったが、やはり歌声がドラマ部分と違うと没入感がイマイチ弱くなってしまう。だから歌える声優に全部やらせることが多いが、本職のミュージシャンの方が肝心の歌の部分の説得力が全然違っていて、大きなアドバンテージになるのです。いや、それだけではなくて、これはアニメ界の革新というだけではなく、例えば音楽業界におけるミュージシャンやバンドのプロモーションのスタイルを一変させる可能性すらある。そう考えると、確かに最高のアニメ作品を作るのはあくまで「手書き作画とアニメ演技の声優の組み合わせ」なのだとは思うが、この作品はアニメ作品の可能性を拡大させる力があると言える。

ただ、実写寄りのCGは日本のアニメファンにはウケが悪いので、この作品はキャラの表情だけは手書きアニメ寄りにしている。というか、かなりデフォルメされたアニメ絵になっている。これによってキャラをアニメファン向けに魅力の感じらえるものにすることに成功しているのだが、実写寄りのCGにそれを上手く溶け込ませつつ、アニメそのものになってしまわない塩梅で上手く仕上げてアニメ演技の出来ない声優との違和感も無いように絶妙なバランスをとっている。

これは決して単純な作業ではなくて、東映アニメーションはプリキュアシリーズのエンディング曲のCGダンスを15年も継続しており、更に不定期にプリキュアCGアニメ映画も作っているので、その経験の蓄積があってこそ、これが可能になっているといえます。また脚本の花田氏も「ラブライブ」シリーズで出来なかったことを全部ぶち込んでいるとか言っているので、この作品は作画面は「プリキュア」シリーズの蓄積、脚本面は「ラブライブ」シリーズの蓄積が活きて作られた作品といえます。そう考えると「響け!ユーフォニアム」に対抗し得ているのも納得がいきます。

そして、この3DCGと手書き作画寄りの表情を馴染ませる工夫の結果、この作品ではCG作画と手書き作画の共存が可能となっている。「CG作画と手書き作画の共存」というと「エクスアームの再来」などと揶揄されることも多いが、「エクスアーム」の場合のそれが違和感があったのは、あまりにもCGのクオリティが低かったのが主な原因なのであって、この「ガールズバンドクライ」ぐらいCG作画のクオリティが高ければそんなに違和感は無いのです。ただ、それでも普通にやれば違和感は残るところですが、この作品においてはもともと3DCGと手書き作画寄りの表情を馴染ませる工夫があるので、CG作画と手書き作画が自然に共存していてもあまり違和感を感じさせなくて済んでいる。これはアニメ表現の新しい可能性となるでしょう。

例えば今回の冒頭の場面は唐突に手書き作画で始まる。桃香の高校時代のダイヤモンドダストのメンバーとの回想シーンなのだが、現在時点の桃香や仁菜などを描くCG作画とは明らかに印象が違う。印象は違うのだが、それでも馴染んでいるので、この回想シーンの後に現在の場面のCG作画にダイレクトに戻っても違和感は感じない。ただ、違和感は無いが、それでも明らかに同じ桃香やダイダスの他の3人という同一人物でも別の印象ではあるので、この冒頭の場面が現在とは全く異質な別世界という印象になる。つまり、もう二度と戻ることの出来ない別の世界の出来事という印象を与える演出として、この馴染んでいながらも別の印象を与えるCG作画と手書き作画の共存というこの作品特有の状況が活用されているのです。

この冒頭の回想場面において、桃香は高校のグラウンドで白線を引きながらダイヤモンドダストの他の3人と話をしている。プロを目指すよう誘いを受けて高校を中退して上京しようという相談をしている場面なのだが、この場面ではダイヤモンドダストの他の3人は高校を中退することは躊躇していた。卒業してから上京しようとか、休学して一旦上京してレコーディングをしてから旭川に戻って様子を見ようなどという意見も出た。誘っている側も別に彼女たちに高校を中退することまで強要するつもりはないみたいで、翌年の高校卒業まで待ってくれる気もあるみたいだった。

だが桃香1人だけが今すぐ高校を中退して上京することを強く主張していた。そうやって卒業まで待っている間にダメになるケースも多いのだとライブハウスのオーナーに忠告されて、今のこのチャンスを逃したくないと思ったのもあるでしょうけど、自分たちは必ず成功するという強烈な想いもあったからです。芸能事務所の人たちも必ず成功すると太鼓判を押してくれていたので桃香はそれを素直に応じようとしているのだが、他の3人は懐疑的だった。しかし桃香もプロの世界で成功することがそんなに簡単ではないことぐらいは分かっている。ただ、だからこそ強く信じて前に進む気持ちが無ければダメなのだと言う。そのために高校を中退して退路を断ち、逃げ場所を無くすことが必要なのだという桃香の熱い主張に3人も賛同して、結局4人で高校を中退して上京してプロを目指すことになったという3年前の出来事の回想場面でした。この時、桃香がグラウンドに白線を引いて描いていたのは「めざせ!!ぶどーかん!!」という文字であり、桃香たちダイヤモンドダストも武道館を目標にしていたのだということがここで分かります。

そうして現在の場面に戻り、諏訪のライブを終えて、その足で5人でハイエースで中央道を走って東京方面に向かっている場面となります。その車中で、助手席に座る桃香が3年前の出来事を思い出しているのは、諏訪のライブのステージの上ででいきなり仁菜が「予備校を辞める」と言い出したからです。それは3年前の桃香と同じで「プロを目指すために退路を断つ」という決断だった。だから桃香は仁菜の決意を聞いて、3年前の自分の決意の場面を思い出したのです。

