ラトルとロンドン響による3種類目のブルックナーである。交響曲第6番に始まり現在までに第4番、第7番ときている。いずれもコールス版で演奏がされている。まだ第6番に関しては聴いていないので近いうちに聴いておきたいと考えているが、現時点で3種類の交響曲が録音されていることもあって、今後どこまでこのシリーズが続いていくのか個人的に気になるブルックナー録音である。なお、今回のコールス校訂版は、初版を中心資料としてブルックナーの手稿譜に基づいて構成されている。
・ブルックナー:交響曲第7番(コールス校訂版)
録音:2022年9月18日&12月1日
第1楽章が始まった瞬間に普段聴くブルックナーの交響曲第7番と違うことを体感させられる。というのもスコアをまだ見ていないため細かい違いは把握できていないが、音の密度が全く違うと言える。これはSACDハイブリッド仕様によるダイナミック・レンジの幅広さというのも影響しているかもしれないが、全ての音が点と線で繋がっているような感覚であるため、分厚いスケールもそうだがより一層濃厚さが増しているように聴こえる。音色もキツさのない慈愛に満ちた優しさとたっぷりと味わえるような濃密な音を奏でているため、金管楽器が弦楽器寄りになって美しく響いていることに感動を覚える。テンポ自体も第1楽章はやや遅めであることからなおのことそれを感じやすかったのかもしれない。
第2楽章でも同様のことが言える。ワーグナーの死を予感しながら書き進め、その途中で亡くなったことによってコーダを追加しワーグナーのための「葬送音楽」となった第2楽章は、まとまりある弦楽器の音色や4本のワグナー・チューバが奏でる音楽も聴き手の心に重く、深くのしかかるような感覚を覚える。しかしこれは悪い意味ではなく、悲しみも受け継ぎながら芯のある美しさを味わえるように奏でられているようにも聴こえなくはない。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることによって第1楽章よりも濃厚で豊かな音色からなるたっぷりと幅広く取られた演奏を味わうことができるようになっていることに間違いはないだろう。
第3楽章では第1楽章や第2楽章と比べればテンポもそれなりに速くなり、推進力を確かに感じ取ることのできるようになった。しかし、オーケストラ全体が奏でるまろやかな音色であることもあって鋭さはそこまで感じられない。また、中間部はテンポはガクンと落ちて演奏されているため、ホルンや木管楽器、弦楽器による演奏が濃密に演奏され深い感動を味わえるようになっている。その後再びスケルツォに戻って演奏が展開されるようになっており、厳格ながらも推進力からなるエネルギーを感じ取ることができる。
今回の演奏における第4楽章は聴く前と聴いた後での印象の変化が非常に大きいと言える。濃厚な音色によって奏でられることもあって、今まで軽快さのあるしつこさのない楽章という印象が全くと言ってもいいくらいに違うものへと変化することとなった。加えて細部にわたって細かく変化するダイナミクス変化が功を奏しており、それが卓越されたアンサンブルによって奏でられるようになっているのだから思わず驚かされてしまう。一貫性のある楽章であるということもあるが、濃厚さを最後の最後までたっぷりと味わえたのは大きなプラス的要因であると言えるだろう。