2023冬アニメ 4月6日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2023年冬アニメのうち、4月5日深夜に録画して4月6日に視聴した作品は以下の1タイトルでした。

 

 

もういっぽん!

最終話、第13話を観ました。

既に春アニメが始まっていますけど、冬アニメが終わって春アニメが始まったという実感はまだ無い。それは、まだ春アニメの大本命作品である「Dr.STONE」「鬼滅の刃」「推しの子」あたりがまだ始まっていないからというのもあるけど、冬アニメの大本命作品である「もういっぽん!」がまだ終わっていなかったからというのも大きな理由です。この作品が終わるまでは冬アニメが終わるということはない。それがようやく今回で終わり、これで名実ともに2023年冬アニメは終わりました。

今回も素晴らしい内容で、結局のところ全話素晴らしかった「もういっぽん!」が今期のダントツの1位となりました。そして、特に今回のエピソードは素晴らしかった。原作漫画はこの後も普通に続いているので今回のエピソードで描かれた部分というのは最終話でも何でも無いんですが、最終話でも全く違和感の無い見事なエピソードでした。一応原作既読なんですが流し読み程度なので詳細は覚えておらず、この部分ってこんな感じだったのかちょっと記憶が不確かです。だから、アニメオリジナル要素があったのかもしれないと思ってしまう。それぐらい最終話として綺麗にまとまったお話だったのです。確かに金鷲旗大会編のラストだから、それなりに大団円として描かれているのは分かりますが、あまりにも綺麗な終わり方だった。おそらくCパートのラストシーンは1話冒頭の場面の続きだし、アニメオリジナルシーンだとは思うのですが、そこ以外も本当に感動的に全ての要素が全部回収されていた。

ただ、一歩引いた目で見てみると、そんなに綺麗に終わったという感じではない。青葉西は負けて終わってるし、早苗は金鷲旗大会で1勝も出来なかったし南雲は試合にも出られなかったし、姫野は引退試合は負けてしまった。とても残念な結果です。だが、この残念な状況で楽しく終われてしまえるところがこの作品の素晴らしさであり、最もこの作品らしさが出たエピソードであったと思います。それは、この作品が「スポ根アニメ」であると同時に、あくまで基本は「部活アニメ」だというところです。彼女たちにとって最重要なのは「勝利」や「優勝」なのではなく、あくまで「部活を楽しむこと」なのであり、勝利は部活を楽しむための1つの要素に過ぎない。そして彼女たちは敗北をも楽しむことが出来る。

最初から負けるつもりで、負けを受け入れて戦った場合、負けた時には全然楽しくはない。勝つつもりで全力を出し尽くして戦うからこそ負けた時も満足して楽しむことが出来るのです。ただ、もちろん勝つつもりで戦って負けた人の全員が負けたことを楽しめるのかというと、それは違う。負けたことを全否定して、それをバネにして精進する人もいるでしょうし、そういう人の方が強くなるのかもしれません。でも、それは「部活を楽しむこと」とはちょっと違いますよね。

夏目先生が「貴重な高校3年間を無駄にしてほしくない」と言っているのは、怪我で無駄にしてほしくないという意味もあるでしょうけど、勝利至上主義に染まって貴重な青春時代を空費してほしくないという想いもあるのだと思います。ただ勝つことだけを至上価値に置いて精進したとして、その全員がチャンピオンになったりプロになったりオリンピックに出たりするわけではない。あくまで青春時代の1ページとして部活をする以上、敗北をも楽しめる程度に真剣に取り組むぐらいがちょうどいい。この作品で描かれている世界というのはそういう世界なのです。そういうものを「ぬるま湯だ」とか言って否定して世界一のストライカーとかを目指すという作品ももちろん有ってもいいのですが、それはあくまで別ジャンルということになります。

それに、サッカーは、というか「ブルーロック」という特殊ジャンルの作品におけるサッカーというものは少なくともそういう勝利絶対主義で「勝者が全てを得て、敗者は何も得られない」という世界観なのかもしれませんけど、そもそも「柔道」というものはそういうものではありません。勝利至上主義で柔道をやっている人もいるでしょうけど、それはそもそもの柔道のコンセプトから外れています。それは柔道の目指すものが「自他共栄」だからです。それは明確に「柔道」の創設者である嘉納治五郎氏が掲げた指針であるので間違いない。そうした柔道の本質が描かれたエピソードであったから、今回は最高の最終話だったのであり、この作品のベストエピソードだったのです。そして、その「自他共栄」の思想の体現者として主人公の未知が描かれていることが明かされたのがこの最終話の最大のトピックであり、その瞬間、この作品は単なる「最高の部活アニメ」だけではなく「最高の柔道アニメ」にもなったのです。青葉西の面々が敗北しても楽しめているのは「部活を楽しむこと」を目標としているからだけではなく、彼女たちが単なるアスリートではなく、真の柔道家だからなのです。

このように、部活アニメとしても柔道アニメとしても頂点と言っても良いぐらいの完璧なテーマの掘り下げ方、そして最終話に相応しい激しい闘い、最終話に相応しい綺麗なまとめ方、全てのキャラの魅力がしっかり描かれており、全てが重層的に繋がり、2期への引きもしっかりあり、間違いなく今期最高の最終話だったと思います。上位作品は全て最終話は良かったですけど、やはり「もういっぽん!」の最終話が一番でしたね。むしろ、物語途中で終わる「もういっぽん!」の最終話がここまで良くなるとは予想外でした。それだけ巧いまとめ方、構成だったのだと思います。