しかし、その3年前の決意の結果の苦々しい失敗を知っているだけに、桃香は仁菜に自分と同じ決意をしてほしくはなかった。そもそも仁菜にはそんな決意は出来ないだろうとタカを括っていた桃香は、自分がバンドを辞めると言えば仁菜はプロを目指す意思も失うだろうと思っていた。仁菜はあくまで自分と一緒にダイヤモンドダストに勝つことだけを目的にプロになろうとしているのだから、自分が仁菜の前から姿を消せばアホなことを考えるのはやめてアマチュアで楽しくバンドをやりながら予備校に通い大学に進学して趣味で音楽を続けていくだろうと桃香は思っていた。

ところが仁菜は桃香がそんなふうに考えてバンドを辞めようとしていることに気付いて、自分がプロを目指すか予備校に通うか選ぶことが出来ずフラフラしているから桃香にそんなふうに思わせてしまったのだと反省し、プロを目指すために退路を断って予備校を辞めると決断してしまった。桃香としては仁菜にそんな決断をさせないためにバンドを辞めようとしていたのに、先手を打たれて仁菜に予備校を辞められてしまって最悪の状況となってしまったのです。このままでは桃香がバンドを辞めようと辞めまいと関わりなく仁菜は勢いでプロ目指して突っ走ってしまう。

しかし、これは仁菜が勝手アホな決断をしたであって、桃香は「勝手にしろ」と放っておいてもいいはずです。仁菜が予備校に通うか通わないかは桃香にとっては何の関りも無い話であり、桃香は仁菜の保護者ではないのだから、予備校問題は仁菜とその家族で話し合って結論を出せばいい。どうせもともと仁菜は予備校の勉強をマトモに出来ていなかったし、辞めるのは時間の問題でもあった。だから桃香は「自分には関係ない」と割り切って仁菜から離れていくことも出来たし、逆に仁菜がそうやってやる気になったのならそのまま一緒にバンドを続けてもいいはずでした。いずれの場合にしても、適切に距離をとって、ただ単にバンド仲間として接していくのも可能でした。どうせそんな簡単にプロになどなれないのだから、今までと変わらない日々が続くだけなのだと割り切ることも出来た。

しかし、桃香は仁菜の決意を聞いて、この先がどうなるにしても、冷静になることは出来なかった。それは仁菜の決意が3年前の自分の決意を彷彿させると同時に、ダイヤモンドダストの残り3人の決意を彷彿させるからでした。正確には、自分が彼女らに強要してしまった決意の重さを思い出させるのです。彼女たち、ナナとリンとアイは当初は高校中退は望んでいなかった。だが桃香が「退路を断って前に進めば成功する」と強く主張して3人も高校中退して上京した。だが3年間なかなか売れず、売れるために納得のいかないアイドル売りを迫られて苦悩することにもなった。そんな中で3人は歯を食いしばってアイドル売りを受け入れてダイヤモンドダストを4人で続けていこうと決断したのに、桃香だけが耐えきれずに逃げ出してしまったのだ。自分が「退路を断って前に進もう」と言って3人を誘っておきながら、1人だけ逃げ出したのです。残された3人は自分たちの納得のいかないアイドル売りをしながら、同時に既存ファン達からは「自分たちが売れるために桃香を切り捨てた」とか「こんなのは偽物のダイヤモンドダストだ」とかボロクソに叩かれる羽目になった。それがどれだけ3人を傷つけたことか。そんな苦しみの中に親友3人を置き去りにして逃げ出してしまった罪悪感にずっと桃香は苦しんできた。自分なんかに関わってしまったために彼女らは苦しみに至る間違った決断をしてしまう羽目になったのだと桃香は悔いていた。

仁菜の「予備校を辞める」という決断は、ナナとリンとアイの3人の3年前のその「高校を中退して上京する」という間違った決断を思い出させるのです。自分に関わったせいで仁菜が間違った決断をしてナナ達のように苦しむことになるのではないかと思うと、桃香は仁菜をこのまま放っておく気にはなれなかった。このまま予備校を辞めて退路を断ってプロを目指しても、結局はダイヤモンドダストの3年間と同じ苦しみが待っているだけであり、「自分の言いたいことだけ言うのが正しい」という仁菜のスタイルではナナ達のように納得のいかない路線で我慢する苦しみに至るよりも、更に最悪のパターンで自分のように逃げ出して後悔する羽目になるだろうと桃香は危惧した。自分のせいで仁菜をそんな目に遭わせたくないと焦る桃香は、どうしたらいいのかと苛立って、遂にはバカな決断をした仁菜に対して腹が立ってきた。

仁菜の方も自分の「予備校辞めます」宣言以降ずっと桃香が自分に対して怒っていることは分かっていた。そんなことを言えば桃香が怒るだろうことは覚悟していたので仁菜も動揺はしない。ただ、後先は考えていないのでどうしたらいいのか分からず、とりあえず憮然と黙ったままです。そうして険悪なムードのままステージを終えて撤収して車に乗り込んで中央道をずいぶん走っているうちにどんどん車内の空気は悪くなっていった。そもそも仁菜の「予備校辞めます」宣言以降は変な空気になってしまってステージもあまり良いものにならなかった。だから5人全体のムードも悪く、智なんかはかなり怒っている。

