アバドはベルリン・フィルやウィーン・フィル以外にも若手音楽家によって構成されたオーケストラともいくつか録音を残した。当盤に収録されているザルツブルク音楽祭でのライヴはその一部である。「オルフェオ」から発売されている中でも比較的に音質が良い印象を受けるので、ベートーヴェン、シェーンベルク、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ムソルグスキー作品を楽しむに充分とも言える。
・ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」序曲
録音:1979年8月13日(ライヴ)
まさに幕開けにふさわしいような清々しさからなる爽快感抜群の演奏となっており、俊敏な動きをみせる弦楽器群による演奏が功を奏する形となっている。若干バラつきがあるようにも聴こえなくないが、それとしても重々しい感覚はなくエネルギッシュで聴きやすい序曲を楽しむことができる。
・シェーンベルク:ワルシャワの生き残り
録音:1979年8月13日(ライヴ)
シェーンベルクは「月に憑かれたピエロ」にて「シュプレヒシュティンメ」歌うようにではなく、話し声で歌うようにと指示を記載している。「ワルシャワの生き残り」に関してはナレーターによるナレーションではあるが、1本の線と上下に音が割り振りされているため、「シュプレヒシュティンメ」と同じであるという解釈も生まれなくはない。曲としては現代的であり、ナレーターとオーケストラとのタイミングが重要なっていることもあって複雑性はより増していると言える。1979年のライヴ録音ではあるが、音質も良く聴きやすいため理解しやすい演奏となっている。現代音楽でのオペラ作品を聴いているかのような感覚に近いと言えるだろう。
・ストラヴィンスキー:バレエ「火の鳥」組曲(1919年版)
録音:1979年8月13日(ライヴ)
ECユースオーケストラとのメインと言っても良いストラヴィンスキーの「火の鳥」。オーケストラ全体、各楽器ごとの演奏においても非常に高い技術力を演奏から聴くことができるようになっており、ダイナミック・レンジの幅広さが生かされた分厚い圧倒的なスケール感を演奏から通して聴くことができる瞬間というのはまさに圧巻の演奏である。フィナーレの荘厳さと壮大なる幕切れは金管楽器のサウンドと弦楽器による伸びやかな音だからこそ聴くことのできる演奏と言えるだろう。
・プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」組曲第1番よりタイボルトの死
録音:1979年8月13日(ライヴ)
アバドによる「ロメオとジュリエット」といえば、ベルリン・フィルとのハイライト版が非常に有名だ。今回は組曲より「タイボルトの死」のみ演奏されているが、この1曲だけでも体感できるようなテンポの緩急からなるダイナミクス変化の豪快さや爆発的なエネルギーは非常に凄まじい演奏となっているのは間違いない。金管楽器は咆哮し、弦楽器は躍動感を味合わせてくれる。
・ムソルグスキー:交響詩「はげ山の一夜」(原典版)
録音:1994年7月29日(ライヴ)
アバドによる「はげ山の一夜」といえば、ベルリン・フィルとの録音があまりにも有名だ。その時にも演奏されていたのは今回と同じ原典版である。オーケストレーションに関していえばやはりリムスキー=コルサコフ編に劣る部分は多いかもしれないが、個人的にはこの荒さが良いと考えてしまうところがある。あとは未完成感と言おうか。ベルリン・フィルほどに分厚い、重厚的なスケール感はそこまで感じられないにしてもテンポの緩急からなる躍動感は非常に素晴らしく、オーケストラサウンドとしても一貫性のある豪快さが伴われていると言えるだろう。
アバドは晩年に若手の音楽家によって構成されたオーケストラと録音している印象が強い。その中には解釈が変わっている演奏も少なからずあるだろうが、聴きやすい名演、名盤であることは間違いない。その点ではまだまだ聴いていない録音が多数存在しているので、今後少しずつ聴いていきたいと思う。
![](https://ssl-stat.amebame.com/pub/content/9477400408/amebapick/item/picktag_autoAd_301.png)