今期は不作クールだとかよく言われていて、確かに上位作品の数は少ないとは私も思っていたが、それでも上位作品の質は決して他のクールにも引けは取らないとも思っていた。だが、それでもクールの顔ともいうべき最上位のツートップ、Sランク1位と2位の作品の充実度という意味では少し他のクールに比べて物足りないかもしれないとも思っていました。だが、「虚構推理」が終盤の完成度の高さで2位に上がってきて、更にこの「もういっぽん!」の見事な最終話での締めによって、そうした不安は完全に払拭されました。さすがに「進撃」や「アビス」のようなSSランク作品も含めると見劣りはしますが、こうしてクールが終わってみれば「もういっぽん!」と「虚構推理2期」の今期Sランクのツートップは、去年の冬クールの「明日ちゃんのセーラー服」「その着せ替え人形は恋をする」、去年の春クールの「であいもん」「ダンス・ダンス・ダンスール」、去年の夏クールの「うたわれるもの前半クール」「サマータイムレンダ後半クール」、去年の秋クールの「恋愛フロップス」「Do It Yourself」というような各クールのSランクのツートップ作品と比べても内容的に全く遜色ないものとなりました。この2作品を筆頭とする上位作品陣の奮闘によって、今期は私にとっては充実したクールとなったと思います。

特にこの「もういっぽん!」は間違いなくスポ根アニメ、青春部活アニメ、柔道アニメの名作であり、どのクールのSランク1位作品と比べても見劣りしない、間違いなく今年を代表する作品の1つになったと思います。終盤前まではそこまでの印象ではなかった。今期一番だろうなとは思っていたんですが圧倒的ではなく、他のクールの1位作品と比べるとどうしても地味な印象はあった。だが金鷲旗大会1回戦の未知の覚醒を描いた9話以降からの勢いが凄かった。その勢いが回を追うごとに加速していき、この最終話で勢いが最高潮に達すると共に改めて1話からの要素を全部回収してのけて、神作品の1つになったと思います。

では今回の最終話の内容ですが、まず永遠とエマの試合から描かれます。金鷲旗大会の3回戦、青葉西高校と立川学園高校の試合、優勝候補筆頭の立川学園を相手に勝ち抜き戦で3敗して残るは永遠だけという劣勢の青葉西。対する立川学園の方は先鋒の小田桐が永遠に一本負けしたものの、残るは4人、その中には全国レベルの強豪選手が3人控えているところに加えて次鋒には秘密兵器と思われるフランスからの留学生のエマ・デュランがまず登場してきます。

ここでのエマの様子ですが、ずいぶん楽しそうです。実力者だから、優勢な状況だから余裕があって楽しそうに見えるというわけではなく、単に柔道をするのを楽しんでいるという感じです。前々回の試合前の休憩時間の描写などを見ても、エマはいつも楽しそうにしており、未知たちが楽しそうに柔道をしている様子を見て目を輝かせてもいました。おそらく未知と同じように楽しんで柔道をするタイプなのでしょう。

一方、永遠の方はずいぶん集中力を高めている様子で、エマが観客に拍手などを求めて盛り上がっている会場の様子も気にならないようです。余計な雑音などは耳に入らないと心の中で呟きつつ、それでも永遠は未知たち仲間の激励する声だけはしっかり耳に届いています。ここで永遠の回想が入るのですが、中学時代の永遠は全国大会に出場したと言っていましたが、実はその時はあっさりと一回戦負けをしていたようです。相手が優勝候補の選手だったというのもあったようですが、それが永遠にとって良い思い出になっていないのは、負けたということよりも、その時の自分の精神状態の方に原因があるようです。

その時は顧問の先生や部員の皆も永遠のことを応援してくれていたのですが、永遠の方で心を閉ざしてその声に耳を傾けなかった。それはおそらく天音の一件があって永遠と他の柔道部員たちの間でギクシャクしていたからでしょう。ただ、この全国大会は天音が引退していなくなってからであり、永遠たちの学年が主力になって以降のことであり、天音の側に立って永遠を悪く言っていたような先輩たちももういなくなった以降のことだと思われます。だから同学年の仲間たちは心から永遠を応援してくれていたのだと思われますが、永遠の方が天音の件で部員たちとの間がこじれて以降、周囲の雑音に心が屈してしまって勝手に心を閉ざしてしまい、自分に悪意を持っていない部員たちをも拒絶するようになっていたようです。

それで永遠は全国大会の1回戦であっさり負けてしまった。全国大会に出るまでは勝っていたわけですし、おそらく負けたのは相手がさすがに優勝候補だけあって単に永遠よりも強かったからなのでしょう。だが仲間の応援を自分の力に変えることも出来ずにあっさりと負けてしまったことで、永遠は激しく後悔した。皆が自分を応援してくれていることは分かっていたのに、その声が自分の耳に届くことが無かったのは、自分が過去の出来事にこだわって勝手に心を閉ざしていたせいだと永遠は気付き、そんな自分の心の弱さが情けなくて悔しかった。だが、そんな悔しささえ今さら仲間たちに打ち明けることも出来ず自分1人で抱え込むことしか出来なかった。そうして1人で暗い顔をしていることで、ますます周囲を困らせているようにも思えた。結局、自分が不器用でダメな性格だから周りを困らせてガッカリさせてしまっている。周りに迷惑ばかりかけてしまっている。そんなことばかり考えている永遠にとって中学時代の柔道は苦しいものでした。そして、そんな苦しみを生み出していたのは自分自身だと分かっているので、永遠はそんな自分が嫌いでした。