そもそも桃香が世話になった先輩のミネさんに招かれたステージだったのであり、それを仁菜の変な宣言のせいで台無しにされたようなものだった。桃香としては顔を潰されたという悔しさもある。それで車内の空気の悪さにもあてられて桃香はますます腹が立ってきて、些細なことで仁菜と口論になるとカッとなって仁菜に掴みかかりそうになってしまう。それをすばるが必死に止めるのだが、仁菜も意地になっているので桃香を更に挑発してしまい、更に事態はヒートアップして車内は乱闘騒ぎ寸前となり、とりあえず往路と同じく談合坂のサービスエリアで休憩することになった。

そうしてサービスエリア内のフードコートのテーブル席に座ると、桃香が仁菜にステージでの不規則発言を皆に謝罪するよう求めた。他の皆もその点は桃香に同意であったのを知って仁菜はショックを受ける。桃香を引き止めるためにやったことなのだから他の皆は自分の味方をしてくれると思っていたようです。しかしステージ上で言う必要は無いだろうというのが皆の感想でした。おかげでステージが台無しになってしまったことには皆は感心していなかった。

それで桃香が「ステージは一番大切な場所だ」と説教するのだが、仁菜はバンドにとって桃香を引き止めることが一番大切なことだからこそ一番大切な場所であるステージで言ったのだとか屁理屈を言い返す。それで桃香も腹が立って再び一触即発の状況となり、仁菜はそもそも桃香が相談もせず急に辞めるとか言い出すのが悪いのだと非難します。それについては他の3人も同意ではあったが、それ以前に桃香と仁菜の2人が大声で怒鳴り合うものだからフードコート内の注目を一身に集めていることの方が気になって仕方ない状況でした。

だが桃香も頭に血が昇ってお構いなしで、仁菜が相談もせず勝手にプロを目指すと決めたのが悪いのだと言い返す。しかし相談せず勝手にやろうと言い出したのはすばるですから、すばるは飛び火を恐れて水を汲みに行って避難します。だが仁菜もプロになるというのは自分の意思ですから、今さらすばるのせいにする気も無い。桃香に向かって自分はバンドを続けてプロを目指すと宣言する。それに対して桃香はどうせダイヤモンドダストに勝てるはずがないと言い、きっと後悔することになるからと言って仁菜を制止しようとします。

桃香はプロを目指せば自分のように後悔することになるから止めたほうがいいという意味で言っているのですが、仁菜はダイヤモンドダストに負けて後悔するに決まっていると言われているのだと勘違いして「何もやってみないで自分が間違っていると認めたくない」と言い返し、あくまでダイヤモンドダストと戦うと言う。しかし、そういった仁菜の自分の正しいと思ったことを貫き通そうとする性分こそがプロ向きじゃなのだと桃香は歯がゆく思う。それで桃香は「現実を見ろ」と仁菜に言う。

桃香は「プロの世界の現実を見ろ」という意味で言っている。それならば桃香自身が経験した現実を詳細に教えてやればいいのですが、桃香としてもそこはあまり他人に言いたい話ではないので、仁菜だってダイヤモンドダストにそこまで執着して観察しているのなら分かるはずだと桃香は仁菜に自分で察するよう促したのです。今のダイヤモンドダストの状態がそもそもプロの世界の厳しさを物語っていることぐらい仁菜にも察することは出来るはずだと桃香は思ったのです。

しかし仁菜はバカなのでそんなことは察することは出来ず、現ダイヤモンドダストは単なる正しい路線を捨てた悪の集団としか思っていない。あくまで正しいのは桃香であるというのが仁菜の認識している「現実」でした。この狂信的ともいえる仁菜の現実認識は仁菜の熊本でのダイヤモンドダストの原体験に基づいている独特のものであり他人にはちょっと理解不能な領域といえます。だから仁菜は桃香に「現実を見ろ」と忠告されても「何も見ないで逃げようとしているのは桃香さんじゃないですか」とかワケの分からんことを言い返す。

確かに桃香は逃げ出したのだが、それは現実を嫌というほど見た上で現実に打ち負かされて逃げたのです。何も見ないで逃げた覚えなど無かった。しかし仁菜は「桃香が正しいと思う道を貫くのが正しい」というのが現実だという認識なので、桃香が自分の音楽が間違っていると認めて、自分の音楽が通用しないと認めて逃げようとしていること自体が「現実を見ようとせず逃げようとしている」ように見えるらしい。こうなると2人の認識している現実にズレがある以上、議論は平行線になるしかない。

桃香の方は自分の認識している現実と違う現実をいきなり突きつけられて、その変な仁菜の現実認識の中で自分を勝手に定義されて迷惑千万とばかりに「お前に私の何が分かるんだよ?」と怒鳴り返す。だが別に仁菜だって熊本でのダイヤモンドダスト原体験だけで空想の桃香を勝手に定義して妄想に浸っているわけではない。川崎で出会って一緒にバンド活動をやってきた現実の桃香を知った上で「現実」を語っているのです。それで仁菜は「じゃあ、なんでバンド続けてきたんですか?」と問い返す。自分の音楽が通用しないと思っているのなら旭川に帰っていたはず。だが桃香は旭川には帰らずに川崎に残って、自分を誘い、すばるを誘いバンドをやってきた。それは本当は自分の音楽が正しいと思っている、通用すると思っているからなのではないのかと仁菜は桃香を問いただす。

