2023春アニメ 5月29日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2023年春アニメのうち、5月28日深夜に録画して5月29日に視聴した作品は以下の4タイトルでした。

 

 

青のオーケストラ

第8話を観ました。

今回はハルと律子の中学時代の回想を交えて、高校でも不登校になりかけたハルを律子が心配したりする話です。前回ラストで律子が中学時代にイジメから庇っていたクラスメイトが実はハルだったということが明らかになったのだが、そこから前回のレビュー内で考察していた内容がほぼ今回それに近い形で描かれました。

中学入学時に2人は出会い仲良くなり、ハルがバイオリンをやっているのを知って律子が面白がってハルにバイオリンを弾いて聞かせてもらったりしていたことや、ハルが高校では海幕高校に行ってオーケストラ部に入りたいと考えていることを知った律子が「一緒にオーケストラ部でバイオリンを弾けたらいいね」なんて話をしていたということが描かれました。これが律子が言っていた「約束」だったわけですね。

その後、中学2年生に進級してイジメっ子と同じクラスになってハルがイジメられるようになり、それに腹を立てた律子がイジメっ子と揉めるようになり、その結果ハルへのイジメが更にエスカレートしてハルは転校していき、その後は律子がイジメの対象にされてしまい律子は保健室登校するようになり受験勉強とバイオリンの練習をして、そして青野と共に海幕高校に入学してハルと再会して約束通りに一緒にオーケストラ部に入って今に至るわけです。

そしてハルがイジメっ子と道ですれ違ったことがきっかけで高校でも急に学校に来なくなってしまった。もともと友達を作れていなかったのもあって、急に高校生活が不安になってしまったのですが、そういう自分の不安をハルは律子に隠そうとする。それは中学の時のように自分の事情に律子を巻き込みたくないからであった。それでハルは「大丈夫」だと律子には伝えるが、律子はハルのことが気になって仕方ない様子でハルの家の方にやって来て、ちょうどコンビニに買い物に行っていたハルと出会って公園で話をします。

そこで律子は自分の本心を言い、中学時代に自分がイジメっ子に喰ってかかったせいでハルを追い詰めていたことをずっと申し訳なく想っていたのだと言って謝る。そして、律子がそのことに気付いたのがハルが転校していった後、今度は律子にイジメの矛先が向いてからだったということを知ったハルは、自分が逃げたせいで律子がイジメの対象になってしまったのだと知る。いや、自分の弱さのせいで律子をイジメの渦中に巻き込んでしまい、自分が逃げれば律子がイジメの対象になることは分かっていながら、それでもハルは逃げてしまったのであり、その罪悪感があったのでもう自分の問題に律子を巻き込みたくないという想いが強かったのです。

それでハルの方も律子に対して涙を流して謝り、自分以外の別の友達と仲良くした方がいいと言うのだが、律子はハルは自分にとって1人しかいない特別な友達だと言う。実は中学時代、ハルが転校する前から律子は自分のおせっかいな性格が周囲に迷惑をかけているのではないかと思い悩んでいたのだが、自分のおせっかいに対して感謝してくれたハルの言葉を支えに自分の生き方を信じて生きてこれたのだという。だから律子にとってハルは特別なのだと涙を流す律子にバイオリンを弾いてほしいと言われてハルは律子のリクエストで「G線上のアリア」を弾き、誰かのためにバイオリンを弾く喜びを知り、同時にこんな自分でも誰かの役に立っていたのだと知り、立ち直ることになったのでした。

この「G線上のアリア」は中学1年の時にハルが律子に初めて弾いて聞かせた曲であり、その後も律子はこの曲をお気に入りで、中学時代はよくハルにリクエストして弾いてもらっていたようでした。それを今回も弾いてもらったのであり、ここではこの曲は単に2人の一番の思い出の曲という扱いです。ハルが最初にこれを律子に弾いて聞かせたのも、たまたまその時にこの曲を弾きたい気分だったからか、あるいはちょうど課題曲か何かだったのだと思われ、深い意味は無いのだと思います。

ただ、あえて劇中でこの場面でこの曲が使われていることには何か象徴的な意味はあるのでしょう。今回のエピソードのサブタイトルも「G線上のアリア」であるし、この曲に作者は何らかの意味を込めてはいるのでしょう。その意味はストーリーの中で明言はされていませんから適当に推測するしかない。

「G線上のアリア」はバッハの曲をドイツのバイオリン奏者のウィルヘルミという人がバイオリン独奏のために編曲したものだそうですが、その特徴としてバイオリンの4本の弦のうちの最低音の弦であるG線のみで演奏できるというところがあり、それゆえ通称で「G線上のアリア」というのだそうです。この曲がG線のみで演奏出来るというのはたまたまであって、特に何か意図してのものではないとは思う。ただ、その「G線上のアリア」をあえて今回のエピソードの表題曲としたというところには何らかの意図があり、それはおそらく「人は最底辺の状態でも美しい音を奏でることが出来る」ということなのでしょう。

また、今回のエピソードの中で律子が演奏時に別の弦に弓を移動させる際に上手くいかないという話をして、ハルがそれにアドバイスをする場面が描かれているが、これは特にストーリー上では意味は無い。おそらく「別の弦に移動する難しさ」をここで比喩として表現して、表題曲である「G線上のアリア」の「弦を移動せず演奏する」という特徴との対比とする意図があったのでしょう。そういうのも合わせて、今回のエピソードに込められた意図は「無理に変わろうとしなくても、最底辺だと思われる状況のままでも人は希望を見出すことは出来る」ということなのではないかと思います。

 

 