そして、そんな苦しい中学柔道の最後の大会で永遠は未知に出会いました。それが描かれたのが第1話だったのですが、ここで永遠はいきなり試合相手である未知の顔面に手をぶつけてしまい未知は鼻血を出してしまいました。その時、永遠はまた自分のせいで他の人に嫌な思いをさせてしまったと思い委縮したのですが、未知は鼻血を流しながらニコニコ笑って永遠を許して、楽しそうに永遠と柔道をしてくれました。その時、未知の笑顔を見て永遠は自分の不器用さも含めて受け入れられたような気がして心が救われたのです。そして、高校で柔道を続けるなら未知と一緒にやりたいと思った。この笑顔と一緒ならば、自分も周囲の雑音に呑まれて心を閉ざしたりすることなく、仲間の応援にも耳を傾けられる柔道選手になれると思ったのでした。

そうして青葉西に入学して永遠は未知と一緒に柔道をやるようになり、たくさんの未知の笑顔に接していくうちに心の中で周囲を拒絶していた壁が消えていき、未知だけじゃなく早苗や南雲や姫野や夏目先生たち、仲間みんなの自分に向けた声援がしっかり心に届くようになった。この大舞台の立川学園への大声援の中、そんな雑音は全く耳に入ってこず、仲間たちの声援だけが耳に届く。そのことを実感すると永遠は、今の自分ならば中学時代とは違って、たとえ相手が優勝候補の立川学園であろうとも仲間の声援を力に変えてきっと勝つことが出来ると思えた。そして微笑むと、仲間たちに背を見せたまま拳を握りしめてガッツポーズを作って見せて「必ず勝つ」という意思表示をします。そして試合開始の合図がかかると、永遠は初めて「ハアアッ!!」と気合を入れて雄叫びを上げ、エマに向かっていくのでした。

そうして永遠とエマの試合が始まるが、エマは大柄な選手で、永遠よりは背も高いし体重も重く階級も上で、それでいてかなりの実力者とも思われるので、普通に戦えば永遠は不利です。先鋒の同じ階級の小田桐を簡単に倒したようなわけにはいかない。こういう相手が自分よりも格上の場合の戦い方というのは、先だって姫野が小田桐に対してやったように、相手が有利な組手を作って技をかける余裕すら与えないように連続して攻めまくるということになりますが、ここで永遠も同じ戦法をとります。じっくり構えて様子を窺うというようなことはせず、どんどん攻め込んで技をかけまくる。

ただ、同じ戦法をとった姫野は攻めすぎて疲れてしまい最後は負けてしまいました。そうなると永遠も同じ羽目になってしまうかとも危惧されるところですが、永遠の攻めを見て姫野は自分とは違うと言う。姫野の場合はとにかくなりふり構わず相手に攻撃させないための攻めでしたから動きも雑であり無駄も多く、あまり有効な攻撃になっていなかったし疲労の蓄積も早かった。しかし永遠の動きは的確であり、無駄も無いから疲労も少なく、何より姫野のようにその場しのぎではなくて、1つ1つの攻撃が全て一本を狙った鋭い攻撃でした。一本勝ちしてしまえば試合も終わるので疲労もより少なくて済む。そうすれば次の相手とも余裕をもって戦える。そういうことまで見越して永遠は強敵エマを相手に早く試合を終わらせる戦い方を仕掛けているのです。

そして、その永遠の戦い方を支えているのが、この試合で初めて見せる永遠の特殊な戦法でした。それは極端に低い姿勢でエマの長い脚の股の下に潜り込んでの担ぎ技の連続攻撃で翻弄するという戦法でした。実はこれは金鷲旗大会のために新たに永遠が編み出した戦法で、金鷲旗大会では自分よりも上の階級の大柄な実力者とも戦う機会が多いだろうと見越して、それに備えて自分よりも大柄な姫野や夏目先生を相手にして何度も組手を重ねて編み出した戦法だったのでした。その練習に付き合っていた姫野だったからこそ、永遠のエマへの攻撃が「的確」だと分かったのだといえます。実際、エマはこの永遠の想定外の攻撃に戸惑い、さんざん翻弄され、さすがの身体能力で何度も永遠の技を凌ぎますが、それでも永遠の執拗な攻撃によって遂に投げ飛ばされてしまい、なんとか空中で身体を捻って脇から落ちて一本負けは免れますが「技あり」ポイントを先取されてしまう。

これは永遠が練習を積み重ねた末の新戦法の成果であり、努力の結果といえる。ただ、だからといって永遠が努力型の選手なのかというとそんなことはなくて、普通の人間は練習で何度も繰り返してきたことでもいきなり本番で臨機応変な戦いの中でそれを成功させることなど出来ません。実戦でも何度か試した上で成功にこぎつけるものです。だから、1回目の実戦で練習の成果をここまで完璧に再現できる永遠はやはり柔道の天才なのです。「努力の成果を100%発揮できる」というのが永遠の持つ天才性なのであり、永遠は努力型の天才といえます。

更に永遠の強みはその瞬発力にあり、エマの反応よりも一瞬早く股下に飛び込むことが出来ること、そしてエマが担ぎ技を封じようとして姿勢を下げると瞬時に戦法を切り替えてエマの奥襟を掴もうとして牽制する判断の瞬発力もあるということを、立川学園の犬威監督は分析します。そうなるとエマはかなりピンチのように思えますが、この状況でも立川学園の他のメンバーは慌ててはいない。2年生や3年生たちは永遠の強さに感心しながらも、自分達なら対応可能だと言わんばかりの余裕の態度であり、むしろ苦戦しているエマを見て「相変わらずだねぇ」とちょっと呆れ顔になっています。