これは仁菜の認識は実は半分は間違っている。桃香はやはり本心で自分の音楽はプロの世界では通用しないと思っている。それは桃香が経験してきた現実に基づいた確固とした認識です。だから別に変な野心や下心があって再びバンドを始めたわけでもないし、このバンドでダイヤモンドダストに勝って自分の正しさを証明してやろうという闘争心を秘めているわけでもない。そこは仁菜の期待するようなものは何も無い。だが自分の音楽が間違っているとも思ってはいない。プロでは通用しなかったけど、だからといって間違った音楽だとは思っていない。だからバンドを続けてきたというのは確かに仁菜の指摘する通りです。だが、それがどういうふうに正しいのか、どうしてそのバンドを仁菜とやろうと思ったのか、そのことについて桃香は語ることは躊躇われた。それは桃香にとってとても大切な部分であったので、こんな場で気軽に口にする気にはなれなかった。

それで言葉に詰まった桃香は仁菜に背を向けて「とにかく、お前は予備校に戻れ」と突き放すように言う。だが仁菜が桃香の正面に回り込んできて「嫌です」と言い返すので、桃香ももう疲れてしまい「じゃあ、好きにしろ」と言って立ち去ろうとする。その桃香の背中に、まだ話し足りない仁菜は「逃げるんですか?」と問いかける。それを聞いて桃香は自分がメジャーデビューと引き換えに苦しみの道を選択した親友3人を見捨てて逃げ出したことを思い出してしまい、カッとなって仁菜の胸倉を掴み、思わず仁菜をぶん殴ろうとする。

それに対して仁菜は「殴りたければ殴ればいいですよ、慣れてますから」と平然としている。もともと熊本でイジメに遭っていた時に、仁菜は自分が正しいと思うことを曲げることなく主張していたのでしょう。それで言い返せなくなった相手が暴力を振ってくることにも慣れっこだったようです。ここでは別に桃香は仁菜に論破されて逆ギレしているわけではないのですが、仁菜から見ればそういうふうに見えるのでしょう。そういう軽蔑すべき連中と同じことを桃香がやってくれるのなら、いっそ桃香のことを軽蔑出来て自分もせいせいして気が楽になると仁菜は嘯きますが、もちろん本心ではそんな展開は望んではいない。桃香がつい昔のことと混同してカッとなってしまったことを反省して仁菜を放して去っていくと、仁菜もホッとしてへたり込みます。

そこにすばるが水を持ってきて仁菜に飲ませてやり、智は遂に公衆の面前で殴り合いの喧嘩を始めようとした2人を見て呆れて「また終わりね」とつぶやく。この口ぶりからすると、智とルパの元バンド仲間との別れの時も殴り合いにまで発展したのかもしれませんが、その智の言葉に対してルパは「始まりですよ」とにこやかに返す。どうやらルパの目にはかつての自分たちのバンドの仲間の別れの時と今の仁菜と桃香のケースは違って見えているようです。

その後、談合坂サービスエリアを出て更に中央道から首都高を経て川崎に戻ってきたが、その間はもう仁菜と桃香は揉めることはなかった。別に和解したわけではなかったが、お互いにだいぶ言いたいことは言いあって多少は発散されたし、それ以上に疲れたのでしょう。それでまず仁菜の家まで送っていって、仁菜が最初に降りたが、その際に仁菜が諏訪に行く時に見当たらなかったギターケースを担いでいくのを見て桃香がそれはどうしたのかと問いただすと、仁菜は「貰った」とだけ言って帰っていった。するとすばるが桃香にあれはミネさんが仁菜にくれたものだと教えてくれた。

ミネさんは仁菜の歌声を聞いて「チヤホヤされたいって厭らしさが無い、桃香と同じだから頑張れ」と褒めてくれて、帰りがけに使っていないギターを仁菜にプレゼントしてくれたのだという。それを聞いて桃香は、ミネさんが仁菜の歌声を褒めてくれて嬉しいと思ってしまった。また、ミネさんが自分のことも仁菜のこともよく理解してくれているのも嬉しかった。そして、ミネさんが自分に対しても「頑張れ」と言ってくれているようにも思えた。

その後、車は桃香の家に寄って、そこで桃香を降ろして、運転に不安のある桃香ではなくルパが車の持ち主の家まで運転して返却してから智と一緒に歩いて帰ることにした。その途中で車で都内のすばるの家に寄ってくれるとルパは言ってくれたが、すばるはまだ電車があるからと言って桃香の家の前で降りた。そうしてルパと智は車で去っていったが、実はすばるはもう家に帰る電車は無くて、桃香の家に泊まると言う。すばるは、あれだけ仁菜に色々言われて桃香も何か言いたいことがあるだろうと思い、愚痴でも聞いてあげようと思って気を使ったようです。

それで桃香の家で桃香とすばるの2人で話すことになりますが、桃香はすばる達が仁菜が予備校を辞めることを知っていたのかと問いただし、すばるは知らなかったけど予想はしていたと答える。もともとロクに予備校に行っていないのでヤバそうだとは思っていたのだが、プロを目指すと言い出した時から仁菜がかなり迷っているのは見ていて分かった。だが桃香がいきなりバンドを辞めると言い出して、それが引き金になって仁菜がステージであんな宣言をするまでは誰にも予想外だったのだ。