機動戦士ガンダム 水星の魔女 Season2

第19話を観ました。

この作品は前回で視聴を打ち切るとは言っておりましたが、どの作品も一応はその次のエピソードはチェックするようにはしてるので観てみた結果、相変わらずよく分からない話ではあるんですが、なんか戦争が始まったのでとりあえず見物感覚で見てもいいかなという気がして視聴復活することにしました。

多分ね、ムチャクチャ色んなことを調べた上でムチャクチャこの作品について考察したら意味は分かるんだろうとは思うんですよ。そういうこの作品のマニアに向けて作ってるんだろうと思う。ただ私はそこまでこの作品に労力を割く気が起きない。そういう労力を割く気というのは面白ければこそ起きてくるわけで、特に2期に入ってからはずっと陰気な裏工作みたいな話ばっかり見せられて面白く感じることが無い状態ではこの作品に労力を割く気力は湧いてこない。

だからこの作品について深く考える気はもう無いんですけど、今回戦争が始まったり、プロスペラとかシャディクの悪事が露見したりして、どうやら物語が破局に向かっていることだけは分かったので、ここまでずっと陰気な裏工作ばっかり見せられた恨みもあるので、プロスペラとかシャディク一味とかテロ組織の女とかが死ぬところは見届けてやりたいと思い、それで視聴継続することにしました。だからまぁ、特に感想も無いんですけど、とりあえず観ます。シャディクの悪巧みがバレるあたりのシーンはなかなか面白かったですし。

本当はプロスペラとかシャディクにも正当性はあるとか言って共感すべきなんでしょうけど、キャラの描写が薄くてそこまで思い入れを持つのが無理です。いやキャラ自体はずいぶん濃く描写はされてるんですけど背景事情の描写が薄すぎて、行動の正当性を理解することが出来ない。「面白いキャラだから愛せる」なんていう人もいるんでしょうけど私はそういうの無理ですね。ギャグアニメならそれでいいんですけど、これギャグアニメじゃないから。まぁだから無理矢理ギャグアニメとして観ようとしてるわけです。なんかドヤ顔してた悪人が滑稽な感じで死ぬのがただ腹を抱えて笑えるという感じで観ます。

しかし現状でこんなザマですからね、最終話まで観て「海賊王女」みたいな終わり方をしてしまった日にはCランクまで落ちるかもしれないですね。「海賊王女」は一応終盤前までは割と面白かったからあんな終わり方をしてもそこまで落ちなくて済みましたけど、この作品は既にずっと面白くないですからね。まぁ「リコリス・リコイル」ぐらいの終わり方をするならまだマシなんじゃないでしょうかね。世間的には「リコリス・リコイル」になれたら上出来なんでしょうけど、私の基準では「リコリス・リコイル」は「なんとか駄作は回避できた」というぐらいの意味の言葉ですから。

まぁこんな酷いこと言ってますけど、この作品は別に嫌いじゃないですよ。「リコリス・リコイル」が嫌いじゃないのと同じように。まぁ「海賊王女」までいくとさすがに嫌いですけど。この作品は別に嫌いじゃないんですけど、さすがにこんなに説明不足の作品よりも他のちゃんとした作品を下位に置いたりしたら失礼というものなので低評価は仕方ないのです。

 

 

鬼滅の刃 刀鍛冶の里編

第8話を観ました。

今回は無一郎と玉壺の戦いの方の場面が描かれ、炭治郎と半天狗の戦いの方は描かれませんでした。やっぱり主人公が登場しないとちょっと寂しい。それというのも、やっぱり炭治郎は良い主人公だからなんだろうとも思いますが、同時にちょっと無一郎が柱の中ではキャラが弱めだというのもありますね。しかも今回はバトルシーンよりも、その無一郎の過去回想シーンの方が多めでしたから、決して悪い内容ではなく、バトルも良かったんですけれども、それでもトータルで見るとやっぱりちょっと印象の弱いエピソードでしたね。まぁもちろん一般論的にはハイレベルなエピソードなんですが、この作品は今期でも高いレベルの作品と競争してる立場なわけですから、そういう意味ではちょっと弱かったというだけです。

前回、過去の記憶を取り戻したことで水の牢獄を破って脱出に成功した無一郎でしたが、その時ハッキリ思い出したのは父の「相手のためにしたことが巡り巡って自分の返ってくる」という言葉であり、それは脱出のきっかけとなった小鉄の助けを示唆する言葉であったのですが、それまでは霞の呼吸の技でも脱出できなかった水の牢獄を破るほどの力を発揮できたのは、同時に思い出した「人は自分ではない誰かのために信じられないような力を出せる生き物なんだよ」という父の言葉と関連しているのだとは思われますが、今回はそのあたりがもう少し具体的に掘り下げられるような過去回想であった。

水の牢獄から脱出はしたものの、針の毒が回って身体に力が入らない無一郎は魚の鬼に追い詰められて「自分は無力だ」と思うのだが、それがきっかけで「無一郎の無は無能の無」とか言っていた双子の兄の有一郎のことを思い出す。他人のためにと頑張って死んだ両親を否定して、無能な無一郎はただ自分だけのために生きるしか出来ないとバカにしていた有一郎であったが、鬼から無一郎を守ろうとして死んだ。その時、無一郎の秘められた力が覚醒して鬼を倒したのだが、死ぬ間際に有一郎は心の優しい無一郎が両親のように他人のために命を落とすことがないように、兄の自分が守らねばいけないという一心で無一郎に冷たく当たって、無一郎が戦わないように仕向けていたのだと打ち明ける。そして同時に、無一郎に向かい「無一郎の無は無限の無」と言い「自分ではない誰かのために無限の力を出せる選ばれた人間なんだ」と言い残した。

