INA&ラジオ・フランス提供音源で聴くことができる小澤征爾の貴重なブザンソン国際指揮者コンクール本選実況録音と、パリのサン=ドニ大聖堂でのマーラーを聴くことができる。一般的に言えば、前者に目がいきがちだが、マーラーファンとしてはボストン交響楽団との1980年録音の1年前にこれほどに素晴らしい「一千人の交響曲」をライヴ録音していたことに驚きである。初CD化ということで、これは聴かないわけにはいかないだろう。
・ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
録音:1959年9月10日(ライヴ)
本選でのドビュッシーの「牧神」を聴くことができる。オーケストラ側に演奏上のミスがあるものの、貴重な歴史的録音であるということも含めてスッキリとした安定感のある伸びやかさが功を奏する瞬間として幾度となく垣間見えてくる。
・ヨーゼフ・シュトラウス:天体の音楽
録音:1959年9月10日(ライヴ)
軸が安定しているのに加えて、後に演奏されるニューイヤーコンサートでの演奏を想像して聴くと非常に考え深い瞬間に襲われる。本選での演奏ながらこの仕上がりは感無量だ。普段聴かないシュトラウス作品ではあるが、最初から楽しむことができて個人的に満足している。
・ビゴー:ブザンソンのための未発表管弦楽作品
録音:1959年9月10日(ライヴ)
ビゴー作品自体普段からあまり聴かないため、今回ばかりは非常に楽しめた。複雑性の強い曲ながら独特な旋律が個性的な音色と響きによって演奏が展開される。特にトランペットを筆頭とする金管楽器の音色は大きな印象に残った。
・マーラー:交響曲第8番「一千人の交響曲」
録音:1979年6月11日(ライヴ)
パリのサン=ドニ大聖堂で演奏したマーラー。翌年1980年10月にはボストン交響楽団と素晴らしい名盤を録音することとなるが、当盤はそれよりも前の録音となる。フランス国立管弦楽団、フランス放送新管弦楽団の2つの合同オーケストラによる演奏は、想像している以上に音質が良く、ダイナミック・レンジの幅広さのある演奏となっている。壮大なるスケール感と共にオーケストラ、歌手、合唱全体として一体感を感じ取ることのできるインパクトある演奏をこの時代に演奏しているというのがこの作品として非常に貴重である。録音当時でいえば、まだまだ録音数も少ないマーラーながら、小澤さんは2年連続で非常に素晴らしい名演と名盤を残している。テンポの緩急からなる第1部も凄まじいが、第2部における濃厚さからなるスケール、ダイナミクス変化の連続には聴き手としても終始圧倒されるものがあった。
・バーバラ・ヘンドリクス(ソプラノ)
・テレサ・ツィリス=ガラ(ソプラノ)
・バーバラ・フォーゲル(ソプラノ)
・ナディーヌ・ドニーズ(ソプラノ)
・ローナ・マイヤース(メゾ・ソプラノ)
・ケネス・リーゲル(テノール)
・ジークムント・ニムスゲルン(バリトン)
・ペーター・メーヴェン(バス)
ロンドン・フィルハーモニー合唱団(音楽監督:ノルベルト・バラチュ)
フランス放送合唱団(音楽監督:ジャック・ジュウィノー)
パリ児童合唱団(音楽監督:ロジャー・デ・マニェ)
ここから小澤征爾の指揮者としての道が切り拓かれたと言っても過言ではない。1960年代に入るとN響事件が起こるが、それは度外視してもブザンソンにおける本選の演奏は非常に素晴らしいものだった。まだ手元に小澤さんの初出音源があるので、こちらについても後日取り上げたいと考えている。