だが事前に相談されていたとしても、すばるは仁菜を止めなかったと言う。ステージで宣言するのは止めただろうけど、予備校を辞めてプロを目指すのはあくまで仁菜の自由だとすばるは思うのです。しかし桃香はそれは無責任だろうと言う。仁菜の目指していることは無謀すぎるのだ。大手がバックについている現ダイヤモンドダストに勝とうとすることも無謀だが、それ以前にプロを目指すのに自分たちの正しいと思う音楽だけをやっていこうという考え方が無謀すぎる。そんなことは自分のやっていたダイヤモンドダストにだって出来なかったことであり、ごく一部の凄いバンドだけに許された特権でしかない。

しかし、すばるは何も全く成算も無しに仁菜に無謀なことをさせようとしているつもりはなかった。すばるは桃香に、先日応募したフェスの審査を通過したということを伝える。また、ルパのところにもレーベルから「トゲナシトゲアリ」について興味があるという連絡が来ているのだということも伝える。桃香は元ダイヤモンドダストのギターボーカルとしてインディーズ界隈では有名人であり、智とルパも覆面アーティストではあるがネットでは有名人であり、ルパが自分たちのSNSでトゲナシトゲアリのライブ映像なども上げているので業界関係者も既にチェックしているのです。またライブハウスでの地道なライブ活動も好評であり、独自にトゲナシトゲアリのライブ画像を上げてくれる人もいる。そうしてネット上で拡散されたトゲナシトゲアリのライブ映像を見たり、ライブハウスでライブを見てくれた人の多くが仁菜の歌声を褒めており、本職のボーカルの人が仁菜の歌声を褒めて軽くバズったりもしたという。

その結果、現在のトゲナシトゲアリのSNSのフォロワー数は2万7千人を超えており、ライブハウスのアンケートでもトゲナシトゲアリが一番人気だという。ライブハウスのオーナーが言っていた「フォロワー数」と「ライブの集客力」という2つの要素をトゲナシトゲアリは満たそうとしていた。デビューのチャンスであるフェスへの切符も既に手にしている。レーベルからの誘いも来始めている。桃香が辞めようかとゴチャゴチャ悩んでいる間に状況はだいぶ好転していたのです。仁菜の言っていることのうち、少なくともプロデビューはもはや絵空事ではなくなっている。ダイヤモンドダストに勝つのはさすがに無理としても、プロとして第一歩を踏み出すことは十分可能なレベルに来ている。

やはり大きな転機となったのはルパと智の加入であり、そのルパと智はもともとプロ志望だから当然プロを目指す気満々です。仁菜はあの通りだし、すばるも仁菜に付き合うという。そうなると、あとは桃香の意思次第ということになるのだが、桃香はプロデューは反対していたはずなのに、そうしたすばるの報告を聞くと、妙に心が浮き立ってくる。特にフォロワー数が既に3万人に近いというのは驚きで、旭川で自分たちがダイヤモンドダストでプロデビューを決めた時のフォロワー数の既に3倍近い。トゲナシトゲアリはもしかしたら、ダイヤモンドダストでは届かなかった、自分たちの正しいと思う音楽だけをやっていける「ごく一部の凄いバンド」になれるのかもしれないと、桃香の中で既に消え去っていたはずの野心が息を吹き返しそうになる。

だが、そこにすばるが仁菜があの諏訪のステージの後で「本気なら退路を断って目標を決めなきゃダメだ」と言って、それで自分もその気になったのだという話をしたのを聞き、桃香の夢想は消え去り、思考は現実に引き戻された。それは自分が3年前にナナとリンとアイに言った言葉と同じだったからです。自分はあんなことを言っておいて3人を裏切って苦しみの中に置き去りにして逃げたのだ。3人はさぞ自分を恨んで軽蔑していることだろう。恨まれて軽蔑されて当然のことをしたのだ。そんな自分が今さら、ナナ達よりも有望そうな相手を見つけたからといってプロの世界に舞い戻って、ダイヤモンドダストでは実現しなかった夢を実現するなんて赦されるはずがない。そんなことをしたら、あの3人は自分の夢の実現のために利用され踏み台になったようなものであり、まるで捨て石ではないか。親友たちにそんな失礼なことが出来るわけがないと思い、桃香はふと沸き上がりそうになった夢を抑え込み、やはりプロの世界でやりたい音楽だけをやることなど自分たちには不可能なのだと思い込むことにした。だからやっぱりこのまま仁菜をプロの道に向かわせるわけにはいかないのだと桃香は決意する。

仁菜の方はミネさんに貰ったギターの練習をしたりしながら、実家の父に予備校を辞めたと連絡し、仕送りももう要らないと伝え、預金通帳も返送してしまった。親の意向に反して予備校を辞めて大学進学も断念した以上、親に頼るわけにはいかないのです。そうなると生活費を稼ぐためにバイトをしなければいけないが、これまで一度もバイトをしたことがない仁菜は不安で、よく知ったところでバイトしたいと思い、智とルパの働く牛丼屋でバイトすることにした。智はバイトテロでも起こしそうな仁菜のことを迷惑そうに扱い、このまま桃香と揉め続けてプロデビューが遠のくようなら自分たちは辞めさせてもらうと仁菜に釘を刺します。すると、そこに桃香が客としてやってきて、仁菜にバイトが終わった後一緒に付き合うようにと言う。

そうして仁菜は桃香の運転する軽トラックでバイトの後、雨の首都高を走って何処かに向かうことになりますが、険悪なムードで2人が出かけていくのを見送って智はいよいよバンド解散かもしれないと心配します。しかしルパは「あれだけ喧嘩したのに会って話そうとするのだからお互い大好きなんです。大丈夫」と言って笑う。どうやら、そういうところが智とルパの元バンドメンバー達と仁菜や桃香の違いみたいです。