ここで小田桐が、エマが初めて納豆を食べてその美味しさを知って喜び20分もかけてゆっくり味わっていたという話を引き合いに出して、エマが「美味しい物はじっくりたっぷり時間をかけて楽しむタイプ」だと言う。つまりエマはすぐに全力で試合を決めるタイプではなくてスロースターターみたいなのです。そして普段はエマは練習で2年生や3年生の先輩レギュラー達もバンバン投げ飛ばす実力者なのであり、今はまだエンジンがかかっていないが本来の実力を出せば永遠を更に上回って勝利するはずだと小田桐は言いたいわけです。実際、そうこうしているうちにエマの動きが急に良くなってきて、残り1分半のところで永遠の技を切り返して「技あり」を取り返してポイントは同点となる。

もちろん立川学園の先輩たちもエマのそうした実力は知っている。下手したら自分達よりも強いことも分かっている。ただ、それはあくまで「練習では強い」というだけに過ぎない。試合は3分しか無いわけだからエマのようにスロースターターでは困るのです。エンジンがかかってくる頃には試合終了が迫っている。例えばエンジンがかかった途端に投げ飛ばせるほど相手が弱ければいいでしょう。あるいは引き分けでもOKな局面ならそれでもいいでしょう。しかし、どうしても勝たなければいけない局面で相手が強者であった場合はそれでは困るのです。強豪の立川学園の場合はそういう厳しい局面での試合に直面することが多くなる。特にこういう勝ち抜き戦の金鷲旗大会の場合は、出来ればエマには相手を瞬殺して体力を温存して何人か相手を倒してほしいところですから、スロースターターだとか言って長々と試合をされては困るのです。先輩たちはみんなそういう芸当が出来る「試合に強い選手たち」なのであり、そういう先輩たちから見れば、まだエマは「試合では弱い」というように見える。そういう意味で先輩たちはエマに物足りなさを感じているのです。まぁまだ1年生だから仕方がないという見方であり「まだまだだね」と温かく見守っているという感じではありますが。

ただ、この局面はそんなエマでも十分な場面です。青葉西はもう永遠しか選手は残っておらず、引き分けでは青葉西は敗退となってしまう。だから「技あり」ポイントで同点のこの状況のまま試合終了となったら青葉西の負けですから、永遠は勝つためには攻めまくるしかない。しかし既にエンジン全開となったエマは動きが格段に良くなっていて、もう永遠の最初の低い姿勢での潜り込み戦法は通用しなくなっている。最初は永遠の反応速度がエマを上回っていたのですが、今はもうエマの反応速度の方が永遠を上回ってしまっているのです。そうなると技をかけにいくとさっきのように切り返されて逆に投げられそうになるが、それでも引き分けではダメなので永遠は攻めるしかなく、攻め手がなかなか見出せず永遠は焦ってくる。

そういう状況ではあるのだが、それでも立川学園の3年の冨士森はエマの詰めの甘さに不満を漏らす。結局このままでは引き分けで終わる可能性も高く、最初からエンジンがかかっていれば最初の「技あり」は取られなくて済んでいる。最初に油断しているから苦戦することになるのだと冨士森は苦言を呈します。ずいぶん口うるさい先輩ですが、この冨士森も3年生であり、この金鷲旗大会が立川学園での最後の大会なのです。だから後輩たちに色々と残してやりたいと思うところも多くて、ついつい小言も多くなるのでしょう。

しかし立川の犬威監督はそれに対して、エマがスロースターターなのは油断しているからなのではないのだと説明する。エマは相手が強ければ強いほど、その相手の強さを養分にして自分の強さを高めていくタイプなので、まずどうしても相手の強さを体感しなければ自分の強さも発揮されないのだそうです。だから、その過程でどうしても相手の攻撃を喰らってしまいポイントを取られることも多い。但し、エマからポイントを奪える相手というのはかなりの強者なのであり、エマは相手が強ければ強いほど実力を高めるタイプなので、ポイントを取られるほどの強敵と戦ってエンジンがかかってきた時のエマは無敵の強さを発揮することになる。そして、今がまさにその時なのだということになる。だからもう大丈夫だと、安心して観ていられると犬威先生は言っているのです。そして、それはつまり、犬威先生も永遠が天才エマの真の実力を引き出すことが出来るほどの天才だと認めたということも意味する。

それにしても、どうしてエマは相手が強ければ強いほど実力を発揮出来るのでしょうか。その理由は、エマが櫓投げにいってそれを永遠がなんとか耐えて、勢い余って2人で組み合ったまま観客席に突っ込みそうになった時にエマがとんでもない身体能力で静止して事故を防ぎ会場が静まり返った後、畳に永遠を担いだまま戻ってきたエマが永遠を畳に降ろしてから手を差し伸べて「まだまだ!もういっぽん!」と笑顔で手を差し伸べた時に判明しました。永遠はそのセリフも仕草も笑顔も、未知とそっくりであることに気付いたのです。

