先日書いた記事にコメントを頂いた内容について考察しながら書きたいと思います。
「無水エタノールが原因で刀に錆が出た」という話。
↑コメントの原文はこの記事のコメント欄を読んでください。
ここではコメント内容を要約しながら書いていきます。
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この記事で紹介する前から、先日の勉強会で教わった「刀の油の落とし方」についてこのブログで紹介していました。
自分はベンジンの残留の影響がわからないので、
— 装剣金工 片山重恒/ Katayama Shigetsune (@shigetsune) October 9, 2023
ベンジンで拭ったあと、無水エタノールで拭うと言う二段構えで完全除去しています。
植物油は汚れを取り込んでくれると言う利点もあるってのを言うの忘れてた。
↑ベンジンで油を落としてから無水エタノールで拭うという方法
これを実戦したら錆が出たとの事です。
ただし、かなり特殊な環境で刀を保管されていたとの事です。大切な刀なので絶対に錆が出ないようにステンレスのケースに油(流動パラフィン)を満たして、その中に刀身を漬け込んで保管するというもの。
要約↓
・先日の私の記事を見て無水エタノールで拭って油に漬け込んだ。2日後に確認すると銘字の部分に錆が出ていた。
・銘字の部分なので拭き取れなかったせいなのか
・ちゃんと乾かしたはずだが乾かし足りなかったのか
・これまではベンジンで拭うだけでこの方法で保管していたが錆が出た事はない
・自分は無水エタノールの影響であると確信している
別の方からのコメント
無水エタノールは吸湿しやすいので開封後は水分を含む。その影響ではないか?
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調べてみた所、無水エタノールは吸湿しやすいので本気で水分の影響を受けたくないのであれば開封後すぐに使用しなければならない事がわかりました。しかし、現実問題としては難しいとも思います。
以下は私の推測
アルコールは極めて揮発しやすい物質です。多少水分が混ざっていてもアルコールと一緒に水分も気化するので通常は問題にならないはずです。
今回の問題の特殊な点は「刀身を油に漬けこんで保管していた」という点にあると思います。以下のような可能性を考えます。エタノールが乾く前に油に漬けこんでしまうと油に囲まれてしまうためにエタノール(取り込んだ水も)が揮発できなくなってしまう。だから水分中の酸素が鉄と反応して酸化して錆になってしまった。私はこのように推測します。
もう一点。アルコールが気化する時に刀身の温度を下げます(気化熱)
環境によってはそれにより結露が生じて水分が刀身に付着する可能性についても考えます。もしこれが起こっても肉眼では確認できないような少量の水分でしょうから、「油漬け」という特殊な環境でなければすぐに乾いて問題にはならなかったのではないかとも考えます。
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この推測が正しいかどうかはわかりません。そもそも、本当に錆の原因が無水エタノールにあるのかどうかも確認する術がありません。
ただ、私はこの推測に基づいて刀の手入れをしていこうと思います。
油に漬け込むような事はないのであまり関係がない気はしますが、以下の2点。
・茎には無水エタノールを使用しない
・無水エタノールで拭ったあとは乾拭きして、完全に乾くまで油を塗らない
油に漬けこまなくても、見えないレベルの鍛え割れとか鍛接層のすきまに吸湿したエタノールが入り込み、それが乾く前に上から油を塗るとエタノール(と水分)が気化できずに錆の原因になり得る可能性はあるかもしれないと考えます。刀身彫刻や樋のある刀は乾拭きして乾かすのが難しいので無水エタノールを使用する場合は要注意かもしれません。油を塗るのはしっかり乾くまで時間を置くほうが良いと思います。といっても、エタノールなのですぐに乾くとは思いますが。
刀の手入れに無水エタノールを使用している人は多いと思います。それでもあまり問題になったという話は聞きません。今回はじめて聞きました。今回のような特殊な場合でなければあまり神経質に考える必要はないのかもしれませんが、今後は注意したいと思います。
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もう一点、似たようなものに「刀泉水」というものがあります。ラベルには「打ち粉の液体タイプ」と書かれています。ベンジンやエタノールと同様に油を落とす時に使用するものですが、内容は石灰水なので成分はほぼ水です。これを使用する場合も今回の無水エタノールでの注意点と同様の事を気を付けるべきかと考えます。刀泉水の方が無水エタノールよりも厳密に気をつけた方が良さそうに思います。主に武道系の刀剣店で販売されているので、武道や試斬などで使用した場合に汚れた刀身を綺麗にするにはベンジンやエタノールよりもこちらの方が良い場合があるのかもしれません。または打ち粉が必要な植物性の錆止め油を使用する場合などもこちらの方が良いのでしょうか。「打ち粉の液体タイプ」と書かれていますし。
シリコンオイル→ベンジン
流動パラフィン→無水エタノール
植物油→刀泉水??
まあ、いずれの場合も普通に手入れに使用する分にはさして問題になるとは思わないのですが。
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