ここで軽トラックの車中のシーンに重なって仁菜の過去回想シーンが挿入されますが、それは熊本の高校の校長室で仁菜がイジメの加害者の女生徒と和解するよう求められている場面です。仁菜の父親も同席しており、おそらく前回のエピソードで仁菜の姉が言っていた「父親が主導したイジメ事件の手打ちの儀式」みたいですね。仁菜は隣に立つ女生徒と互いに反省文を交換し合い握手をして和解するよう求められている。もちろん仁菜は自分は間違っていないと思っているので、形だけでも自分が悪かったと認めて相手に謝ることに納得していない様子です。なお、ここで仁菜の隣に立つイジメの加害者であり仁菜にケガを負わせた当事者の女生徒はヒナではない。ヒナが命じて仁菜をケガさせた手下のような存在なのか、それともヒナとは無関係なのか、詳細は今のところよく分かりません。とにかくこの場面は仁菜が握手を迫られて憮然としている場面で一旦終わり、続きは後でまた描かれることになります。

ここで場面は現在に戻り、首都高を走った桃香と仁菜が到着したのは羽田にあるライブハウスで行われている音楽フェスの会場でした。そこのバックヤードに入った2人はステージの上手側のドア越しに、フェスに出演しているステージ上のダイヤモンドダストの4人の姿を見る。桃香は仁菜にこれを見せたかったようですが、おそらく桃香自身が見たかったというのもあるのでしょう。桃香はダイヤモンドダストを脱退して以降、ダイヤモンドダストとは完全に縁を切って情報を遮断していたようであり、おそらく自分が捨てた親友3人と向き合うことからずっと逃げていたのでしょう。ここでも面と向かって会いに行っているわけではないので完全に向き合えるだけの勇気はまだ無いのでしょうけど、それでも仁菜にダイヤモンドダストについての話をするのに際して自分がずっとダイヤモンドダストから逃げ続けているままでは説得力が足りないと反省し、こうして仁菜と一緒にステージ袖からダイヤモンドダストの姿を見ながら、仁菜にダイヤモンドダストとは何なのか、そしてプロを目指すとはどういうことなのかを説き始めます。

そこで桃香は仁菜に「退路を断って生き残っていくというのはこういうことだ」と言ってダイヤモンドダストのアイドルバンドとしての姿を指し示す。プロの世界は自分たちのやりたい音楽なんか出来ない。何が売れるかだけを考えて追い求めていかないといけない。ダイヤモンドダストのメンバーだって最初からそんなことがやりたかったわけじゃない。生き残るためにその道を選び、そのために一部からは猛烈に叩かれたりしても、それでも耐えてやっているのだ。それは桃香の親友だった3人だけではない。ヒナだって同じです。桃香と比較されてボロクソに中傷されたりもしている。偽者だとか下手だとか叩かれてもいる。それでも泣き言も言わず笑ってステージに立っている。それがプロなのであり、ダイヤモンドダストの4人は生き残るためにその茨の道を進む決断をした。それは尊重されるべきであり否定されるべきではない。否定されるべきは耐えられずにそこから逃げ出した自分なのだと桃香は言います。

そして、そんな自分と同じ失敗を仁菜にしてほしくなかったのだと桃香は打ち明ける。仁菜がそうしたプロの世界に触れたら、きっとダイヤモンドダストの4人のように生き残るために自分のやりたくないことを我慢してまでやろうとはしない。きっと自分のようにそれに耐えられずに拒否してしまうだろう。そしてきっとプロの世界に関わったことを後悔するだろう。そんな嫌な思いを仁菜にはしてほしくなかったのだと桃香は言います。

そして桃香は談合坂サービスエリアでの仁菜からの「どうして旭川に帰らずにバンドを続けたのか?」という質問への答えを告げる。それは別にプロの世界に未練があったとか、自分の音楽でプロに再挑戦したいと思ったからではない。桃香は川崎駅前で仁菜が歌う姿を見て、自分が高校時代に最初にダイヤモンドダストで歌った時の姿を思い出したのです。仁菜はあの時「売れたい」とか「認められたい」とか関係なく、好きな歌をただ歌っていた。それを見て桃香は自分も最初はそれと同じだったのであり、そんな自分を自分は一番好きだったのだと思い出したのです。思えば、プロを目指して東京で成功してなどと考え始めてからの自分を自分は少しずつ嫌いになっていったのかもしれないとも思えた。そんな自分の一番好きだった頃の純粋な自分の姿を仁菜の中に見つけた桃香は、そんな仁菜のまま変わってほしくなかった。そんな仁菜をずっと隣で見つめていたかった。だから仁菜と一緒にバンドをしたいと思ったのであり、プロを目指す気など毛頭も無かった。むしろ自分と同じようにプロの世界に接して純粋さを失ってほしくなかった。だからプロを目指すことに反対し、仁菜をプロの世界から守るためなら自分は仁菜から遠く離れてもいいとまで思ったのです。

だが、そうした桃香の想いを聞かされて、仁菜は「私の気持ちはどうなるんですか?」と反発する。そして駆け出して軽トラックの停めてある駐車場に行くと、追いかけてきた桃香の頬を張り飛ばして「私はあなたの思い出じゃない!」「あなたの思い出に閉じ込めないでください!」と叫ぶ。そして涙を流しながら「指先が震えようとも、あなたの歌で生きようと思った人間もいるんです」と桃香に訴え、「あなたが守らなければいけないのは思い出の中のあなたじゃない。自分の歌を誰かに届けたいという気持ちです」と桃香に言う。