つまり、エマが相手が強ければ強いほど実力を発揮する理由は、未知と同じように「強い相手を投げ飛ばして一本を取るのが気持ち良くて楽しいから」だったのです。だから相手が強いと分かればワクワクしてモチベーションが上がり、実力を超えた実力を発揮していく。つまり試合中に相手の強さを吸収して進化していくのがエマの才能の本質であり、永遠のような努力型の天才とはまた異なる別のタイプの天才、感性型の天才といえる。永遠のように練習の積み重ねの上に開花する天才なのではなく、試合中に瞬時に進化していく天才だといえる。そして、これと同じタイプの才能を未知も持っており、エマは未知の上位互換なのだといえます。永遠はそうした自分には無いタイプの才能を持つ未知に惹かれて青葉西で柔道をやろうと思ったわけだが、その青葉西柔道部の金鷲旗大会での正念場で、その未知の才能の上位互換型の天才エマが立ち塞がったという形となる。

つまり永遠にとっては自分には無い才能を持つ相手との戦いであり、最も相性の悪い相手ということになります。ただでさえ自分より実力の勝る相手で、引き分けでは負けてしまう劣勢な状況で、そこで相手の正体が自分には無い才能、自分が憧れた未知と同じ才能の持ち主と分かったという、普通なら気落ちする状況です。しかし永遠はここで屈しなかった。何故なら、未知に自分には無いものを見出して憧れたのは永遠にとっては中学時代の過去の自分に過ぎないからです。今の自分なら、未知と一緒に4ヶ月一緒に柔道をやってきた自分なら、きっと未知と同じことも出来るはず。そう信じた永遠はエマや未知と同じように試合中に進化しようと試みていく。但し、エマのように対戦相手の強さを吸収して強くなるのではなく、永遠は大切な仲間たちの戦いから吸収したものを自分の技として繰り出していき、試合中に進化を遂げていく。

まずは残り1分を切ったところで、姫野が2回戦の堂本戦で見せた場外ライン際で相手に技をかけさせて不利な組手をリセットする戦法を駆使して、永遠はエマ有利の場面という窮地を脱します。これを見ててっきり永遠が一本負けしたと思って未知たちは浮足立ちますが、姫野は自分の使った戦法だけに永遠の作戦を理解し、自分が堂本戦でそうであったように、永遠がまだ冷静に勝ちに行くチャンスを窺っており、まだ闘志も消えていないことを理解する。一方で立川学園サイドでも1年の小田桐はこれを見てたまたま場外になっただけだと甘い分析をしているのに対して、上級生たちはさすがに修羅場を潜ってきているので永遠の戦法を理解している様子であるのは、なかなか上級生たちの強者感を描いていて良いと思いました。

そして永遠は更に続けて、組み直した途端に今度は2回戦の堂本戦で早苗が見せた巴投げにいって、そこから変化して更に今度は2回戦の堂本戦で姫野が見せた飛びつき腕十字で奇襲をかけます。それをエマが強引に振りほどいて、一旦離れた2人が再び組みあうと、今度は永遠は1回戦の湊戦で未知が見せた霞ヶ丘の妹尾直伝の変則背負い投げにいく。これは背の高いエマには有効な技でしたが、それでもエマは驚異の身体能力でこれに耐え、逆に永遠の帯を掴んで強引に回して投げ飛ばそうとする。これを耐えきることが出来ないと判断した永遠は、自分から強引に前に跳び、エマによって回されるのを阻止して、その代わりに勢いよく場外に跳び出して顔から畳に落ち、激しい闘志を示します。

そうして残り30秒を切ってもまだ激しい攻防は続き、そして残り10秒となった時点で永遠は最後の仕掛けに出る。このまま引き分けなら青葉西は敗退ですから永遠は仕掛けるしかない。一方、エマはこのまま逃げ切れば実質的に勝利という場面ですが、当然ながら未知と同じタイプの柔道家ですから、ここで逃げるようなことはせず、エマもまた最後に一本を狙って仕掛けてきます。この時、2人の念頭にあるのは未知と同じ「楽しさ」という気持ちです。永遠はもともと未知とは違うタイプですが、未知に影響を受けて未知の柔道を引き継いでおり、一方でエマは本人は未知のことはほとんどよく知りませんが本来的に未知と同じタイプなので思考が似てくるわけです。そうして2人は奇しくも、共に未知に関係深い技を繰り出し、それで決着がつくことになる。まず永遠が繰り出した技は、大外刈りをフェイントにした支え釣り込み腰でした。これはインターハイ予選で未知が白石にかけられて惜敗した技であり、それを練習した未知が初めて練習でその技を決めたのを見て姫野の柔道部復帰を決意させた技、そして金鷲旗大会の2回戦の野木山戦で未知が豪快に一本を決めた技でもあります。この1クールを通しての未知を象徴する代表的な技の1つといえます。

それを永遠が繰り出すのですが、それで危うく投げ飛ばされそうになったエマは片手を畳についてから脚を大きく跳ね上げて身体を一回転させると、その勢いを利用して永遠を豪快に背負って投げて見事に一本勝ちを決めます。このエマの、相手の投げ技の力を使って脚を跳ね上げて一回転してその勢いを利用して相手を投げるというトリッキーな技は、実は第1話の最初に描かれた中学時代の永遠と未知の初対決の時に未知が永遠を投げ飛ばした時に使った技に酷似しているのです。正確には、あの時に未知が使った技の完成形がエマの使った技ということになります。もちろん未知もエマも全く無意識に繰り出した技であり、過去に使ったこともない技ですが、途中まではほぼ同じ形で、フィニッシュが未知の場合は不完全だったので永遠から「技あり」しか取れなかったのですが、エマの場合はフィニッシュに完璧な背負い投げに移行したので永遠から「一本」を取れたのでした。