そのことを思い出したことによって無一郎はこれまでの自分には無い無限の力を発揮出来るようになり、顔に痣が出現する。水の牢獄を脱出する際の力もその片鱗だったのでしょうけど、亡き兄の言葉を明確に思い出したことで、300年前の始まりの呼吸の剣士の子孫としての真の力が完全覚醒して、300年前の剣士と同じように痣が発現して無限のパワーを発揮出来るようになったのです。そして、そのきっかけはやはり自分を助けようとしてくれた小鉄の危機を救うためであったのでした。

そうして無限の力を発現した無一郎は体内の毒も浄化して身体が動くようになり、魚の鬼たちを一蹴して玉壺との戦闘に突入します。この戦闘がかなりカッコ良かったんですが分量的には少なめで、次回はたっぷり楽しめそうですが、案外アッサリと無一郎が勝ってしまいそうにも見える。そしてやはり今回は回想シーンが長かった。決してダメではなかったんですが、無一郎というキャラにそこまで思い入れも無いのでちょっと長く感じましたね。回想シーンの内容がダメということはないんですが、そのぶんバトルシーンが少なかったのはちょっと物足りなかったといえます。やっぱりこの作品はバトルシーンが一番の見せ場であり、前回の父の回想みたいに現実の展開とシンクロさせて描くと盛り上がるんですが、今回はシンクロしてたのは回想の最後の部分だけでしたからね。だからちょっと長く感じました。

 

 

BIRDIE WING -Golf Girls'Story- Season2

第21話を観ました。

今回はイブがプロデビューを賭けたヨーロッパレディスオープンで師匠のレオの弟子であるアイシャとの同門対決に至るというエピソードなんですが、自分の上位互換であるかのようなアイシャに勝利するためにイブは自分も進化しようともがき、遂に新たな力を手にします。アイシャとの決着、そして大会に優勝してのプロデビュー決定は次回に持ち越しみたいですが、今回は予選ラウンドで自分の殻を破るために足掻くイブの姿が主に描かれ、最後にアイシャと直接対決が始まったところで終わりました。

それに並行して、日本では一足早くプロの大会に参加して優勝してプロデビューを決めた葵の身辺に動向も随所に挿入されて描かれていきましたが、ヨーロッパの方のイブの場面も含めて、今回は全体的にこれまでこの作品内に色々と漂っていた暗雲が晴れて浄化されていくような印象となっていて、いよいよ明るいハッピーエンドが見えてきたように思う。特に今回はイブのパートの方ではレオ・ミラフォーデンという人物、そして葵パートの方では天鷲世良という人物、このちょっと腹に一物ありそうなややこしいキャラの真実がだいぶ掘り下げられて、物語がクリアーになった印象です。

ただ、そうした暗雲のような部分がこの作品特有のアクとなっていて、それが独特の魅力でもあったので、それが無くなってしまうことでこの作品の魅力が一体どうなってしまうのか一抹の不安もあります。ただ、明るければ明るいで、この作品の場合は更にブッ飛んだ展開になって大団円という可能性もあるので、期待する気持ちもあります。また、そんなふうに安心させておいてまたトンデモない爆弾を投下してくるかもしれないしで、結局先行きはよく分からないのですが、とりあえず今回も相変わらずブッ飛んでいて面白かったのは間違いない。かなり現実離れした描写でありながら意外に堅実なことをやっていたりして、結局この作品はゴルフの試合のシーンが一番面白いというのは一番の強みなんだと思います。これがリアルなゴルフだとはさすがに到底言えませんが、ゴルフのバトルとしては非常によく出来ていて、ゴルフというスポーツを知っていればこそ面白い作りになっているのが良いところです。

まず日本での葵パートの方をまとめて振り返っていきますけど、最初は葵が亜室の入院してる病院に日本女子オープンの優勝報告に行く場面です。これは前回のラストでも示唆されていた場面で、ここで葵は亜室が本当の父親だという正式な確認をします。ここは割にあっさりした場面でしたが、もうだいぶ前から葵は亜室が父親だということは気付いていて、前々回は既にテレパシーっぽい会話までしていましたから、2人が親子であるということについては、これ以上しつこく描く必要も無いでしょう。

大事なのはこの後、亜室から葵にこれまでの隠されていた経緯が全て説明されたっぽいところです。そこで説明されたのは「葵がいかに愛されていたのか」ということ。確かに「父親と言われていた人は父親じゃなくて、監督が父親だった」という事実だけでは人間不信になってもおかしくありません。決して葵が蔑ろにされていたわけではなく、むしろ世良と亜室と一彦が葵という命の誕生を何よりも大切に想っていたからこそ今のような形になったのだということを説明することが大切です。そして葵が生まれてからもその3人が葵をいかに愛していたのかについてもしっかり説明しなければいけません。その親としての当然の務めを亜室は果たしたのだといえます。その詳細が描かれなかったのは、既に視聴者に向けては語られている内容だからです。

その後、イブのパートを挟んで、葵がプロ転向の申請をした後の記者会見の場面があり、その裏で世良と雨音が会話している場面が描かれます。ここで雨音は世良に対して、もうこれで自分と葵は自由の身だと強調します。雨音は「葵がプロデビューするまでは葵のマネージャーをする」という契約を完了した。結局この後も雨音は葵のマネージャーを続けるので表向きは何も変化してはいないのですが、これまではあくまで義務であったものがここからは明らかに雨音の自由意志によるものなのであり、世良が口出しすることは出来ない。