これは一見すると何を言っているのか意味不明ですが、この「指先が震えようとも」というのは桃香が作ったダイヤモンドダストの曲「空の箱」の歌詞の中にあるフレーズです。この「空の箱」は第1話で仁菜が桃香と初めて会った時、桃香が川崎駅前で路上ライブで歌っていた曲であり、その歌を聴いた瞬間の仁菜の心情描写の演出が非常に鮮烈で、よほど仁菜にとって大きな意味を持つ曲なのだとは思っていました。その後、第1話のラストでは桃香の演奏で仁菜がこの曲を唄ったりもしますが、一番最初に仁菜が桃香の歌を聴いた場面で流れていたフレーズがこちらです。

「やけに白いんだ やたら長いんだ コタエはだいたい カタチばかりの常識だろう 指先が震えようとも 正解がなんだ 価値なんて無いんだ あたしは生涯 あたしであってそれだけだろう これ以上かき乱しても明日はない」という歌詞がその場面では流れており、おそらく仁菜にとって特に思い入れが強いのはこの部分なんだろうと思われる。それはつまり要約すれば「世の中で正解や常識だと言われていることは形ばかりで価値なんて無いものがほとんどなのであり、それに逆らうことは指先が震えるほど怖いことではあるけど、自分はずっと自分らしくあることを貫きたい。そこにしか明日は無いことを信じたい」というような意味でしょう。

この歌詞がどうして仁菜にとってそんなに思い入れがあるものなのかについての答えが今回はいくらか示されました。それがさっき首都高での移動シーンで少し挿入された熊本の高校での回想シーンの続きの場面です。イジメ加害者と反省文を好感して握手をして和解するよう迫られた仁菜は、この「空の箱」の歌詞を口ずさみ始めると、そのまま握手は拒否して歌いながら校長室を飛び出していき、放送室に立てこもって「空の箱」を校内放送で流したのでした。これは第5話の居酒屋大喧嘩のシーンでちょっと回想シーンで出てきた場面ですが、あれは今回の校長室の場面の続きだったんですね。

仁菜が「指先が震えようとも、あなたの歌で生きようと思った」と言っているところを見ると、この場面では仁菜はイジメ加害者と和解する方が、父親の顔も立てて自分の進学にも有利に働く「正解」だということが分かっていて、ずいぶん葛藤していたようです。だが桃香の「空の箱」の歌詞に背を押されて勇気を出して自分が正しいと思うことを貫いて不登校となる道を選んだ。それが仁菜の人生の重大な選択だったのであり、この時に和解の道を選んでいたら自分は自分ではなくなって死んでいたが、自分を貫いたことで自分は生きることが出来たというぐらいに思っているようです。なお、どうして仁菜がこの和解をそれほど強く拒んだのかについてはまだ謎のままです。そこはまだ解明されていない。そこにおそらくヒナとの確執の本質が隠されているのであり、そこは今後のエピソードで描かれるのでしょう。

とにかく仁菜はこの桃香の「空の箱」という曲によって勇気を貰って人生を救われた。だから、そんな桃香が過去の思い出の中に閉じこもろうとすることが仁菜には赦せない。桃香にはもっと多くの人に歌を届けて、多くの人を救ってほしいのだと仁菜は訴えているのです。自分の想いを誰かに届けたいからバンドを始めた貴方が、貴方にこうして勇気を貰い跳ぶことが出来た人間が目の前にいて、貴方と一緒に歌うことを幸せに思って人生を賭けようとして、貴方と貴方の歌を信じているというのに、何を怖がる必要があるのか、どうして逃げる必要があるのかと仁菜は涙ながらに必死に桃香に訴えかける。

それを聞いて桃香は、確かにそうだったのだと思い出す。自分が一番好きだった一番純粋だった頃の自分はそうだったのだ。確かにその頃の自分は「売れたい」とか「認められたい」なんて考えていたわけではない。だが、何も考えず好きな歌だけを歌っていたかというと、そうではなかった。「自分の想いを誰かに届けたい」と思って歌っていたのだ。そうして歌っていると何も怖いと思わなかった。自分は間違っていないと思えた。それなのに今の自分は何を怖がっているというのか。仁菜があの頃の自分と同じように自分の想いが間違っていないのだと思って人々に届けようとしているのに、「何も考えずにただ歌っていればいい」と言って閉じ込めようとしているのは、ただ挫折のせいで臆病になった自分のエゴに過ぎないのではないか。いや、閉じ込めようとしているのは仁菜だけではない。自分自身も閉じ込めようとしているのだと桃香は思った。本当は再び「自分の想いを誰かに届けたい」「自分は間違っていないと証明したい」と思えるチャンスが到来していると感じているのに、勝手に諦めて過去の純粋無垢な自分をでっちあげて、そこに閉じこもろうとしていたのだ。

だが、そこに騒ぎを聞きつけて、ステージを終えたダイヤモンドダストの4人がやってきて、桃香と仁菜と鉢合わせしてしまう。それで桃香は再びナナとリンとアイに対する罪悪感に囚われて、慌てて軽トラックに乗って逃げ出してしまう。自分を恨んでいるであろう3人とまだ正面切って向き合う勇気は桃香には無かったのです。仁菜の方は久しぶりにヒナと顔を合わせてムッとするが、それよりも桃香を追いかけねばならないと思い走り出し、近道を通って雨の中、外に出て桃香の運転する軽トラックの前に飛び出して、桃香は慌ててハンドルを切って仁菜を避けて、スリップして軽トラックは止まります。