つまり、永遠は未知と出会ってから得た全てを注ぎ込んでエマを追い詰めたのですが、最後の最後に、未知との出会いの原点といえる技、永遠が憧れた未知の力そのものといえる技の前に破れたということになる。結局、現時点では永遠は未知を超えられなかったともいえる。ただ素晴らしい名勝負だった。未知なら小田桐戦の後のように悔しがりながらも大満足するところであり、未知と似たタイプのエマも試合終了後も名勝負に酔いしれている様子です。

しかし永遠は未知やエマとは元来違うタイプです。勝敗にこだわり、負けたことをどうしても悔やんでしまう。自分を大将に推してくれた南雲の期待を裏切ってしまった。決勝での再戦を誓い合った天音との約束も破ってしまった。みんなで戦う先があると信じて自分を畳に送り出してくれた未知と早苗と姫野の期待に応えられなかった。そうやってまた周囲の皆をガッカリさせてしまったと思うと、中学時代の頃のようにまた周囲から目を背けて逃げ出したくなってしまう。

しかし、未知の呼びかける声が永遠を現実に引き戻してくれる。未知ももちろん勝ちたいという気持ちでいっぱいで応援していたのだが、最後の最後の永遠とエマのハイレベルな技の応酬に目を奪われ、ただただ感動してしまい、勝敗などもはや忘れて懸命に賞賛の言葉を永遠に贈ってくる。別に永遠が負けてガッカリしているから慰めようとして言っているのではなく、心の底から感動して言葉が自然に湧き出てきているのだ。そこにはもちろん「自分もあんな気持ちいい試合をしてみたい」という想いも含まれている。その賞賛と羨望が入り混じった気持ちがあまりに激しすぎて興奮して語彙が追いついていない状態であったが、ひとしきり「すごい」「カッコいい」「最高」というような感じの意味不明なことを言った後、1つ確かに分かっていることを未知は目をキラキラさせながら言う。それは「ありがとう」という感謝の言葉でした。素晴らしい試合を見せてくれて、一緒に金鷲旗大会に出てくれて、そして一緒に柔道をやってくれて「ありがとう」という気持ちを未知は永遠に伝えてニッコリ微笑む。

その未知の姿を見て、未知の言葉を聞いて、永遠はまた未知に救われたと思った。またみんなをガッカリさせてしまったと思って自分を否定しそうになり、周囲を拒絶しかけていた自分を未知の笑顔がまた救ってくれた。負けて皆の期待を裏切ってしまった自分に「ありがとう」と言ってくれたのです。そのことによって永遠は未知と出会った時の気持ち、そして未知と出会ってから今に至る青葉西柔道部での日々を思い出し、いつもの永遠に戻ることが出来た。そして永遠は涙を浮かべて未知に向かってニッコリ微笑む。その笑顔には言外に「私の方こそありがとう」という気持ちが込められていたのだと思います。

こうして青葉西の金鷲旗への挑戦は終わった。最後、畳の上に昇って整列して立川学園のメンバーと礼を交わす未知たち選手4人の後ろ姿を見つめながら、1人だけ畳の上に昇れない南雲は悔しさを噛みしめる。自分以外の4人が負けた悔しさを噛みしめていることが南雲にはよく理解出来るから、それが共有出来ないことが南雲にはひときわ悔しい。その悔しさをぶつけるように南雲は横に立つ夏目先生に向かって「来年は私が先鋒で100人抜きます」と誓う。それに対して夏目先生も「ああ、楽しみにしてるよ」と応じて肩を抱く。

そうして青葉西が試合会場を去った後、霞ヶ丘のメンバーと一緒に柔道着から制服に着替える場面となりますが、ここで霞ヶ丘も惜しくも優勝候補の一角である東体大福岡に敗れたことも分かる。原作ではこの霞ヶ丘の試合を青葉西の皆が応援する場面も描かれているのですが、そこはアニメではカットされていて、両校ともに優勝候補に敗れて、お互いの健闘を称え合うという場面となります。ここでお互いに最後の試合となった青葉西の姫野、霞ヶ丘の白石の、同じ中学出身コンビが、最後なのでちょっと寂しそうにしつつ、白石は1年生たちの方を見て「夏まで残って良かった」と言う。もともとは春のインターハイ予選で引退するつもりだった白石だったが、未知から取った一本が気持ち良くてもう少し続けたくなって夏の金鷲旗大会まで付き合うことにした。その結果、天音や妹尾を金鷲旗大会に連れてくることも出来て、新たに金鷲旗大会のために勧誘した神野た多聞も結局楽しそうにしてくれている。そういうのを見ると、自分も最後に霞ヶ丘柔道部の役に立てたように思えて嬉しい。そして、こうして姫野とも再会することが出来た。試合を出来なかったのは残念だったが、こうして夏まで続けて福岡まで来た甲斐があったと白石は思ったのでした。

それに対して、姫野も未知たち1年生の無邪気な楽しそうな様子を見て「私も戻って良かった」と言って笑う。姫野も自分が戻って参加したことでこうして金鷲旗大会に参加することが出来て、1年生たちにとって得難い経験になったのなら、自分も最後に青葉西柔道部の役に立つことが出来たと思えて満足でした。そしてこうして白石と再会できたことも嬉しかった。再戦の約束は果たせなかったが、こうして道着を着て再会出来ただけで十分でした。