それと同時に、葵も「アテナの広告塔として史上最年少のプロデビューを果たす」という天鷲家との暗黙の約束に縛られていたが、このプロデビューによってその約束を果たしたことになるので、ここから先は天鷲家の事情とは無関係に自由にゴルフを楽しませてもらう。だから世良が天鷲家の都合で口出しすることはもう出来ない。雨音も葵もそのように、天鷲家からは基本的に自由な立場となったことをここで再度、世良に対して雨音は念を押しているわけです。

それを世良も素直に受け入れます。そして父の剛三が葵に対して干渉しようとするのも止めると約束します。もともとアテナの宣伝のために世良や亜室や一彦の運命を捻じ曲げたのも、葵に実の父親を隠してゴルフを強制していたのも、全て剛三の意思によるものであり、世良はむしろそれに苦しめられていた立場ですから、こうして葵が剛三との約束を果たし、自分も剛三に負わされた責務を果たした以上は、これ以上の剛三の干渉は許さないと世良は強く思ったのでしょう。但し、世良はあくまでアテナの経営者であり、葵はアテナの専属契約選手ですから、そこはビジネスの上での契約だけはしっかり守ってもらうということは世良も雨音に念押しします。

ただ、それと同時に世良は葵の母親でもあります。天鷲家との関係、ビジネスの上での関係はそのようにして決着はつくとして、親子としてはそう簡単に割り切れないものはある。事情はどうあれ、これまで世良は葵に母親として接しながら、ずっと父親の件で葵を騙していたのです。こうして亜室が真の父親だったということを葵が知った以上、これまでのことで葵に恨まれて当然だと世良は思っていた。おそらく葵は怒って恨み言を言ってきて事情の説明を求めてくるであろうから、その時に誠心誠意謝るしかないと世良は覚悟していたのであるが、葵は全く恨み言を言ってこない。それは世良には拍子抜けであると同時に、もうこれで天鷲家から自由になった葵が母親としての自分のことも見切りをつけたのではないかと思えて世良は寂しくなっていました。

だが、そのように世良が愚痴をこぼすと、雨音はそうではないと言います。葵が恨み言を言わないのは幸せだからなのだと雨音は言う。それはつまり、葵は亜室の口から既に事情を全て聞いていて、世良がこれまで葵に実の父親の件を隠していたのも全て葵を愛していたゆえだということも説明してもらって分かっているからなのです。むしろ亜室が真っ先に葵にその事情を全て説明して、葵が皆に愛されていたのだということも説明したのは、それはこれまで葵に母として濃密に接していた世良の口から言うのは難しいであろうし、葵もついつい素直に聞けないだろうと気を遣ったからでしょう。そういうデリケートな話は、むしろこれまで一歩引いた立場であった自分が説明した方が葵も冷静に受け入れられるだろう、それがこれまで実の父らしいことを何もしてやれなかった自分の果たすべき役目なのだろうと亜室は考えたのでしょう。そして同時に、これまで葵の親としての苦労をずっと押し付ける形になっていた世良への感謝と贖罪の意味も込められていたのだと思います。

そのようにして葵は亜室から既に事情の説明は受けていて、世良のことはとっくに赦している。そして幸せを嚙みしめている。その幸せとは「父である亜室の教えに従って心底ゴルフを楽しもうとしている」ということです。「心底ゴルフを楽しむ」というプレイスタイルはもともと亜室のものであり、世良が愛したものだった。だがそれは病気のせいもあったが天鷲家との関わりの中で亜室から奪われ、しかし亜室はそれを葵に託し、葵は天鷲家に縛られながらその想いを大切にし続け、遂に今回プロデビューを果たすことで天鷲家から自由になり、心底ゴルフを楽しめる立場となった。

そして同時に、もうこれで「天鷲一彦の娘」という立場に縛られる必要も無くなった。プロとしてデビューした以上は、ここからは葵1人の才覚での勝負となるのであり、誰が父親であるかはもう関係ない。だから、公式にはあくまで天鷲一彦の娘のままではあるものの、プライベートの場では葵は堂々と亜室と世良の間の娘として生きることができるのです。亜室の娘として、亜室のゴルフの継承者として生きられること、それが葵にとっての一番の幸せなのであり、その幸せに至るまでの道のりをずっと支えてくれていたのが世良なのだとうことを葵はしっかり理解しており感謝しているのです。

その最も分かりやすい証が、今世良の目の前にいる雨音の存在でした。雨音は世良に向かって「私も葵に会わせてくれて感謝しているんです」と笑顔で言う。雨音も前回のラストで葵からの告白を聞いて気付いたのです。天鷲家から強要された運命の中でゴルフを強制されて苦しむ葵が亜室の教える「ゴルフを楽しむ」という姿勢を守れるように一緒にゴルフを楽しめる友人が必要だと考えた世良が、そのために自分を葵の傍に仕えさせたのだということに。その結果、葵はずっとゴルフを楽しむという気持ちを維持することが出来て、そして雨音もまたゴルフが好きになり、共に力を合わせて葵のプロデビューという目標を果たし、心底ゴルフを楽しめる幸せを掴んだ。それは実は世良のお陰だということを自分も葵も分かっているのだということを雨音は世良に伝えたのでした。

それを聞いて世良は救われたような気持になった。確かに雨音を葵の傍につけたのは葵のためを思ってのことであったが、そのために雨音には意に沿わないことを強制してしまったことでずっと負い目は感じていた。先日も雨音からキツい言葉を返されてしまい、やはり自分はずっと雨音を苦しめていたのだと思い落ち込んでもいた。また、葵のためにやったことといっても、それは葵を天鷲家の都合で縛っていることへの罪滅ぼしの意味合いの強いことであったので、世良はずっと自分のことを酷い母親だと思って責めていました。だからこうして葵と雨音からの感謝の気持ちを伝えられて、世良の人生は救われたのだといえます。