桃香は危うく仁菜をひき殺すところだったので「バカ野郎!正気か!?」と怒鳴るが、仁菜は「これでお相子ですね」と言って腰を抜かす。桃香が自分を犠牲にしてバンドを辞めて仁菜を守ろうとしたことのお返しだという意味なのでしょう。そして「桃香さんは何も間違っていないのだから逃げる必要は無い!」と抗議する。だがナナ達に向き合う勇気がどうしても持てない桃香は「うるさい!」と怒鳴り返す。そこにダイヤモンドダストの4人が追いかけてきて、ナナ達3人は「桃香!!」と叫んで何かを言おうとするのだが、桃香は3人からの非難の言葉を聞くのが怖くて、3人の言葉を遮るようにクラクションを鳴らす。

しかし仁菜が軽トラックに歩み寄り、助手席から桃香の手に手を添えてクラクションを止めさせると、ナナ達は桃香が再びバンドを始めたのをライブハウスのオーナーから聞いて嬉しいと思い、楽しみにしていると伝え、更に自分たちは今の道を選んだことを後悔していないと言う。このやり方で上に行って間違ってなかったと世間に言わせてみせる。絶対にプロの生き残ってみせる。だから桃香が罪の意識を感じる必要など無いのだとナナ達は言ってくれているのです。誰も桃香に騙されたとか裏切られたなんて思っていない。自分たちでこれが正しいのだと本気で選んでこの世界に残ったのだ。だから桃香を恨んでなどいない。だから桃香ももう苦しまなくていいのだと3人は言ってくれている。

3人がそう思ってくれていて桃香は本当に嬉しかった。ならば自分も前に進んでもいいのではないかとも思えた。だが、それでも自分が逃げ出した挙句ずっと3人から逃げていたことは変わりない。一体どういう顔をしてどういう言葉で返せばいいのか桃香には見当もつかず、黙ってハンドルに顔を埋めるばかりだった。すると、軽トラックの外に出た仁菜が「私たちも絶対に負けません」「私たちが正しかったって言います」「間違ってなかったって言ってやる!」と突然にダイヤモンドダストに対して宣戦布告する。いや、そこにはナナ達の後ろで黙っているヒナに対する宣戦布告の意味合いもあったのであろうが、これはもう仁菜の一貫したダイヤモンドダストへの一方的なライバル視が言わせたちょっと空気の読めない発言であり、いきなり知らない変な子に宣戦布告されたナナ達は困惑します。

だが、桃香はそれに便乗することにした。今の自分がナナ達にかけることが出来る言葉にはそういうのが適切に思えたのです。仲良くして赦してもらおうなんて、そんなナナ達に気を遣わせるようなことをするぐらいなら、徹底的に捻くれてこじらせまくった厄介な奴を演じた方がいいと思えた。それで桃香は「あんなクソみたいな演奏して、よくそんな偉そうなこと言えたもんだな!」と悪態をつき「アイドルバンドで後悔してないならもっと可愛くやってみせろよ!プロだろ!」と嫌味を言い、そして「次のフェスにあたしたちも出るから今日みたいな演奏やったらお前らの客、全部持っていくからな!」と右手だけ車の窓から突き出して小指を立てて見せ、宣戦布告しつつダイヤモンドダストにエールを送った。そうして結果的に桃香は一歩前に踏み出すことが出来たのでした。

結局、顔は見せることはなかったが桃香はダイヤモンドダストに対して言いたいことを言い、その想いはナナ達3人には通じたようで、最後にナナは「桃香!あたしたち、忘れないから!」と叫ぶ。それが「私たちは武道館を目指す」という3年前の約束のことだと気付いた桃香はハッとして、あの約束を今でも3人が果たしたいと思っているのだと知った。3人はこんな自分とまだ武道館を目指したいと思ってくれている。だがもう今の自分は3人と同じステージに立つことは出来ない。ならば、せめてダイヤモンドダストもトゲナシトゲアリも両方が武道館の夢を実現するしかないと決意し、桃香は仁菜を乗せて軽トラックを出発させます。軽トラックが走り去った後、ナナは謎の宣戦布告少女がヒナの方を睨んで喋っていたことに気付いていて、ヒナに知ってる相手なのかと問いますが、ヒナは憮然として「いいえ、知らない子です」と答えるのでした。

そして首都高を川崎に向かいながら、仁菜は再び桃香がステージに立つことを決めてくれたことを嬉しく思い「やっぱり私、桃香うさんが好きです」と伝え、桃香がムスッとして「なんだそれ」と言うと「決まってるじゃないですか。告白です」と仁菜は答える。ちょうどカーラジオからはダイヤモンドダストの「空の箱」が流れており、それを聞いて桃香はナナ達と一緒に誰かに想いを届けたいという一心で歌っていた頃のことを思い出し大声で号泣し、仁菜はラジオのボリュームを最大に上げて大音量にして桃香の泣き声をかき消あしてあげながら、仁菜も密かに貰い泣きしたのですが、そこには仁菜もまた久しぶりに会えた親友のヒナに対して思うところがあって流す涙も含まれていたのではないかと思われる。そうして仁菜と桃香は和解して、トゲナシトゲアリは5人で次のフェスを目指すということになり、その方針がすばるや智やルパにも伝えられ、3人も安堵したというところで今回は終わり次回に続きます。