一本の映画を見ているかのような「シェエラザード」から始まり、原典版と1880年版というややマニアックな2種類の「はげ山の一夜」が演奏される。元々は音詩「聖ヨハネ前夜の禿山」という名前だった原典版、アバドやパーヴォ・ヤルヴィなどが取り上げており近年少しずつ演奏される傾向が増えている。1880年版は未完に終わった歌劇「ソローチンツィの市」第3幕第1場の合唱曲「若者の夢」として「はげ山の一夜」が演奏される。現在では1930年にヴィッサリオン・シェバリーンによるオーケストレーション版とされている。
・リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」
録音:2022年8月24日
劇的な世界観が演奏からよくわかるようになっている今回の「シェエラザード」。細かいテンポの緩急が明確に変化しているため他の録音とはまた違う聴こえ方をしている演奏となっている印象が強い。それも悪い意味ではなく、綺麗なサウンドと美しさ溢れる音色によって描かれていることもあって非常に聴きやすい明瞭な演奏となっていることは間違いない。また、Dolby Atomsのロスレスということもあってかダイナミック・レンジの幅広さが大分あるため響きに関しても充実している。そこから生まれるオーケストラ全体のスケールによってまとまりを得た音色は聴き手を大きく包み込んでくれる。ヴァイオリン独奏も技巧と豊かな演奏を聴くことができるようになっているのは大きな魅力とも言えるだろう。
・ムソルグスキー:交響詩「はげ山の一夜」(1867年原典版)
録音:2019年5月9〜11日(ライヴ)
リムスキー=コルサコフ編を聴き慣れている人からすると原典版は全くといいくらいに違うオーケストレーションとなっているため、好みが分かれるかもしれない。個人的にはパーヴォ・ヤルヴィ&N響による演奏を聴いてから原典版を好んで聴いているので聴いていて非常に楽しかった。今回の演奏はダイナミック・レンジの幅広さが増していることによる壮大なるスケールと、テンポの緩急からなるダイナミクス変化に圧倒させられるサウンドを聴くことができるようになっており、大げさにも聴こえなくはないアプローチながら劇的なスケールとまがまがしい感覚を味合わせてくれる演奏である。オーケストラ全体がまとまりのある演奏となっていることもあり、分厚いスケールが出来上がっており強烈な演奏を随所で聴くことができるようになっている。
・ムソルグスキー:交響詩「はげ山の一夜」(1880年版)
録音:2014年10月25〜26&28日
歌劇「ソローチンツィの市」から第3幕第1場で演奏される合唱曲「若者の夢」として合唱付きの管弦楽曲として編曲された1880年版。元々はテノール、バスと児童合唱という構成だったが、今回演奏される1930年ヴィッサリオン・シェバリーンによるオーケストレーション版では合唱にも手が加えられている。共通する部分もあるものの、オペラの一節として演奏される曲となったことによってオーケストレーションが大分違う。一種のパラレルワールドを聴いているかのような感覚を受けるが、合唱が加わったことによってオーケストラのみで描かれたまがまがしいサウンドに対して、さらにプラスして不気味なスケールが足された感覚であることは聴いていただくとよくわかるかもしれない。
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