第1800回「三善晃による《合唱とオーケストラのための反戦三部作》」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日は1800回目の投稿となります。毎回100単位の際は必ず「現代音楽」を取り上げると決めているので、今回は尾高忠明&NHK交響楽団による演奏で三善晃の「レクイエム」、「混声合唱と管弦楽のための詩篇」、「オーケストラと童声合唱のための《饗紋》」を取り上げます。上記3曲は三善晃にとって非常に重要な作品となっていて、「合唱とオーケストラのための反戦三部作」と称されています。



「尾高忠明指揮/NHK交響楽団」


三善晃作曲:

レクイエム


混声合唱と管弦楽のための詩篇


オーケストラと童声合唱のための「饗紋」




 三善晃の「合唱とオーケストラのための反戦三部作」は「レクイエム」、「混声合唱と管弦楽のための詩篇」、「オーケストラと童声合唱のための《饗紋》」の3曲を称しており、自らの戦争体験基づいて強いこだわりから作曲された現代音楽である。演奏される機会自体も少ない曲となっているため、演奏されることがあった場合は非常にレアなケースと言ってもいいかもしれない。最近では2023年5月12日に東京文化会館にて行われた山田和樹&東京都交響楽団の第975回定期演奏会の曲目として演奏され、大きな話題を呼んだ。この時の演奏はYouTubeにて公開されているので貼っておきたいと思う。


・三善晃:レクイエム

録音:1985年7月14日(ライヴ)

 「日本反戦詩集」と「海軍特別攻撃隊の遺書」から抜粋し歌詞とした作品。1972年に日本プロ合唱団連合の委嘱によって作曲され、初演は同年3月15日岩城宏之&NHK交響楽団、日本プロ合唱団連合によって行われた。死者を悼む音楽としてではなく、死者の理不尽な死への自問自答がコンセプトとなっている。極めて難解な作品となっており、泣き叫ぶかのようなオーケストラの演奏をバックに混声合唱が歌い上げる。また、テープ再生する指示も演奏上存在するため複雑はより一層増す。尾高忠明さん&N響の録音は音質が良いわけではないので合唱とオーケストラのバランスがうまく整われていない。しかし、その状態だからこそ味わえる世界観であることは間違いなく、爆発的なエネルギーからなるテンポの緩急とダイナミクス変化や情報量の多さ、不協和音など聴いていて戦場にいるかのような感覚を覚えるような仕上がりとなっている。音楽を聴いて恐怖する体験をリアリティかつ生々しく味わえる演奏であることは間違いない。




・三善晃:混声合唱と管弦楽のための詩篇

録音:1985年7月14日(ライヴ)

 宗左近の戦争体験からかる詩集「縄文」を歌詞とした全8章からなる作品である。1979年に文化庁の委嘱を受けて作曲され、同年10月16日に行われた「昭和54年度文化庁芸術祭コンサート」で小林研一郎&東京都交響楽団、日本プロ合唱団連合(合唱指揮:田中信昭)によって初演された。生き残ったものが死者へ呼びかけるカンタータとして作曲されているが、「生かされた」という自責の念と痛苦がコンセプトともされている。交響曲と言っても差し支えないような分厚い世界観と作り込まれた構成は、先ほどの「レクイエム」と比べると強烈な現代音楽としての姿はそこまで見られることがないため、多少聴きやすいようにも思える。打楽器奏者が8人必要であるため、打楽器の数はそれなりに他の作品と比べても圧倒的な多さとなっているがそのリズムと金管楽器、木管楽器、弦楽器が奏でる不協和音が重なることによって複雑ながら度肝を抜かれるエネルギーに満ち満ちた演奏を楽しむことができるようになっている。




・三善晃:オーケストラと童声合唱のための「饗紋」

録音:1985年7月14日(ライヴ)

 童謡「かごめかごめ」が歌詞となっている。なおこの「かごめかごめ」は現代知られている歌詞ではなく、江戸時代に記録された歌詞を使用している。1984年に民主音楽協会からの委嘱を受けて作曲され、同年に尾高忠明&東京フィルハーモニー交響楽団、東京放送児童合唱団によって初演された。第33回尾高賞受賞作品。私が今回の三部作の中で一番最初に聴き、衝撃を受けたと同時に作曲でも大きく影響を受けた曲の一つである。「レクイエム」でも強烈な現代音楽となっていたが、今回の「饗紋」はまた違う形で聴き手を恐怖させる。繰り返し歌われる「かごめかごめ」と荒々しさと爆発しているかのようなオーケストラのダイナミクス、不協和音や複雑性の強いリズムが大きな衝撃を与える。童声合唱とオーケストラでこれを演奏するという挑戦的な姿勢もそうだが、混沌とした世界観が展開されているため三部作を締めくくる曲としてはふさわしいとも言えるだろう。




 こうして「反戦三部作」が一気に演奏されるということも少なければ、1枚のCDに収録されているということも多くはない。今回久しぶりに3曲通して聴いたが、今だからこそ感じ取ることのできる意味合いがよくわかる作品であることは間違いない。現代音楽が苦手な方も多いと思うが、「反戦三部作」はぜひ一度聴いていただきたい素晴らしい作品である。


 日本の作曲家による今回のように長大な編成からなる作品は再演されることがないため、録音記録も少ない。そういう意味では昨年5月12日に山田和樹さんと都響による「反戦三部作」の演奏は多くの人々が待ち望んでいたのではないだろうか。コロナ禍もあけ、今後日本の現代音楽が1曲でも多く再演されることを願いたい。