第1967回「5回振り下ろされるハンマー、ノット&東響のマーラーの交響曲第6番《悲劇的》」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日ご紹介していくのは、2023年5月20日、21日にミューザ川崎シンフォニーホールにてライヴ収録されたマーラーの交響曲第6番「悲劇的」です。すでにバンベルク交響楽団とマーラーの交響曲全集を完成させているノットが東響と演奏しているマーラー・シリーズ。これまで第1番、第5番、第9番がSACDハイブリッド盤として発売されてきましたが、ここに第6番が加わります。それも作曲当時におけるハンマーを5回振り下ろす演奏を採用しています。100種類以上の「悲劇的」を集めている私も5回振り下ろされる録音はまだ持っていないので、今回が初となります。ニコ生のアーカイブで当時聴いていますがついにCD化してくれて本当に嬉しいです。


「ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団」

マーラー作曲:
交響曲第6番 イ短調「悲劇的」



 確かこの時のライヴをニコ生のアーカイブで聴きながら、いつも通り池袋から自宅まで歩いて帰ったのを覚えている。演奏会ではリゲティの「ムジカ・リチェルカータ第2番」が「悲劇的」の前に演奏された。ここまで何種類かノット&東響によるマーラーはCD化されていたので、いつかCD化してほしいと思っていたこともあって、こうして聴くことができて感無量である。


・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

録音:2023年5月20日、21日(ライヴ)

 第1楽章冒頭よりやや重めかつ遅めのどっしりとしたテンポによって演奏ははじまる。大抵遅いテンポによる演奏だと、音が伸びてしまったりズレが生じたりするものが過去に何種類か存在したが、当盤はそういった演奏ではなく比較的に安定感を持って演奏が行われている。若干ではあるが、安全運転を行きすぎてクリアさは全面的に押し出せているものの、どこか控えめに聴こえてしまう面も多くはない。しかし、弦楽器を筆頭としてここまでくもりのない透明度の高い音色と響きを余すことなく聴くことのできる演奏は中々ないので、聴いていて安らぎを覚えたのは他の同曲録音にはない特徴である。


 第2楽章は若干遅めのテンポによって演奏されながら、複雑さがより明確になっているスケルツォ楽章として演奏されている。「緩→急」は少ないが、「急→緩」による揺らぎは比較的に多いようで、遊び心を持って演奏を楽しむことができる。細部まで細かくダイナミクス変化が演奏されているので、アンサンブルとしての技量も高く聴こえる。特に弦楽器に関しては生々しいサウンドが光り、金管楽器に関しては荒々しさが功を奏している。


 第3楽章は、たっぷりと重心低めのテンポからなる重々しさからなる重厚感によって展開されており、弦楽器を筆頭として透き通るような透明度の高い音色と響きを余すことなく楽しめるようになっている。弦楽器の高音がどこか泣き叫ぶかのように聴こえなくもないが、広大なスケール感を味わえた瞬間に大きな衝撃を味わえるようになっているので、それも含めて美しい演奏となっている。


 第4楽章ではハンマーが現在のマーラー協会版では最終稿として2回振り下ろされるようになっているが、今回の演奏に関しては作曲当初における5回振り下ろされるハンマーが採用されており、00:20に1回目、13:43に2回目、18:30に3回目、19:51に4回目、29:41に5回目の計5回ハンマーが振り下ろされるようになっている。これはノットが過去に演奏したバンベルク交響楽団でも行われなかったアプローチであり、100種類以上の聴き分けと収集を行ってきた中でも同じアプローチはない。それ故に今回の演奏は第4楽章がメインであることは言わなくてもわかるかと思う。実際聴いていてもその高いテンションの振り幅は、オーケストラ全体も大分振り切っている感覚に近いので聴いていて非常に面白い。若干金管楽器にスタミナ切れの雰囲気を感じ、第1楽章同様に安全運転で進行していくような場面もあるが、5回振り下ろされたハンマーの「ズシンッ」という深みある打撃はこれまで何百種類と聴きながら探し求めてきた「悲劇的」屈指の音だったのではないだろうか?何よりも東響が全身全霊で出し切る力を全て出し切っているというのが良くわかるライヴだったのは間違いない。


 先日取り上げたばかりのテンシュテットによる晩年の「悲劇的」も非常によかった。個人的にはそれを超える決定盤が今後現れるかどうかと考えていたところに、当盤が現れた。全体における世界観としてはそれぞれの良さがあり、個性がある。ただ、ハンマーの音に関しては特に素晴らしかったと断言できる。いつか良いスピーカーやヘッドホンを購入した時には一番最初にこの「悲劇的」を聴きたいと思う。



https://tower.jp/item/6427767/マーラー:交響曲-第6番「悲劇的」