しかし姫野の場合はそれだけではない。姫野が「戻って良かった」と心から思えるのは、戻ったことを後悔しなかったからです。そういう点では、ずっと柔道を続けていた白石と、一旦辞めて戻ってきた姫野は微妙に違う。白石は続けてきたことを後悔はしないだろうけど、姫野は一旦辞めてブランクを置いて戻ってきた自分が最後の試合の後で「やっぱり戻ってくるんじゃなかった」と後悔することを恐れていた。そんな姫野に対して夏目先生は「もう一度踏み出した自分の勇気に誇りを持って努力すれば、きっとやり切ったと思えるだろう」と言ってくれた。今、姫野が「戻って良かった」と口にしたのは、その夏目先生の言葉への答えでもあるのです。自分はもう一度踏み出した自分の勇気に誇りをもって努力することが出来たのだと思う。だからこうしてやり切ったと思えているのだ。先生の言った通りだったよと。だから、その姫野の言葉を横で聞いていた夏目先生も黙って嬉しそうに微笑むのでした。

ただ、こうした和やかなムードの中、早苗だけがちょっと暗い顔を覗かせる一幕があった。それは未知が何の気も無しに「最終日まで勝ち残りたかったなぁ」と言ったのを承けてのことでした。未知は単にいっぱい試合がしたくてそんなことを言っただけだったのですが、早苗はそれが気になったようでした。

その日の夕方、青葉西の面々と霞ヶ丘の面々は一緒にラーメン屋に繰り出す。博多に着いてから未知が念願としていた、とんこつラーメンを食す時が遂に来たのです。しかも、ラーメン屋の店を紹介してくれたのは博多南の3人でした。なんと博多南の野木坂はラーメン屋の娘であり、野木坂の父親のラーメン屋に皆は連れてきてもらったのでした。

そうして皆でワイワイ騒いでラーメンを食べているのでしたが、そんな中、テーブル席の未知たちから少し離れたカウンター席で早苗と姫野の2人が並んで座ってラーメンを食いながら、変に元気が無い早苗の話を姫野が聞いてみると、早苗はどうやら自分が足手まといになっているのではないかと気にしていることが分かった。この金鷲旗大会において、未知も永遠も姫野もそれなりに活躍した中、早苗だけは結局1勝も出来ませんでした。だから早苗は自分のせいで最終日まで勝ち残れなかったのではないかと気にしているのです。実際はそんなことはないのですが、主将として責任感を誰よりも強く感じているからこそ、真面目な早苗はそんなふうに思い詰めてしまうのでしょう。

そんな早苗に対して姫野は、いつも皆を気にかけていて誰よりも優しい早苗は主将としてこのチームに絶対に必要だと言って励ます。ここで早苗は自分の柔道の弱さを気にしているので、早苗が強いと言って励ますとか、強くなるためのアドバイスをするのが本来あるべき助言なのかもしれない。しかし姫野はそういうことは言わず、早苗が強くても弱くても関係なくチームにとって必要なのだと言う。それはつまり、大事なのは勝つことじゃないということが姫野には分かっているからです。勝つためには強い早苗が必要なのかもしれないが、このチーム、この柔道部が一緒にやって良かったと思えるものになるためには主将として皆をまとめてくれる早苗が必要なのです。今回、姫野も早苗のお陰で福岡に来てよかったと思えたし、柔道部に戻って良かったとも思えた。だから早苗が足手まといなんてことは決してないのだと姫野は言うのです。それは早苗の求めている答えではないのかもしれない。しかし、これはとても大事なことなので姫野としても譲れないところであったのです。大事なのは勝つことではないのです。大事なのは、一緒に勝ちたいと思えるチームであることなのです。そのためには今の早苗で十分なのだと姫野は言いたかったのです。それは短い間だけだったが先輩として接した姫野が最後に後輩たちに残したい言葉でした。自分はそういうチームとはほとんど無縁の高校時代を過ごしてしまったからこそ、後輩たちには今のチームを大切にしてほしいと思っているのです。

ただ、偉そうなことを言っているが、自分も色々とモヤモヤして迷走したということを自覚している姫野ですから、早苗がモヤモヤしてあれこれ悩むこと自体は否定しません。どんどん悩んで迷走すればいいのだと早苗に言います。そこまで姫野が言い切れるのは、たとえ悩んで間違って回り道しても大丈夫だということを今回学んだからです。もし迷って回り道しても、そこでまたもう一度踏み出せる勇気さえ持てれば、いくらでもやり直しは出来る。それは夏目先生が姫野に教えてくれたことですが、今度はそれを姫野が早苗に教えようとしてくれているのです。どれだけ悩んで回り道しても、もう一度踏み出せる勇気さえ持てれば、きっと3年の夏の金鷲旗大会は「最高の夏」になる。「私みたいに」と言う姫野の言葉を聞き、早苗は姫野も実は自分と同じように高校柔道の3年間たくさん悩んで迷っていたのだと気付く。その先輩が大丈夫と言ってくれているのだから大丈夫なのだと気持ちを強くすることが出来た早苗は、姫野にお返しするように「先輩もいつでも練習来てください」と主将としてキッパリと言い切り、これまでの感謝の気持ちを込めるのでした。