その後、記者会見を終えた葵と雨音の2人の場面で、雨音が「イブがヨーロッパレディスオープンに出場している」ということを伝えます。前回はイチナが葵の試合の動向を把握していましたから、おそらくイチナと雨音の間で定期的な連絡態勢があるのでしょう。これはイブが日本から消えてから初めて葵たちが公式に確認できるイブの消息だと思われ、これを知って葵は喜びます。これはつまりイブもプロの世界を目指して動いているという証だからです。これでいずれはイブと戦うことが出来ると、葵は希望を持ちます。

もともと世良がイブを葵から遠ざけようとしていたのは、イブがマフィアと関りのあるアンダーグラウンドのゴルファーだったからでした。しかしこうして表のプロの大会に出場できているということは、もうイブはマフィアとの関わりは絶つことが出来ているということになります。まぁ実際はイブを後援しているアリオスはマフィアなんですけど、アリオスの支援を受けているプロゴルファーは山ほどいるわけで、もう今のイブはアンダーグラウンドのゴルファーだった頃とは全く違います。だから世良もイブが葵と戦うことを邪魔するっこともないでしょう。そんな裏の事情は葵はもともと知らないので、とにかくイブがプロの世界を目指している以上はいつか再戦出来ると喜んでいるのですが、しかしイブのスコアが悪いと知ってガッカリしたりもします。

その後、イブのパートを挟んで、翌日、葵が再び亜室の病院に見舞いに行く場面が描かれます。ここで葵は休学届を出してプロとしての活動に専念するのでこれからは忙しくなり、お見舞いにももうあまり来れなくなると亜室に伝えます。ここで亜室の病状の話になり、どうやら無理をしなければ悪化はしないとのこと。もともと結節性硬化症というのはそういう病気ですから、今回病状が悪化したのは新クラブのシャイニング・ウィングスを日本女子オープンに間に合わせるために無理をしたのが祟っただけみたいです。どうやら亜室が死ぬとかいう展開にはならないみたいですね。これで一安心ではありますが、そういうクライマックス展開を期待していた部分もあるので、そこはちょっと残念かもしれません。まぁ他にもいくらでもクライマックスを盛り上げる手段はあるので問題ないでしょう。

あと、結節性硬化症が親から子へ50%の確率で遺伝する病気であるという点も気がかりではあり、葵がダブルス選手権で二度も体調を崩しているのも、この病気のせいなのか、それとも単に疲労のせいなのかもハッキリしておらず、むしろ亜室が死ぬことよりもこっちの方が心配ではあるのですが、今のところのストーリー展開がずいぶん未来への希望に満ちた感じになっているので、葵の発病展開は無いんじゃないかなとは思うんですよね。まぁ分かりませんけど。

その未来の希望的な展開についてもこの場面では語られていて、雨音が亜室に今後の葵の方針について説明しています。それによると、今年のツアーで実力をつけて、来年のツアーでランキング5位以内に入って全英女子オープンゴルフの出場権を獲得するのだそうです。出場資格については詳細はよく知らないが、全英女子オープンは8月開催ですから、およそ10ヶ月後に世界の頂点の大会に出場するというタイムスケジュールみたいですね。かなり無茶な目標のように思えますが、亜室は「来年の全英で葵は必ず一彦の娘のイブと戦える」と断言して、皆で笑い合います。葵がそこまで躍進することだけでなく、イブがプロになってそこまで一気に駆け上がってくることを亜室も葵たちも確信しているのですね。いや、亜室の場合はそれは亡き一彦との約束でもあるので、なんとしても実現してほしいという悲願でもあるのでしょう。

そしてその後、葵たちは亜室の病室を出て帰路につきますが、その際に神宮司部長をすれ違い、亜室のことを神宮司部長に託します。どうやら神宮司部長はもう葵が亜室の娘であることは知っており、葵も神宮司部長が亜室と男女の関係であることを知っているようです。第三者的にはなんとも気まずい会話に見えてしまいますが、本人たちは別に気にしていないようです。まぁ流石に神宮司部長はちょっと照れていますけど、葵は別に父親を独占したいとかは思ってはいないようです。葵は父に甘えたかったわけではなく、ただ自分の真実を知りたかっただけだったのであり、今はもう自分にも父にもそれぞれの人生があるのだと弁えて、父親離れは出来ているようです。そして病院を出ると、すぐに雨音にイブの動向を確認し、イブが少しスコアを持ち直していると知って大喜びします。

以上が今回の葵パートの方であり、次いで時間軸をまた最初に戻して、本編といえるイブのパートの方にいきます。イブがプロデビューを賭けて乗り込んだヨーロッパレディスオープンが開催されるルミナスクラブというコースはかなりの難コースで、イチナの言うにはイブのような攻めるゴルフには不向きで、刻んでいくのが良いとのこと。

だがイブはいつも通りに攻めると言う。コースとの相性で考えるとどう考えても得策ではないのですが、イブはあくまで攻めることにこだわります。それはいきなり元師匠のレオが現れて自分の弟子のアイシャとの勝負を持ち掛けてきたからでした。イブはアイシャの打球を一目見て、自分と同じ強気で攻めまくるゴルファーだと分かった。そもそもレオの弟子なのだからイブと同じタイプに決まっている。そのアイシャに勝つためには自分も攻めまくらねば勝てないとイブは思った。だいいち、レオのゴルフと勝負して雌雄を決するのなら、自分もレオのゴルフで打ち勝って、どちらが真のレオのゴルフの継承者であるかの勝負をしなければ意味は無いと、イブは大会で優勝することよりも、レオとの勝負の方に目を奪われてしまっていた。

イブから見てレオというのはずっと謎の存在でした。過去の記憶を無くしてスラムで暮らしていた頃に突然やってきて自分に無理矢理ゴルフを叩きこんだ挙句、3年経って突然いなくなり、今日久しぶりに再会したのだが、どうやら父の一彦の知り合いだということが分かった。だからイブはてっきりレオが父に頼まれて自分にゴルフを教えてくれたのかと思ったのだが、ところがレオは一彦の娘であるイブを自分の弟子に倒させるためにイブにゴルフを教えたのだという。それを聞いてイブはレオに対して多少は感じていた恩義や尊敬の念が裏切られたように感じて腹が立った。要するにレオはあくまで自分のゴルフが一彦のゴルフよりも優れているということを証明するために、あえて当て馬としてイブを育てたのだというのだ。そんな気持ち悪いやり方までして指導者としての自分を誇ろうとするレオに嫌悪感を覚えたイブは、当て馬の自分がレオの愛弟子を撃ち抜いてやってレオの鼻を明かしてやろうと闘志を燃やした。それでとにかくレオに教えられたゴルフでレオの弟子のアイシャに勝つしかないと思ったイブは攻めるゴルフにこだわったのでした。

一方、レオの方も、イブの読んだ通り、このルミナスの難コースでも、弟子のアイシャにあくまで不利を承知で攻めのゴルフを徹底させる方針だった。これは別にイブへの対抗意識というわけではなく、レオのゴルフは常にそういう「攻めまくるゴルフ」だからです。その「攻め」の姿勢を貫くことで突破口を見出していく。そして、その自分のゴルフでイブに勝つためにわざわざこの大会に参戦してきたのも事実でした。

以前にレオが海外にいながら日本で行われている高校ダブルス選手権の映像を見ていて、アイシャに「お前はいずれこの女と戦うことになる」と言っていた場面がありましたが、レオは以前からイブにアイシャをぶつけようとしていた。だからイブがヨーロッパレディスオープンにエントリーしたのを見て、アイシャを出場させたのです。そして当然、アイシャがイブを破ることを願っている。ただ、イブに言ったように「一彦の娘であるイブに勝つため」なのかというと、そういうわけではないでしょう。

レオはダブルス選手権決勝でイブがレインボーショットを打つ場面を見て、その時点でイブが記憶を取り戻したことには気付いたのだが、それ以前からアイシャをイブにぶつけることは想定していたと思われ、レオが戦いたかったのはあくまで「レオのゴルフをするイブ」なのです。そしてレオは後の方の場面で「ゴルフは日々進化している」とも言っており、当然ながらレオの教えるゴルフも日々進化している。つまりイブはレオから見たら「過去の自分の教え子」なのです。過去の教え子の最高傑作がイブなのであり、そのイブに現在の自分の最高傑作であるアイシャが勝つことによって、自分の進化を確かめたいというのがレオのもともとの本音であったといえるでしょう。

ただ、イブが一彦の記憶を取り戻したことを知って「好都合だ」と言ったこともまた本心だったのでしょう。記憶を取り戻したということは一彦から教わったゴルフも思い出したということであり、今のイブは一彦のゴルフも使える。そのことを知ったレオが「イブを倒すことで一彦のゴルフに勝つことも出来る」と思ったのは嘘ではなく、確かにそれも本心だったと思います。イブが記憶を取り戻したのを確信したことによってアイシャをイブにぶつける絶好の機会が来たとも考えたのでしょう。確かにレオの中には唯一自分に勝ったことのある一彦へのライバル意識はあり、「一彦のゴルフに勝ちたい」という想いはずっとあったはずであり、イブの記憶が戻っているのを知って、その絶好の機会が巡ってきたという本音が漏れたのは間違いない。

それを聞いてイブは「レオが自分を当て馬にするために育てた」と思ったのですが、それは実は誤解でした。ここでレオの回想シーンとなるのですが、おそらく一彦がイブと暮らしていた頃、一彦が海難事故に遭う前ぐらいだと思うのですが、レオと一彦の2人の会話シーンが描かれます。ここで一彦はイブの話をレオにしており「僕はあの子の傍にずっといてやれない」と言っている。これは別に海難事故を予言しているわけではなく、ヨーロッパツアーが終われば日本に戻らなければいけないということを指しているのでしょう。一彦はヨーロッパツアーの名目で渡欧してきてエリノアやイブの行方を突き止めて2人と一緒に暮らしていましたが、ずっとそのまま3人で暮らそうとは思っていなかったようです。

やはり一彦は天鷲家との約束は守らねばいけないとも思っていたし、世良や亜室や葵の幸せを守るためにも自分が逃げるわけにいかないという想いも持っていた。実の娘ではないといっても、一彦だって葵に対する愛情はしっかりあったのです。世良や葵を捨てる気など最初から無かったのです。だから一彦はヨーロッパツアーが終われば日本に帰る予定でした。もちろん親子の名乗りをした以上はイブとの親子関係を捨てるつもりも無い。再びヨーロッパに来れば何度でも会いに来るつもりでした。しかしイブとの親子関係を公言できる立場でもなく、基本的には日本を拠点に活動しなければいけない立場ですから、一彦はずっとイブとは一緒にいてやれない。だから一彦は、もしイブが本格的にゴルフをやりたいと言った時に自分の代わりにイブにゴルフを指導してくれる者としてレオを指名したのです。