そして翌日、金鷲旗大会の後半日程、決勝戦までを見届けた後、青葉西の面々は埼玉に帰るために福岡空港に行くのだが、そこで優勝した立川学園の面々と出くわす。激闘を繰り広げた永遠とエマでしたが、永遠は小田桐の方に絡まれて「次は勝つ」とか散々に詰められてしまいビビリまくり、エマの方はほとんど接点が無かったにもかかわらず同類ゆえに波長が合う未知と意気投合します。そして未知は「優勝記念」と言って皆で一緒に写真を撮ろうとか言い出して、そこにいた立川学園の怖そうな2年生や3年生のレギュラー陣にも気軽に声をかけ出す。このへん、梅原が勝手につけていた異名で相手を呼んだりして、かなり危なっかしいんですが、さすがの未知のコミュ力です。最初は「誰?」って感じだった立川学園の先輩たちも青葉西との試合のことを思い出し、やたら楽しそうにする未知のことを「小さいエマみたい」と評する。

更に未知はその場に居合わせた犬威監督に自分のスマホを渡して写真を撮ってもらおうとするので、さすがに立川学園の先輩たちもビビリまくるが、犬威先生は快く撮影係を引き受けてくれる。そこに夏目先生もやって来て、思わず生徒たちの前で素が出そうになって堪える犬威監督が面白かった。そして犬威先生は夏目先生に永遠のことを話し、小田桐とエマが永遠からものすごく刺激を受けたと言って夏目先生に礼を言う。

そして更に犬威先生は未知のことにも触れる。「柔道は自他共栄の道」「その道を瞬く間にとても楽しそうに作り出す」と言って、未知を中心に青葉西と立川学園も一緒になって楽しそうにしている様子を犬威先生は眩しそうに見る。そして、それに応えて夏目先生も未知のことを「ああ、とても魅力的な子だよ」と言い、そこでEDテーマが流れ、最終話スペシャルバージョンで、夏休みに柔道部の5人で一緒に海に遊びに行った時の様子がバックの映像として流れます。

さて、ここで犬威先生が言った「自他共栄」という言葉ですが、これは柔道の創設者である嘉納治五郎が柔道というスポーツの指針として定めた「精力善用、自他共栄」という言葉からの引用です。「精力善用」というのは「柔道で鍛えて得た力は相手を倒すためではなく、世のため人のため社会貢献のために使うべき」という教えです。つまり、ただ自分が勝てば良いのではなく、柔道は皆の役に立つためのものでなければならないということです。

そして、その「精力善用」と対となる「自他共栄」という言葉の意味は「自分だけの利を追求するのではなく自分も他人も共に利を得なければならない」ということであり「自分が利を得るためには他人にも慈しみの心を持たねばならない」ということです。柔道というスポーツは自分1人では出来ない。相手がいてこそ成立するスポーツなのだから相手を大切にしなければ自分も上手くなれるはずがない。だから「自分さえ良ければ他人はどうなってもいい」なんて考えは成り立たない。つまり「精力善用」と同じく、柔道は自分の勝利のためにやるものではなく、皆のためにやるものなのです。勝者も敗者も無く、皆で一緒になって向上していこうというのが柔道の真髄といえます。

それを犬威先生は「柔道は自他共栄の道」と言い、青葉西も立川学園も関係なく、あっという間に皆を巻き込んで一体感を作り出してしまう未知を見て、その自他共栄の道を楽しそうに自然体で作り出していくようだと評して、まるで未知を柔道の申し子であるかのように見ている。それを聞いて夏目先生も未知を「魅力的」だと言う。これは単に未知が可愛いとか、未知が強いという意味で言っているわけではない。未知自身はまだ大して柔道は強くないかもしれないが、こういう未知のように皆を巻き込んでいって「皆で楽しく一緒に強くなろう」という空気を作り出せる者こそが、これからの時代の新しい柔道の強さを生み出していく担い手になれるのだということを夏目先生も犬威先生も感じていて、だからこそ未知に魅力を感じているのです。

さて、そうしてこの作品も終わりを迎えますが、EDテーマの終わった後はCパートがあり、真夏の青葉西の武道場で練習をする未知と早苗と永遠と南雲の4人が描かれます。この場面、金鷲旗大会から1ヶ月以上経った夏休み最後の日なのだそうで、既に姫野は引退しているので練習に参加しておらず、秋の新人戦に向けた1年制だけの新生青葉西柔道部の陣容になっています。この場面はよく見ると第1話の冒頭の場面と同じ時期だということが分かります。第1話冒頭の場面が未知と早苗と永遠と南雲の4人であったのは、この金鷲旗大会後の時期だったからなのですね。第1話のアバンの場面が最終話のCパートの場面に繋がるとは予想外の粋な構成といえますね。

ここの場面、未知以外の3人が未知と出会って柔道を一緒にするようになったことを喜びに感じている様子が描写され、秋の新人戦に向けて盛り上がり、未知が「みんな居たから楽しかったよね」と金鷲旗大会を懐かしむ。そして夏目先生がやって来て「もう今日の練習は終わり」と言ったところで、未知たちが「もういっぽんお願いします」と食い下がって、その熱意に負けて夏目先生がこの夏ラストの一本の乱取りを4人に許可する。そして「最後までしっかり集中して」と指示し「はじめ!」と号令をかけると、未知と早苗と永遠と南雲の4人が一斉に乱取りを開始しながら「もういっぽん!」と返すところで物語は終幕となります。実際はこの後も物語は続いていくのですが、ここで完結と言われても受け入れてしまいそうなぐらい綺麗な終わり方でした。だから非常に満足感の高い最終話の終わり方であったのですが、もちろん第2期が作られるというのでしたら大歓迎です。ただ、変に第2期を匂わせるような中途半端な終わり方をせずに綺麗に終わらせたのは好感が持てました。素晴らしかったと思います。こういう作品だからこそ第2期を作ってほしくなるというものです。