これはどこまで一彦も本気で言っていたのかは分からない。そもそもイブが本気でゴルフをやろうとするかも分からないし、レオと一緒にプレイした時に戯言で言っただけに近いでしょう。ただ、レオもあまりに一彦が意外なことを言うもので「なぜ俺なんだ?」と聞き返した。自分と一彦のゴルフは全く違う。既にイブには一彦がゴルフを教えているとのことで、それならば自分が教えても混乱するだけなのではないかとレオは訝しんだ。一彦の方は戯言で言っただけではあったが、もしイブに誰かが教えるのであればそれはレオが良いと思っていたのはかなり真剣な確信であったようで「僕とレオのゴルフが融合した究極の形を見てみたいんだ」と答えた。

それがレオの回想シーンで、その時レオはその一彦の言葉が印象に残った。ただ、だからといって本気でイブにゴルフを教えようと思ったわけではなかったが、その後、一彦が海難事故に遭って亡くなってしまい、娘のイブも行方不明になったということを知った。そもそも一彦の娘がイブであるということを知っている人間がレオぐらいしかいない状況であったので、レオも自分ぐらいしかイブを探し出せる者は居ないと思って懸命に行方を捜し、ついにスラムで記憶を失っているイブを発見したのです。

そしてレオは、イブがゴルフのことも忘れ去ってしまっていることを悲しく思った。自分のライバルであった一彦はもう亡くなり、そのゴルフを受け継ぐ者も居ない。せめてイブがゴルフを続けていれば一彦のゴルフを思い出すことがあるかもしれないと思い、それでレオはイブにゴルフを教えることにしたのでしょう。ただ、レオはレオのゴルフしか教えられないので、イブはレオのゴルフを教わることになった。そうして教えているうちにイブの才能が開花してきて、レオも夢中になって合間を見つけてはイブに自分のゴルフの全てを教えたのでした。気が付けば3年が経ち、イブはレオの最高傑作となっていたが、正式なゴルファーでもないイブにずっと関わっているヒマもレオには無くなり、もう教えるべきことは全て教えたということでレオはイブの元から去っていった。これほどのゴルフの腕前があれば何とでもなるだろうと安心していたのでしょう。

ところがレオが去った後、イブはアンダーグラウンドのゴルファーとなってしまい、そのことを知ったレオはスラムにやって来て昔馴染みのローズと連絡をとって、なんとかイブをマフィアの追手から逃して日本に行かせるよう手配したのでしょう。あの時、イブが日本に行くよう手配したのはローズだったということになっていたが、日本に何のツテもないローズの手配にしては不自然なほど手際が良く、そう考えると日本にツテのあるレオの手配したものをローズがイブに渡したと考えた方が自然です。

もちろんレオの持つ「日本とのツテ」というのは亜室のことでしょう。亜室はレオと試合をしたことがあるのでレオとは知り合いであり、イブが日本に来て雷凰学園にやって来た時に亜室は既にイブのことを承知しているようであったし、もともとイブがレオの弟子であることも知っていました。これは亜室が調査をしてレオとイブのスラムでの3年間の秘められた師弟関係を知ったと考えるよりは、そもそもイブの日本行きを手配したのがレオと亜室の連携プレーであり、その時にレオがイブのことを「自分の弟子」だと亜室に伝えたと考える方が自然でしょう。

但し、レオはイブが一彦の娘であるということは亜室には伝えなかったようです。それは一彦も秘密にしていたことだということはレオも知っていたので、簡単に他の者に教えるわけがないし、そもそもレオは一彦と亜室が知り合いだということも知らなかった可能性もある。だから亜室はイブが日本に来ることはあらかじめ知っており、その動向も把握しており、レオの弟子であることも知っていたが、一彦の娘であることは知らなかったのでしょう。

また、レオがイブが日本で高校ダブルス選手権なんていうマイナーな大会に出ていることも把握していたのも、そもそもイブが日本に行ったということを知っていなければあり得ないことであるし、イブの日本行きにレオが一枚噛んでいたのは間違いないでしょう。そして高校ダブルス選手権にイブが出場していることを知っていたのは、亜室と連絡を取り合っていたからだと考えた方が自然です。そうなると当然、ダブルス選手権の後で記憶を取り戻したイブが日本を追放されてヨーロッパに戻ってくるということもレオは知っていたはずです。そうなると自分の現在の弟子であるアイシャをイブにぶつけて打ち勝つことで、自分の指導者としての現在の進化を確認する機会もめぐってくるかもしれないと思い、各大会のエントリー表に気を配っていると、ヨーロッパレディスオープンにイブの名前を発見し、それでアイシャを連れて参戦してきたのです。

そして現在に至るわけですが、イブが一彦の記憶を取り戻していることを知ったレオは、過去の自分の最高傑作としてのイブだけではなく、一彦のゴルフの後継者としてのイブにも打ち勝つ機会が巡ってきたと思い、こうして対決の場に乗り込んできて少し高揚した。そうして久しぶりに一彦に想いを馳せると、レオはあの一彦と最後にプレイした時の会話を思い出したのでした。あの時に一彦が言っていた「僕とレオのゴルフが融合した究極の形を見てみたいんだ」という言葉、もしかして今こそあれが実現する機会が巡ってきているのではないかとレオは気付いた。イブはもともと当時のレオのゴルフの全てを受け継いでいる。だがあの時点ではイブは一彦のゴルフは忘れていた。しかし今のイブは一彦のゴルフを思い出している。ならば融合するのかもしれない。一彦が言っていたように、一彦の「虹」とレオの「弾丸」がイブの中で融合して究極の形となる。そんなことがあるはずがない、あんなものは一彦の夢想に過ぎないと思いながら、何故か妙な期待がレオの意識を捉えて離さないのでした。

そうしてヨーロッパレディスオープンが開幕し、初日のイブはレオのゴルフで無理に攻めまくってコースの罠にハマりまくりミスを連発し、2オーバーでトップと3打差の18位タイと出遅れます。ただ、それでもトップとは3打差であり、そんなに大きく出遅れているわけではないのは難コースなのでそんなにスコアを伸ばしている選手がいないからです。これならまだまだ挽回は可能です。一方でアイシャの方はイブ以上に攻めまくったパワーゴルフでイーブンパーでした。ミスも多く出入りの激しいゴルフですが、とにかく飛距離が凄いのでこの難コースで4つもバーディーを獲っており、何日も同じコースを回るうちにミスが減ってくればアイシャには誰も追いつけなくなる可能性が高い。

つまり、イブもアイシャも難コースを攻めまくっているのでミスが多いという点は同じだが、より激しく攻めているアイシャの方が飛距離が出ているぶん、スコアを稼げているのです。そして何日も同じコースを回るのでイブもアイシャもどんどんミスは減っていくので、そうなるとより攻めているアイシャの方が有利になってくるという構図です。普通は刻んで攻略するコースなんですが、レオのゴルフならば攻めまくって攻略するという戦法も成立するということであり、イブの狙いは別にそう悪くはない。だがレオのゴルフの上位互換であるアイシャが同じ大会に出ている以上、同じ戦法で戦う限りはイブの優勝の可能性はどうしても低くなってしまうのです。

そうしてイブは壁にぶち当たってしまい、そんなイブに対してレオは「ガッカリさせないでくれ」と挑発する。いや、実際にレオはイブを直接対決で愛弟子のアイシャによって打ち破りたいと思っているので、せめて3日目にはアイシャと同じ組で回れるようにせいぜい頑張れと言って激励しつつ大いに煽ります。だが、そうやってイブを煽りながら、レオはふとイブにヒントを与えたくなってしまう。それは一彦の言葉がどうも頭の片隅に残っていたからだった。一彦が夢想していた「究極の形」というものがイブによって実現するとしたら、それはイブが今の自分の殻を破ろうとした時だろうと思ったレオは、イブに向かってアイシャのgルフはイブの上位互換であり、イブはアイシャには絶対に勝てないということを告げる。

その言葉をイブがどう受け止めるか、そこから先はイブ自身の問題だと思いレオはそのまま立ち去るが、イブはレオの言葉を反芻し、このままだと負けると結論を出し、勝つためなら何だってやってやろうと思い、レオのゴルフで勝つことにこだわりすぎたことを反省し、自分の中にあるもう1つの引き出しである一彦のゴルフを思い出し、だがそれだけではアイシャには勝てないと感じる。それならばゴルフの質を変えるしかない。レオのゴルフをやりながら一彦のゴルフの精度を追求するとか、あれこれと試行錯誤して、とにかく全部試してみようと思う。それで、それに合わせたコース攻略法を練るようイチナにも要請して、イブは大会2日目を迎えます。

すると2日目のイブは普段のスイングを試行錯誤して色々と変えて試しながらのプレイとなり、飛距離が出ず、むしろスコアを落としてしまい6番ホール終了時点で4オーバーとなる。しかしイブとイチナはこの時点で手ごたえを掴んでおり、後半は調子が出てきた。むしろイブらしい飛距離が出ないぶん、ほどよく刻むゴルフになってイチナの当初計画していたような堅実なゴルフでスコアを伸ばすことが出来たのだが、これはあくまで結果論であり、イブの目指すゴルフはあくまで自分の新しいゴルフの完成形であり、その試行錯誤がたまたまコースとの相性が合ったというだけのことに過ぎない。そうしてイブは2日目終了時点で1アンダーにまで巻き返し5位に浮上し、翌日はレオの期待通りにアイシャと同じ組で回れるようになった。そしてイブの目指すゴルフは完成が見えてきた。だがイブはまだまだ完成形ではないと言い、夜も練習に励みます。そして、その夜、遂にレオにも一彦にも打てない、イブにしか打てないショットが完成し、イブはそのショットに「レインボーバレット・バースト」と命名する。

そして3日目、同じ組のアイシャのスーパーショットの後、イブはレオの目の前で、レオと一彦のショットを融合させて更に進化させたイブだけの独自のショット「レインボーバレット・バースト」を放ち、レオの度肝を抜く。それは一彦が生前言っていた「迷いの無いスイングはその軌道に虹が架かる」と言っていた言葉の通りに、虹色の軌道を描いて飛んでいく打球であった。いや、一彦のショットはスイングの軌道に虹が架かるだけであったが、イブのショットはレオのショットのように打球の軌道に虹が架かるのだから、一彦のショットとレオのショットの融合のようでいて、それでいて全く別物といえた。

この第1打のレインボーバレット・バーストでアイシャの球を更に超えるスーパーショットを打ったイブであったが、更に第2打はアイシャがグリーンのライに手こずって大きくカップをオーバーしたのに対して、イブはわざとカップ手前のバンカーに落として第3打で一彦のレインボーショットでリカバリーしてイーグルを獲る。このあたりはイブのショットの冴えもあってのことだがイチナの作戦も見事であり、イチナはイブの元師匠であるレオにキャディー勝負で先制パンチを喰らわすのでした。これで3日目、1番ホールで幸先良いスタートを切ったイブであったが、このままレオとアイシャも引き下がるとも思えず、次回は更に熱い戦いが繰り広げられそうです。楽しみですね。